ハイスペ80代の介護レク「Shall We?」あるある探検隊の活動報告55
構成/福光恵
「あるある探検隊」のリズムネタで一世風靡したお笑いコンビ・レギュラーの松本くんと西川くんは、いま全国の介護施設をまわって、お年寄りたちを笑顔にする活動をしています。ところがここ数カ月、世界的に流行する新型コロナウイルスの影響で、思うように活動ができません。今回は、前回に続いて、レギュラーの2人が介護レクリエーションを学んだ「スマイル・プラスカンパニー」の師匠たちと一緒に、利用者さんたちの“教養”をくすぐるレクについて考えました!
関西の介護施設に入居している80代のAさんは、介護レクリエーションのときに不機嫌なことが多かった。冒頭のアイスブレイクの最中も、講師の言葉にチャチャを入れて突っかかってくる。つまり、“講師泣かせ”の利用者のひとりである。
この日も、講師が施設のあるB町の「あるある」について話していると、こんなツッコミを入れてきた。
「それはあんたの住んでるC町の話やろ。ここはB町、C町とはぜんぜん違う」
「そうなんですか? じゃあ、Aさんの知っているB町はどんな町なんでしょう?」
講師がすかさず切り返すと、自分が知るB町の歴史から住人の特徴、産業構造までレクチャーを始め、別人のように生き生きと話し続けるAさん。同時に、その知識の深さに講師も驚いたのだという。
関西の別の施設では、こんなケースも。
80代の男性Dさんは要介護度が高く、話すこともままならない。車いすで介護レクに参加していたが、講師の呼びかけにもなかなか反応はなく、ずっと黙って座っているだけのことも。ましてや、ゲームなどを一緒に楽しむことは難しい状態だった。
そんなある日、講師はDさんが「帝大(現東大)卒」であることをスタッフから聞く。当時の帝大生は英語やドイツ語を学び、かなりのインテリ層だったはず。もしかしたら、ダンスの趣味などもあったかもしれない――。
そう考えた講師は、次のレクリエーションでドイツのクラシック曲をかけ、映画「Shall we dance?」のようにDさんの前に手を差し出して、こう誘ったのだという。
「一緒にダンスをしませんか?」
ハッとしたように視線を合わせるDさん。その手を取り、車いすの上でダンスをするようなそぶりを始めたという。ふだんは言葉がしゃべれないDさんだが、歌を歌うように声も発していた。記憶の奥からフッとよみがえったドイツ語の歌詞だったようだ。
レギュラーの2人が介護レクリエーションを学んだ“母校”、「スマイル・プラスカンパニー」の玉城梨恵さんがこう語る。
「これは、うちの介護レク講師の経験談です。当時大学を卒業された方や、学識豊かな利用者さんはたくさんいます。そういう方々に向けては、知識欲をくすぐる会話をきっかけにレクリエーションを行うと、ハッと顔色が変わることがあります。認知症だから簡単なことしかできないと決めつけるのではなく、その人たちの人生を尊重することが大切なのです」
松本くん 「Shall we dance?」の話は印象的やったね。まさしく、ウソみたいなホントの話や。
西川くん その人が積み重ねてきた教養をくすぐって“やる気”を引き出すこういうやり方は、まさに「大人のレクリエーション」ならではやね。同じ路線では、和歌や俳句、川柳なんかをテーマにしたゲームも効果的だと、玉城さんが言ってたな。
松本くん 和歌や俳句なんて、利用者さんには難しくてハードルが高すぎると思ったけど、それは僕らの世代の話らしいで。むしろ、施設にいるおじいちゃんやおばあちゃんにとって、百人一首の和歌や俳句みたいな古典は一般教養。かつては日常的に接していたものやからね。
西川くん たとえば、「目に青葉といえば?」と声をかけると「山ホトトギス、初鰹」と、当たり前のように続きが返ってくる。そこで「それって何でしたっけ?」と聞くと、「知らんのか! 初夏に人気が出るものを詠んだ江戸時代の俳句でな」とか説明してくれて、記憶を引き出すきっかけになるってわけや。
松本くん 介護レクの基本は、利用者さんが主役になってもらうことやからね。利用者さんから教えてもらう、っていう形にもっていくことは大切や。かと言って、だれかれ構わず「Shall we dance?」とか声をかけたら怒られそうやけどね(笑)。
西川くん だから介護レクでは、その日の参加者がどういうタイプの人なのか、最初にある程度見極めないとあかん。最初にやるアイスブレイクは、緊張している場の空気をほぐすためだけじゃない。「同時動作、同時発声」って言われるけど、参加者みんなで一斉に体を動かしたり、一斉に声を出したりすることで、その日の手ごたえを確認するんや。
松本くん 今日の利用者さんは、なに言ってもピクリとも動かへんとか、逆にノリがやたらにいいなあとか。
西川くん そうしたなかで大学を卒業していたり、会社役員をしていたなどということを耳にしたら、簡単な英語のクイズをやったり、和歌をやったり、利用者さんの教養をくすぐるレクリエーションを織り交ぜてみるのも効果的なんやね。
松本くん たしかに、玉城さんに言われるまで、そんなこと考えもしなかったわ。
西川くん だから有名な季節の和歌などは、いくつか覚えておくといいって玉城さんが言ってたな。そうした“教養”で、利用者さんたちも一目置いてくれるみたいや。
松本くん 川柳の穴埋めクイズっていうのも、なかなか頭を使うけど面白いよな。たとえば、夏の思い出をテーマに話しているときに「願い事、欲張りすぎて……さて、なんでしょう?」みたいな。正解は、「笹折れる」だって。
西川くん なるほど! 七夕の短冊か! うまいこと言うなあ……って川柳に感心してる場合やないで。なかには和歌や短歌、川柳なんかのネタになると、急に元気になる利用者さんもいるっていうから、これはうまくやれば宝の山かもしれへんで。
松本くん 西川くん、それはたしかにアルな!