もめない介護

認知症だと新聞は不要?年齢も老眼も関係なしの必要性 もめない介護98

アパートに置かれた自転車
コスガ聡一 撮影

いつまで新聞をとり続ける? それは認知症介護が始まった当初から悩みの種のひとつでした。義父にとって新聞を読むのは朝の日課で、朝日新聞と日経新聞の2紙を読み比べるというのも以前からの習慣でした。朝刊、夕刊が2紙分届くので、捨てても捨てても、あっという間に新聞がたまっていきます。たまに捨てるのを手伝う程度ではとても追いつきません。

「せめて、どちらか片方に減らすってできないのかな。どう思う?」
「昔からの習慣だからな……」
夫に相談しても、リアクションは芳しくありません。義父母に会ったときに、思い切って聞いてみることにしましたが……。

わたし 「新聞ってやっぱり、2紙あったほうがいい感じですか」
義父 「そうですな」
義母 「新聞をふたつもとってると、捨てるの厄介よねえ。どちらかやめたら?」
義父 「それはない!」

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義母が何か察したのか、単なる偶然なのか、援護射撃をしてくれましたが、義父はすげなく却下。機嫌を損ねるリスクを負ってまで説得するほどの話でもないと判断し、ひとまず撤退することに。その後も何度か、義父の機嫌がよさそうな時を狙って、「ところで、新聞は……?」とお伺いと立ててみましたが、「新聞は2紙とりたい」という義父の意志は変わりませんでした。

訪問介護の導入を渋っていた義父の「おーい」

ただ、義父自身も、古新聞の処分には閉口していたようです。訪問介護(ホームヘルプ)がスタートした初日、担当のヘルパーさんが到着するや否や、義父は無言でリビングを離れました。義父にも了承を得た上での訪問介護の導入でしたが、気が変わったのか腹を立てているのかと気をもんでいると、2階から「おーい、おーい」と義父が呼ぶ声がします。

何ごとかと思って見に行くと、義父が大量の古新聞の束を引っ張り出し、階段から下ろそうとしている真っ最中でした。ヘルパーさんの訪問を迷惑に思っていたどころか、「せっかくなら、たまった古新聞の処分を手伝ってもらいたい」と大奮闘していたとのことでした。

手際よく古新聞の仕分けやゴミ出し準備を手伝ってもらったことで、義父はご機嫌。義母と一緒に「さすがプロですな!」とヘルパーさんをほめたたえ、知らない人を自宅に入れるのは……と渋っていた人とは思えないような歓待ぶりです。納得の上で来てもらったはずだけれど、「帰ってください!」となる可能性もゼロではなく、もしトラブルになりそうなときに備えて、この日は念のため私も夫の実家で待機していました。だけど、ふたを開けてみれば想像以上に平和な介護サービスのスタートとなったのです。

このときばかりは大量の古新聞に感謝!という気持ちでいっぱいでした。

差し入れはノートと鉛筆、そして新聞

その後も、「ごみ捨てを考えるなら、新聞の量は減らしたい」と思う瞬間は何度もありました。でも、義父の“新聞愛”を思うと言い出せず……の繰り返しでした。

義父が肺炎で緊急入院したとき、「差し入れは何がいいですか」と尋ねると、真っ先にリクエストされたのがノートと鉛筆、そして新聞でした。「メモをとらないと忘れてしまう」「世の中のことを知っておく必要がある」というのがその理由です。実際、義父は認知症だと診断された後も、世の中で起きている事件やニュースに関心が強く、最近の話題をよく知っていました。

介護老人保健施設(老健)に一時入所した際、入所にあたっての診察の場で、認知症の進行具合のチェックのためか「いまの首相は誰ですか?」と医師に尋ねられたときも即答。義父が「楽しみは新聞を読むことです」とも答えるのを聞きながら、無理に新聞をストップしなくてよかった……と、胸をなでおろしたものです。

義父母がどこまで紙面の詳細を読んでいたのかは、わかりません。老眼で視力も落ちていただろうし、義母に至っては老眼鏡もかけていませんでした。もしかしたら、見出しにさらっと目を通す程度だったのかもしれません。それでも、義父にとって新聞を読むことは大切な日課のひとつでした。入退院を繰り返す中でも、「売店で何か買ってきましょうか」と声をかけると、たいてい「新聞とチョコレート」というリクエストが返ってきました。義母も、義父が読み終わった新聞を「お次はわたしね」と、いそいそと受け取るのが常でした。

要・不要を単純に決めつけない

家族の立場からすると、「もう“いい年”だし、捨てるのも大変なら、新聞をとるのはやめたほうが……」と考えてしまうこともあります。まったく読んでおらず、古新聞だけがたまっていく状態であれば、思い切ってやめてみるのも手かもしれません。また、本当はご本人も新聞をとるのをやめたいのに、断り方がわからなくなっていたり、強引に勧誘されたりして、契約してしまっていたという可能性もあります。

離れて暮らしていると、こうした親の変化や実情を見逃しやすくもあります。「年を取ったから」「認知症だから」という理由で要・不要を決めつけることなく、まずは「最近、新聞読んでる?」「新聞、どうしてる?」と現状を聞いてみることをおすすめします。思いがけないこだわりがあったり、なかったり。知らなかった親の横顔を知る機会になるかもしれません。

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