発熱、咳、腹痛……風邪の症状は人それぞれ 認知症だって人それぞれ
《介護士でマンガ家の、高橋恵子さんの絵とことば。じんわり、あなたの心を温めます。》
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私たちは風邪をひく。
熱が上がったり、せきが出たり、おなかをくだしたり。
同じ風邪でも、皆それぞれに、
症状のあらわれ方が違うのを知っている。
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いつもは明るいこの人が、
ぼんやりして話せないのは、
今、のどが痛いから。
風邪のせいで人が変わってしまった、なんて、
誰も思わない。
症状のせい。
そんなの言わずもがな。
——でも、なんで、認知症は
そうは思われにくいんだろう。
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認知症の症状は、
千差万別。
私たちは、
認知症がある人たちの、
なにを知っているというのだろう?
たまに「認知症の人は、こんなに危険だ!」と決めつける、
ナイフで心を切り裂くような発言を、耳にします。
例えばそれを聞いたのが、
認知症をよく知らない人であれば、
「認知症になったら、こうなってしまうのか」と誤解したり、
ご自身に認知症がある人であれば、
「私もいつかはそうなってしまうのか」と
不安をあおられたりするかもしれません。
認知症の人はこうだ、と画一的に決めつけること。
それはとても、危険だと思います。
なぜならその思い込みは、
ご自身や近親者が実際に認知症と診断された際、
これからの暮らし方について、
悲観的な選択をしてしまう、ひきがねになり得るからです。
そして、なにより、
認知症がある人をあきらかに傷つけます。
私は多くの認知症がある人にお会いしてきましたが、
みなさま、症状も環境も千差万別でした。
何度書いたかわかりませんが、
穏やかなひとり暮らしを続けていらっしゃる、
認知症当事者さんは何人もいらっしゃいます。
けれど、そんなふうに穏やかに症状と共に過ごされる人は、
ニュースにもなりません。
さあ、はじまりの春です。
「認知症の人はこうだ」
そんな思い込みをひとつずつ脱ぎ捨てて、
自分自身から、やわらかな社会を広げてゆきたいものです。
《高橋恵子さんの体験をもとにした作品ですが、個人情報への配慮から、登場人物の名前などは変えてあります。》
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