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アンガーマネジメントから始まるケア

怒る基準を持とう 不要な怒りを減らすために【アンガーマネジメントから始まるケア(6)】

不要な怒りに振り回されていませんか?

怒るときの基準を持つと、その時々の機嫌に左右されて怒ることを回避できるようになります。介護や医療のアンガーマネジメントに詳しい横浜市立大学医学部看護学科講師の田辺有理子さんと一緒に考えてみましょう。(なかまぁる編集部)

機嫌に左右されないようにするために

仕事や日常生活で怒ることがあっても、その判断基準は曖昧(あいまい)なものです。日常よく遭遇する出来事でも、その時々で反応や対応が異なります。あるときは怒っても、別のときには受け流すことがあります。ささいなことに怒って無駄にエネルギーを消耗するようなこともあるのではないでしょうか。アンガーマネジメントは、不要な怒りに振り回されず、怒る必要があるときに上手に怒ることを目指します。そのためには、怒るか怒らないかの判断基準を明確にしておくことが肝要です。

この判断を曖昧にしている原因はいくつかありますが、その一つは「機嫌」です。

例えば、子どもがリビングに次々とおもちゃを出してきて遊んだあと、散らかしたままにしていたとします。「お片付けしましょうね」とにこやかに声をかけ、子どもと一緒に片付けられる日もあれば、気持ちに余裕がなくて「もう! さっさと片付けなさい!」と怒鳴ってしまう日もあるのではないでしょうか。

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機嫌で怒鳴られていたら機嫌をうかがう人間になってしまう

状況や相手によって対応が変わることもあります。友だちが一緒に遊んでいたら「○○くんは元気がいいのね」などと褒められたりするかもしれません。子どもの立場では、どのように映るのでしょうか。同じように遊んでいるのに、怒鳴られるときもあれば、穏やかなときもあるのでは、子どもは混乱します。そのうちにお母さんの機嫌におびえる子どもになってしまうかもしれません。

怒らなければ良いわけではありません。必要なときに上手に怒るために、怒る基準を意識しておくことで、機嫌に左右されなくなります。

「夕食の時間までに片付ける」などルールを作って同じ条件で声をかける、あるいは「一度声をかけたら30分は待つ」など、自分のルールを決めておくだけでも、機嫌で怒ることを回避できるでしょう。

不要な怒りを減らすために

場面を介護や医療の職場に移してみましょう。スタッフステーションで記録をしながら同僚と話していたら、先輩スタッフが入ってきました。普段なら「なんの話?」と会話に入ってくるのに、今回はいきなり「おしゃべりしていないで働きなさいよ!」と一喝されたとしたら、どうでしょうか。怒られたことが正当かどうかよりも「あの人、今日は虫の居所が悪いな」と思うのではないでしょうか。これが、就職して間もない若手のスタッフだったら、子どもの例と同様に、先輩の顔色ばかりを気にするようになってしまうかもしれません。

ここで先輩スタッフの怒りを分析してみましょう。職場で怒る基準がその時々の機嫌に左右されるようでは、人間関係にも影響します。怒りが生じたとき、ほんの少し立ち止まってこの基準を考えてみて下さい。もし、業務が忙しく気持ちに余裕がない状態のところに、他のスタッフが談笑していたのが目に留まってカチンときたとしたら、それは機嫌に左右された怒りでしょう。業務が忙しく時間に追われて焦っていたことが怒りの原因なら、スタッフが話していたことに怒るのは不要な怒りです。

◇参考:「怒りの背後の感情をみてみよう」(https://nakamaaru.asahi.com/article/14716133

怒ることは怒鳴ることではありません

そのときの機嫌に関わらず、仕事中の私語を控えて欲しいのなら、それは一つの判断基準になります。業務の相談は怒らない、私語なら怒ると決めたら、その基準に該当したら毎回怒れば良いのです。ここで怒ることは怒鳴ることではありません。「仕事中は私語を控えてください」と伝えるだけです。

一方で、私語や雑談のなかに仕事のヒントが隠れている、仕事中の雑談は職場のチームワークを良好に保つために必要なことと考えている人もいます。また、話すことは構わないけれど利用者や患者の前では控えて欲しいという考えもあるでしょう。

怒りが生じたとき、それは「怒ること」なのか、「怒らなくてもよいこと」なのか、その判断基準を改めて考えてみましょう。

次回は、「怒りの表現力」について考えていきます。

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田辺有理子(たなべ ゆりこ)
横浜市立大学医学部看護学科講師
精神看護専門看護師、保健師、精神保健福祉士、公認心理師
一般社団法人日本アンガーマネジメント協会アンガーマネジメントファシリテーター(R)
看護師として大学病院勤務を経て、2006年より大学教員として看護教育に携わり、2013年より現職。医療・介護・福祉分野を中心に、介護ストレス、虐待防止などに関して、アンガーマネジメントやメンタルヘルスなどの研修、情報発信を行っている。
単著「イライラとうまく付き合う介護職になる! アンガーマネジメントのすすめ」(中央法規出版,2016)、「イライラと賢くつきあい活気ある職場をつくる 介護リーダーのためのアンガーマネジメント活用法」(第一法規,2017)、「ナースのためのアンガーマネジメント 怒りに支配されない自分をつくる7つの視点」(メヂカルフレンド社,2018)、「怒った人に振り回されない自分をつくる ナースのためのアンガーマネジメント2」(メヂカルフレンド社,2022)、共著「精神に病をもつ人の看取り:その人らしさを支える手がかり」(精神看護出版,2021)、雑誌「介護人財」(日総研出版)で2021年5月から「ゆりこ先生のちょっとこころを軽くする話」を連載中。

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