早く、早く……介護が「業務」になり、見失ったもの ハットしたある日の私
《介護士でマンガ家の、高橋恵子さんの絵とことば。じんわり、あなたの心を温めます。》
介護士の吉田くんは、仕事が遅い。
ゆっくりじっくり、
相手に合わせるから。
「吉田くんがいると、仕事が進まない」
同僚の陰口に、吉田くんは聞こえないふりをする。
そうでもしないと、
仕事を続けていけないから。
「吉田くん、早くお風呂にいれて」
「吉田くん、早く食事をさせて」
「早く早く早く」
それでも、吉田くんは、
隣の人を大切に。
介護職に、
手際のよさやスピードは、
あって当たり前。
介護現場で働いていたとき
勤務の慌ただしさに、
いつの間にかそんな考えが
私に定着していました。
だから「吉田くん」のような同僚に、
「早く動いてほしい」と
イライラすることがありました。
でも、ある日。
新しく来たリーダーが言いました。
「まだ仕事が終わってないなら、休憩時間をずらそう」
「○○さんが今、お風呂に入りたくないなら、別日に声をかけようか」
「吉田くん、最後まで○○さんの話を聞いてあげて」
はっ、としました。
いつの間に私は、
人として当たり前の思いやりを、
失ってしまったのか。
私は、忙しさを言い訳に
高齢の方々や心あるスタッフを、
ないがしろにしていました。
そして私は、
私自身の心さえも、見失っていました。
介護が「業務」になるとき。
人は心を失います。
でも本当は私だって、
いつも吉田くんになりたかった。
今この時もきっと、誰かの隣にいる、
全国各地の「吉田くん」に敬意を込めて。
《高橋恵子さんの体験をもとにした作品ですが、個人情報への配慮から、登場人物の名前などは変えてあります。》