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アンガーマネジメントから始まるケア

一人で介護しているあなたへ 少し心を軽くする小さな行動を【アンガーマネジメントから始まるケア(18)】

このがんばりはいつまでも続くのだろうか――。在宅介護では介護者が孤立し、追い詰められた気持ちが募り、周囲もそこをリアルタイムでくみ取ってあげられないことから、各地で悲劇が起きています。孤独感やストレスに押しつぶされそうになった家族介護をする人たちに、横浜市立大学医学部看護学科講師の田辺有理子さんからのアドバイスです。(なかまぁる編集部)

人の心の内は思うように伝わらない現実

毎日続く介護に独りで奮闘されている方もいらっしゃるのではないでしょうか。介護をしている相手から感謝の言葉があるかといえば、そうならない状況もあります。例えば、認知症が進んで会話が成り立たない、自分のことを認識してもらえない家族に話しかけ続けている人もいるでしょう。懸命に世話をしているのに、拒絶されたり罵倒されたりしたら報われません。使用人のように扱われていると感じるかもしれません。他の家族やきょうだいが手伝ってくれないということもあるかもしれません。

孤独を感じ、イライラが募っても、それをどのように消化すればよいのかわからない。この満たされない心に誰かが気づいてくれるだけで、一言ねぎらってくれるだけで頑張れるのに……。

周りの誰かにがんばりをたたえてもらえたり、ねぎらってもらえたりしたらよいのですが、現実には人の心の内は思うように伝わりません。

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介護といっても一人ひとり経験することが違うこと知って

自分にごほうびをつくる

高齢社会の日本では、多くの人にとって介護が身近なことになっています。一方で経験する内容は一人ひとり違います。「みんながやっていることなのに、こんなこともできないなんて自分はダメだ」と自分で自分を責めたりしないでください。

「私は、よく頑張っている」と自分で自分を認めましょう。

自分でねぎらい自分にごほうびをあげるという選択肢をもってください。自分自身が心身を健康に保つことが最優先です。

好きなテレビドラマを観る時間をつくる、好きなお菓子を食べる、ゆっくりとお風呂に入るなど、日常の小さな楽しみを準備しておくのもおすすめです。

助けを求めてください

自分を追い込む必要はありません。誰かに助けを求めることはあなたの権利です。話を聞いてもらうだけで気持ちが軽くなるなら話を聞いてもらいましょう。

デイサービスやショートステイなど使えるサービスを積極的に相談してみましょう。家族介護をするなかで介護サービスを利用することに抵抗がある人もあります。介護に手を抜いているように感じて罪悪感を抱くこともあるかもしれません。私が世話をしなければという責任感と心身の疲れとの間で迷う気持ちがある場合も、専門家に相談してみることで、解決の糸口が見つかることがあります。

組織・社会で介護者を守る

介護に疲れて、イライラして、厳しく当たってしまい、自己嫌悪に陥り、介護がつらくなる――。

こうした悪循環から抜け出すためには、介護者自身がストレスに対応できるようになることが大切です。しかし、自己管理には限界があります。介護者自身の自助努力に頼るのではなく、介護する個人に過剰な負担がかからないように体制をつくることが不可欠です。

介護施設などの職場では、組織的に職員に過剰な負担がかからないように配慮することが求められます。人員配置や労務管理で組織を健全に運営すること、対応が難しい対象者については、対応を交代する、あるいは複数でかかわるなどの工夫で個人の負荷を軽減することも大切です。

家族の負担や関係性の改善は第三者に調整してもらおう

家族で介護をしている人は、代わってくれる人などいないと感じるかもしれませんが、家族による介護も、1人に負担がかからない工夫が求められます。介護保険制度は、介護を社会全体で支えようとする仕組みです。「家族が介護しなければならない」という考えから、介護サービスを活用しながら保険によって介護負担を軽減する社会へ、すなわち個人の介護負担を社会全体で軽減する体制が整えられてきました。

介護をしていると、介護する相手との関係が行き詰まる、他の家族や親族に協力を得られない、介護サービスを提供する介護職員との関係など、人間関係のストレスから介護者が孤立してしまう懸念もあります。しかし、介護する人の自己犠牲では、いずれ立ち行かなくなります。人との関係においては、誰かに調整してもらうことが有効な場合もあります。

自分が生き生きと生活できることで介護にも前向きになれます。それが介護される人にとっても良い影響を与える好循環をつくります。イライラしながら関わるよりも、家族が笑顔でいるほうが、介護される側も安心できます。ちょっとした考え方の切り替えや行動で気持ちを楽になるのなら、試してみてはいかがでしょうか。

【終了しました】田辺有理子さんを講師に招き、セミナーを開催します

なかまぁる編集部では、アラフィフや50代のLIFE SHIFT世代を対象にした「project50s」を始めました。コンテンツ&セミナーを基本とし、みなさんに満足度の高い情報をお届けします。

12月25日(日)には、田辺有理子さんを講師に招き、午前中は一般向け、午後は介護者向けの有料セミナーを開きます(申し込みは別)。詳しくは下記のバナーをクリックしてください。

◆午前セッション(https://project50s1seminar.peatix.com)

◆午後セッション(https://project50s2seminar.peatix.com)

田辺有理子(たなべ ゆりこ)
横浜市立大学医学部看護学科講師
精神看護専門看護師、保健師、精神保健福祉士、公認心理師
一般社団法人日本アンガーマネジメント協会アンガーマネジメントファシリテーター(R)
看護師として大学病院勤務を経て、2006年より大学教員として看護教育に携わり、2013年より現職。医療・介護・福祉分野を中心に、介護ストレス、虐待防止などに関して、アンガーマネジメントやメンタルヘルスなどの研修、情報発信を行っている。
単著「イライラとうまく付き合う介護職になる! アンガーマネジメントのすすめ」(中央法規出版,2016)、「イライラと賢くつきあい活気ある職場をつくる 介護リーダーのためのアンガーマネジメント活用法」(第一法規,2017)、「ナースのためのアンガーマネジメント 怒りに支配されない自分をつくる7つの視点」(メヂカルフレンド社,2018)、「怒った人に振り回されない自分をつくる ナースのためのアンガーマネジメント2」(メヂカルフレンド社,2022)、共著「精神に病をもつ人の看取り:その人らしさを支える手がかり」(精神看護出版,2021)、雑誌「介護人財」(日総研出版)で2021年5月から「ゆりこ先生のちょっとこころを軽くする話」を連載中。

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