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必要なサポートが得られない、出会えない、だから…認知症カフェと家族のリアル

1月31日(日)、Facebook上で「認知症カフェこれから会議」の第6回オンラインシンポジウムが行われました。今回のテーマは「家族」。認知症に関する最も古くて、常に新しい永遠のテーマの一つです。
パネリストには「家族」という視点を共有しながらも立場や活動の方向性が少しずつ異なるみなさんにお願いしました。互いの差異と共通点、それぞれの選択と思いについて対話が行われることで、私たちが新たなコンセンサスを得られるよう期待してのことです。

パネリスト

岩井美苗さん(「ささえあいカフェ Smile a Smile」代表、群馬県安中市)
下村達郎さん(浄土宗・香念寺住職、「介護者の心のやすらぎカフェ」主催、東京都葛飾区)
多田美佳さん(一般社団法人「はるそら」代表、岡山県岡山市)
三橋良博さん(「認知症の人と家族の会」神奈川県支部世話人、若年性認知症家族会「彩星の会」世話人、神奈川県横浜市)

自己紹介 「カフェへの失望」も飛び出す

2016年に実の母親が認知症の診断を受けた岩井美苗さん。2017年から群馬県安中市松井田町のコミュニティカフェを借りて月1回「ささえあいカフェSmile a Smile」(通称「スマスマ」)を開催しています。岩井さんを含む3人の介護家族ではじめた手作りカフェの様子は2019年3月に「コッシーのカフェ散歩」でも取り上げました。

下村達郎さんは浄土宗・香念寺(東京都葛飾区)の若き住職です。自らは介護者という立場ではありませんが、5年前から香念寺において「介護者の心のやすらぎカフェ」という場を主催してきました。こちらも2020年2月に「コッシーのカフェ散歩」で取り上げています。

42歳という年齢で夫が認知症と診断された多田美佳さん。2019年、若年性認知症支援に取り組む一般社団法人「はるそら」を自ら立ち上げました。認知症カフェではない道を選択した背景にはカフェの現状への「失望」体験があったといいます。

若年性アルツハイマー病と診断された妻と父母を同時進行で介護してきた三橋良博さんは「認知症の人と家族の会」神奈川県支部と若年性認知症家族会「彩星の会(ほしのかい)」という歴史ある2つの会で世話人を務めています。家族会の「つどい」の運営や認知症カフェに携わってきた有数の経験者です。

情報にたどりつけず、孤独のあまり…

シンポジウムは冒頭の自己紹介から、早くも本質に迫る対話が行われました。

まず岩井さんが母親の認知症診断直後にどこからも情報が得られず、行政の窓口に行っても「どうしたらいいかわからない」という状態だったと振り返りました。すると、多田さんも自らの「たらいまわし」経験を語ります。若年性認知症について各所で「聞いたことがない」「前例がない」と言われ必要な情報・サポートにたどり着けなかったそうです。バックアップのないまま子供たちとともに夫の介護を続けていたものの、一時は「孤独のあまり死さえ考えた」と明かしました。

三橋さんは家族会の存在は知っていたものの、長いこと参加できなかったそうです。受け入れてもらえるかという不安や、男性介護者という自らの立場が恥ずかしいものなのではないかという躊躇があったといいます。

ここで語られたのはいわゆる「空白の期間」といわれる問題です。病院にかかり認知症の診断を受けるまでのケアの不在と、診断以後の情報提供の不在などをあわせて指摘されてきた制度の隙間でもあります。 認知症カフェだけでなく、各自治体で作っている認知症ケアパスや初期集中支援チームが置かれた目的にも関わる部分ですが、いまだ課題が残されているといわざるをえません。

なお第5回シンポジウム登壇者の丹野智文さんが地元・仙台市で行っている診断直後の当事者・家族へのサポート活動について、Facebookグループにリアルタイムで書き込んでくださいました。制度・非制度問わず、優れた各地の活動に注目が集まることを期待します。

大事にしたい「フラット」な関係

モデレーターである私(本稿著者・コスガ聡一)に促され、多田さんが認知症カフェへの「失望」体験を語りはじめます。

まず、通っていた施設で行われる認知症カフェで介護予防的な体操や認知症にならないための講話に参加させられることを多田さんの夫が嫌がっていた話。さらに、自身や友人たちがカフェを訪れた際、他の参加者から取り囲まれ尋問されるような処遇を受けた話など。「善意があって聞こうとするのだろうけれど、関係性ができていなければ言えないこともある」と多田さん。

三橋さんは、意を決して門を叩いた家族会であたたかく迎えられた経験を語りつつ、認知症カフェの現状については「履歴書を書くように細かく聞き取りしなくてもいいと感じることもある」と述べました。介護当事者ではない立場で家族の声を聞き続けてきた下村さんも「詮索しないこと」を心掛けているといいます。カフェ名に「介護者」とつけているものの、そもそも誰が「介護者」であるかを決めつけないようにしていること、回数を重ねるにつれ、それまで言えなかったことも切り出せるようになるかもしれず、そのために、「会を継続していくこと」を大事に考えている」と語りました。

さらに対話が一巡する中でキーワードとして挙がったのが「フラットな関係」という言葉。「話を聞いてあげる」「支援してあげる」という上からの姿勢を、本人・家族は敏感に感じ取っていると多田さんは指摘しました。

すると下村さんが「ちょっとだけお坊さんっぽいことを言うと」と断ったうえで、人には段階に応じて役割があり、経験を伝える側と聞く側という関係も入れ替わりうるという考えを述べ、「上から正解を押し付けるのではなく、お互いに語り、お互いに聞き合っていきましょう」と締めくくりました。

認知症カフェは葛藤を可視化する

「家族」という立場をめぐり、人々の間に心理的な葛藤が起こるのは、そこに私たちが克服すべきスティグマがあるからです。一方、その葛藤が可視化されるのは認知症カフェという新たな場で、人々の出会いがあればこそでもあります。今回のシンポジウムのような対話やカフェでの「出会いなおし」の体験を積み重ねて、社会全体の認知症に関する認識を更新していければいいと思います。ひいてはそれがあらゆる人にとって生きやすい世の中の実現に寄与するはずです。

次回は全員集合でごちゃ混ぜ!

次回「認知症カフェこれから会議」オンラインシンポジウムは、いよいよ最終回。これまでの登壇者すべての方に声を掛け、にぎやかに「ごちゃまぜ」を体現したいと思います。下記、Facebookグループに参加(無料)すると、これまで開催されたオンラインシンポジウムもすべて視聴することができます。多くの方の参加をお待ちしています。

フェイスブック「【認知症カフェ】これから会議withなかまぁる」グループページ

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