さんまサンはやっぱり別格。プロが教える場の作り方 あるある探検隊の活動報告67
構成/福光恵
「あるある探検隊」のリズムネタで一世風靡したお笑いコンビ・レギュラーの松本くんと西川くんは、いま全国の介護施設をまわって、お年寄りたちを笑顔にする活動をしています。ところがここ半年以上、新型コロナウイルスの影響で思うように活動ができません。かたや施設では、スタッフたちが慣れない介護レクリエーションのネタ探しに一苦労している様子。そこで今回は、レギュラーの2人がこれまでの活動で培った、盛り上がる介護レクの“入り方”を紹介。プロの芸人ならではの“ルーティン”とは!?
「西川くん、テンション上げていこうな!」
レギュラーの2人が本業のお笑いステージで舞台に登場する直前、松本くんは舞台袖で足や腕の軽いストレッチをしながら、西川くんに必ずこう声をかけるという。なんの変哲もない、漫才コンビだったら当たり前の呼びかけのように聞こえるが、実はこれが“ルーティン”の始まり。
「どうも〜!」
「拍手〜!」
小走りで舞台に出ていきながら、自分たちのテンションもマックスまで盛り上げる。こうすることが、会場の空気を“漫才を見る”モードに切り替える重要な手順なのだ。
「ステージは何と言っても、いちばん最初がいちばん大事です。自分たちがテンション高く入ると、お客さんたちもグッと見てくれる」(松本くん)
実はこれ、介護レクリエーションのステージでもまったく同じ。舞台と客席が近い施設のステージでは、なおさら演者の空気感が伝わりやすい。自分たちが拍手しながら登場するだけでなく、ときには利用者たちの間をハイタッチしながら入っていくパターンなど、いかに会場のテンションを上げるか工夫しているという。
「漫才も介護レクも、にぎやかな人が来て何か楽しいことが始まりますよ、という雰囲気をつくることが大事。自分たちはいつも、場の空気を変えることを意識しています。とくに施設の介護レクでは、最初から声もリアクションもいつもより大きくすることに気をつけてますね」(同前)
施設での介護レクを始めたばかりころ、2人はこの“テンション”を封印していた。というのも、利用者たちを驚かせてはいけないと考えていたからだ。静かに歩いて舞台に登場し、「すみません。僕ら芸人やってますけど……」と、ごくふつうのテンションで自己紹介していたという。
「でも、それだとどうにも盛り上がらない。それで何度かやっていくうちに、いつもの高いテンションで登場したほうが、利用者さんの反応もよくなることがわかってきたんです。拍手しながらテンション高く入れば、そのあとも飽きずに見てくれるというのは、漫才も介護レクも同じだったというわけです」(西川くん)
施設の利用者たちにとって、介護レクは“日常”から切り離されたお楽しみの時間。スタッフが自分たちでレクをするときも、いつもとは違うテンションで“ハレの日”を演出することで、会場の盛り上がりが大きく変わること間違いなしだ。
松本くん 僕らの介護レクリエーションも、始めたばかりのころと比べると、ずいぶん変わったよな。最初はほんま、ヌル〜っとステージに出ていって、静かにお話しするような組み立てにしていた。
西川くん そうやったね。もともと、施設の利用者さんたちを驚かしたらダメって言われてたからな。それをちゃんと守ってたんだけど、それでは場の空気感を変えられない。それで、いつものお笑いステージのように舞台の袖から「どうもー!」と飛び出していくようにしたわけや。
松本くん それで会場の空気がガラッと変わった。いい意味で、利用者さんたちが“構えて”くれて、いつもと違う時間だとわかってもらえようになったんやね。やはり、イベントにはいつもと違うワクワク感がないと。
西川くん だから、いつも顔を合わせているスタッフさんが介護レクをするときも、“違う人間が来た”と思わせるくらいキャラを変えたほうが、利用者さんたちも気分が乗って参加してくれるんやないかな。
松本くん 声を大きくして、笑顔もわかりやすく。あとテンションをふだんから2〜3段階上げることがコツや。試しに、高いテンションの掛け合いのお手本を見せよか。
西川くん うんうん。たとえば、ゴハンを食べたというふつうの話題も、テンション上げるとやりとりが変わってくる。「僕、メシ食うてな」と僕が言ったとする。ふつうのテンションの会話なら……。
松本くん 「ふーん」で終わりやね。そんなもん、誰でも毎日メシ食ってるしな。
西川くん ギョーザが有名な店なんやけど、チャーハンもおいしくてな……。
松本くん どこまでいっても「ふーん」としか言えへん。ところが、テンション上げると……。
西川くん 僕、メシ食うてな。
松本くん へー! どこ? 渋谷? 新宿? ほー、西川くんメシ食ったんかあ!
西川くん ……って、ちょっと大げさやけど(笑)、グググッと興味持ってますよという気持ちが伝わるやんか。
松本くん この、あなたに興味ありますよという空気が伝わることは大事やね。これで、見ている人の腰の上げ方がぜんぜん変わってくる。
西川くん これは、介護レクでもそうやで。僕らも最初は、話し方が早すぎると先生に注意されたけど、ゆっくりしゃべると、こちらも会場もテンションが下がってしまう。聞きやすいけどテンションが下がるより、何を言ってるのかよくわからんけど、雰囲気がワチャワチャして楽しいほうが、利用者さんも参加してくれることがわかったんやね。
松本くん いつもと違う元気な人を演出するには、「衣装」も役立つんやないか? ベタな漫才師の衣装みたいな、でっかい蝶ネクタイとかな。あ、いつもの○○くんやけど、なんかちょっと違う人みたいやな、と利用者さんに思わせたら、興味を持って見てくれる。もうこっちのもんや。
西川くん ここで重要なのは、舞台衣装を舞台以外の場所で見せるのはNGってことやね。舞台の始まるギリギリに着替えて、バーンと出ていく。これで、パシーンと切り替えや。
松本くん あと、意外に大事なのが、本番近くになったら“相方”と言い合いはしないこと(笑)。こういうことが、ほんまに“空気感”に出るんや。現実はすべて舞台袖に置いて、しばし、まったくの別人になることやね。
西川くん 松本くんは、舞台になるとけっこうスイッチ入れるタイプやもんな。
松本くん お手本にしてるのは、今いくよ・くるよ師匠やね。キーワードは元気で明るく。ワーッと出てくるだけで、会場のテンションがマックスに上がる。
西川くん 施設の介護レクでもやっぱり、ワーッて出てきて元気なほうが断然ウケがいいもんな。とにかく、スタッフさんがレクをやるときは、いつもの自分の理性は捨ててテンション上げることやね。
松本くん 僕たちも舞台に出ると、10分でヘトヘトになるもんな。よく芸人はふだんおとなしいとか言われるけど、それはそれだけスイッチを入れているということ。舞台とふだんがまったく変わらない芸人さんって、明石家さんまさんくらいやないか(笑)。
西川くん 松本くん、それは確かにアルな!