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アンガーマネジメントから始まるケア

私を励ます「魔法の言葉」 怒りを和らげるために【アンガーマネジメントから始まるケア(14)】

自分の怒りを和らげる「魔法の言葉」を紹介します。アンガーマネジメントの中で筆者がお気に入りのテクニックです。介護や医療のアンガーマネジメントに詳しい横浜市立大学医学部看護学科講師の田辺有理子さんと一緒に考えてみましょう。(なかまぁる編集部)

心の中で自分にかける優しい言葉

怒ったときには、自分を落ち着かせてくれる「魔法の言葉」を唱えましょう。突然そう言われても、ちょっと怪しいですね。でも、言葉には力があります。私たちは言葉によって励まされたり、勇気づけられたり、元気になったり、落ち着いたり、傷ついたりします。怒ったときの言葉は、怒りを増幅させることもあるし、和らげることもあります。

皆さんは、幼いころ、転んで擦りむいたときや、お腹が痛くなったときにお母さんが痛いところに手をあてて「痛いの痛いの飛んでいけ〜」と言ってくれたら痛みが和らいだという経験がありませんか? こうしたまじないや呪文は日常の中にいろいろあります。普段はあまり意識しないと思いますが、よく考えてみると自分を支えてくれることもあるのではないでしょうか。

誰かに何かを言われてカチンときたとき、本人に向かって言わなくても「あいつ、勝手なことを言いやがって!」「もう! いい加減にしてよ」などと、心の中で叫ぶことがありませんか。そんなとき、誰かがあなたを慰め、落ち着かせてくれるような言葉をかけてくれたら良いのでしょうが、相手も怒っていてにらみ合いになっているようなとき、相手があなたに優しい言葉をかけてくれることは期待できません。

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聴く耳を持たないや受け流すとは違う

そこで、自分で自分に向かって、気持ちを落ち着かせて冷静さを取り戻すための言葉をかけるのです。これが「魔法の言葉」です。怒っているときではなく、いざというときのためにあらかじめその言葉を準備しておきましょう。

例えば、上司に叱られているとき、利用者や患者からクレームを受けているとき、聞いているうちにこちらも触発されて言い返しそうになったけれど、ここは堪えどころだという状況になったら、心の中だけで自分で自分に「魔法の言葉」をかけるのです。

「大丈夫」

「なんとかなるさ」

「乗り越えられる」

「頑張れ私!」

「ピンチはチャンス」

「帰りに美味しいものを食べよう」

こうしたちょっとした言葉です。

これは、自分が怒りに任せた言動で失敗しないための一時的な対処法で、上司の指導に聞く耳を持たないとか、利用者や患者の話を受け流すという意味ではありません。カチンときたときやじわじわと怒りが湧いてきたときに、自分が落ち着きを取り戻すための対処法です。

普段から自分を励ます言葉を使っている人もいますから、周りの人に尋ねてみて使えそうな言葉があれば採り入れてみると良いでしょう。すぐに思いつかなくても、考えてみたら、あの歌を口ずさむと落ち着くとか、好きなテレビコマーシャルのフレーズとか、あるいはかわいがっているペットを思い浮かべるなど、いろいろ探してみてください。自分のそばに自分を守ってくれる天使がいて、天使がささやいて自分を励ましてくれるようなイメージを作ってみるのも良いでしょう。

しかし、このような場面で相手をおとしめようとする言葉、あるいは相手の不幸を願うような言葉は控えた方が良いでしょう。それは、あなたの品格を下げるだけです。また、「最悪だ」「もうダメだ」などマイナスな言葉ばかりが浮かぶ人も、自分で泥沼にはまってしまいます。相手を悪く言ってしまう、マイナスな言葉ばかりが浮かんでしまうという人は、ここでほんの少し思考を切り替えて自分の「魔法の言葉」を作りましょう。自分が頑張れるような言葉をたくさん持っておくほうがイライラから抜け出しやすいと思います。

むちゃな仕事を頼まれたときに心の中でつぶやく言葉

私は最近、理不尽なことを言われたり、無茶な仕事を頼まれたりしたときに、将棋の対局場面のようなイメージで「むむ、そうきましたか……」とつぶやいています。「ならば、この手でどうだ」と次の一手を指すように自分の背中を押すのです。念のため書いておきますが、これは怒った相手を前にして声に出して言う言葉でなく、あくまでも心の中でつぶやく言葉です。

次回は、「私の『期待値』」をテーマに考えていきます。

【終了しました】田辺有理子さんを講師に招き、セミナーを開催します

なかまぁる編集部では、アラフィフや50代のLIFE SHIFT世代を対象にした「project50s」を始めました。コンテンツ&セミナーを基本とし、みなさんに満足度の高い情報をお届けします。

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田辺有理子(たなべ ゆりこ)
横浜市立大学医学部看護学科講師
精神看護専門看護師、保健師、精神保健福祉士、公認心理師
一般社団法人日本アンガーマネジメント協会アンガーマネジメントファシリテーター(R)
看護師として大学病院勤務を経て、2006年より大学教員として看護教育に携わり、2013年より現職。医療・介護・福祉分野を中心に、介護ストレス、虐待防止などに関して、アンガーマネジメントやメンタルヘルスなどの研修、情報発信を行っている。
単著「イライラとうまく付き合う介護職になる! アンガーマネジメントのすすめ」(中央法規出版,2016)、「イライラと賢くつきあい活気ある職場をつくる 介護リーダーのためのアンガーマネジメント活用法」(第一法規,2017)、「ナースのためのアンガーマネジメント 怒りに支配されない自分をつくる7つの視点」(メヂカルフレンド社,2018)、「怒った人に振り回されない自分をつくる ナースのためのアンガーマネジメント2」(メヂカルフレンド社,2022)、共著「精神に病をもつ人の看取り:その人らしさを支える手がかり」(精神看護出版,2021)、雑誌「介護人財」(日総研出版)で2021年5月から「ゆりこ先生のちょっとこころを軽くする話」を連載中。

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