専門医どう見た?コロナ禍の認知症の人への影響。感染予防と良質ケアの両立は?
取材/月舘彩子
日本認知症学会は、所属する認知症専門医らに向けたアンケートで、新型コロナウイルスの流行が認知症の医療や介護に与えた影響を調べ、結果を公表した。認知症の人の外出や医療機関への受診が減り、症状悪化の懸念が指摘されてきたが、多くの専門医がこうした現実を目の当たりにしていることが裏付けられた。
アンケートは5月下旬から2週間、同学会に所属する認知症専門医1586人にメールで送られ、無記名回答もあったが、確認できるだけで46都道府県の357人から回答があった。
認知症の人の症状の悪化について問う質問では、「(症状悪化を)多く認める」「少数認める」と回答した専門医が全体の40%を占めた。悪化したのは、記憶や判断、言語といった「認知機能の悪化」を選ぶ回答が47%、意欲の低下など行動心理症状(BPSD)が46%だった。「うつ症状が出る人が増えた」「施設で家族との面会が中止になり不安定になった」など、外出自粛や環境の変化による混乱や筋力低下を指摘する声があった。
病院やクリニックへの受診の頻度が「減少した」との回答は82%にのぼった。減った理由としては、「患者側が受診をためらう」という選択肢を選んだ回答が57%だった。「医療機関側が制限している」という回答は9%にとどまっており、移動中や医療現場での感染を不安に感じる認知症の人や家族らが、受診を控えたとみられる。
外来診療が抑制されるなかで、行動心理症状(BPSD)に対応する外来診療については83%が「抑制していない」と回答した。だが、診療や介護サービスを補う役割を担う認知症カフェや家族会などの集まりには大きな影響があった。
たとえば、専門医らが勤務する施設で開かれる認知症の人や家族を対象とした集まり(サロンなど)については、「開催されていない」という回答が81%を占めた。
初期集中支援チームや地域包括支援センターの訪問活動のような、医療機関や施設などから支援を働きかける「アウトリーチ」活動については、ほぼ全ての回答が「新規対応のみ抑制」「全般的に抑制」「中止」のいずれかの選択肢を選び、大きく活動が制限されていることがわかった(ただ、全体の回答の7~8割は「元々行っていない」や「無回答」だった)。
認知症カフェや家族会、地域の見守り活動など、認知症専門医以外の人が主体的に実施している「インフォーマルサービス」についても、専門医が得ている情報としては「著しく減少」「やや減少」との回答が46%に上った。
同学会の秋山治彦理事長(横浜市立脳卒中・神経脊椎センター臨床研究部長)は「介護度が低く、介護サービスを利用できない軽度認知障害の人らは、こうしたインフォーマルサービスに支えられてきた。抑うつ傾向や意欲が低下するなどの影響が出ている人もいると聞く」と話す。認知症の医療や介護の現場では、感染対策に本人の理解を得ることが難しい場合もあり、感染リスクに応じた体制の整備は容易ではない。秋山さんは「認知症の人にはスキンシップや耳元で話すことも多い。人と人との距離を保つなどのやり方がなじまない」と指摘する。
介護者がマスクやフェースガードをすると、表情が見えなかったり、声が聞こえにくくなったりするため、親しくしてきた人でも認知症の本人からは分からなくなることもあるという。「感染防止のため」と説明しても、忘れたり、なぜそういうことをしているのかを理解が難しかったりする状態の人もいる。
専門医らが最も望むことはコロナの終息だ。秋山さんは「早くコロナの感染を気にせずに認知症の医療や介護ができるように、感染の速やかな沈静化を願っている。それまでは、感染拡大防止策を取りながら質の高い認知症介護や医療ができるよう検討し、やれることを増やしていくしかない」と語る。調査をとりまとめた藤田医科大の新美芳樹講師は「認知症診療の現場でオンラインがどこまで使えるかわからないが、今後考えて行かなければならない現場の様々な知恵を集めて共有するような、事例集を出すことも検討している」と話している。