【最終回】介護の未来は明るいで!あるある探検隊の活動報告69
構成/福光恵
「あるある探検隊」のリズムネタで一世風靡したお笑いコンビ・レギュラーの松本くんと西川くんは、いま全国の介護施設をまわって、お年寄りたちを笑顔にする活動をしています。ところがここ半年以上、新型コロナウイルスの影響で思うように活動ができません。ウィズコロナの時代、新しい介護レクリエーションのカタチはいったいどんなものなのか。この連載コラムもいよいよ最終回となる今回は、これから介護の分野でも活躍しそうな、ロボットに“乗り移る”という最新技術を体験し、明るい未来を垣間見ました。
オンライン介護レクリエーションの可能性を探るレギュラーの2人が体験したのは、航空会社のANAグループが開発した遠隔操作ロボット「newme(ニューミー)」だ。ANAは、このロボットを使ってアバター(分身)事業を展開するために、4月にスタートアップ企業「アバターイン」(東京都中央区)を立ち上げるほど、力を入れている。
「ニューミー」は、車輪がついた筒状の胴体の上にタブレット端末のような画面がついた形状で、この画面に操作する人の顔が映し出されて、遠隔操作しながらリアルタイムでコミュニケーションできるという仕組み。離れた場所からオンラインでニューミーを操作して、世界の有名スポットを観光したり、離れた家族に会いにいったり、部屋に居ながらにしてバーチャルな移動が可能になるという。
なぜこんなロボットをANAが!? アバターインの松尾美奈さんが言う。
「世界で1年に1度でも飛行機を利用する人の数は、実は全人口の6%程度。いまはコロナの影響で、もっと少なくなっています。このアバターは残り94%の人たち、とくに身体が不自由などの理由で飛行機に乗ることができない人にとって、離れた場所にあるロボットをオンラインで動かすことで、あたかも自分がそこにいることを体験できる、次世代のモビリティなのです」
ニューミーは、すでに稼働し始めている。百貨店に設置されたニューミーは、家にいながら買い物をしたい人の分身として店内を歩き回ったり、商品説明を受けたり。あるいは、オフィスに設置されたニューミーは、地方の支店にいる人の分身として会議に出席したり、はたまた自宅にいる子どもが単身赴任のお父さんに会いに行ったり――。
“本業”と近い分野では、吉本興業とコラボして、芸人とファンが一緒にニューミーで観光地をめぐるツアーも企画されている。
そして、こうした活用法の一つとしてアバターインが力を入れているのが、医療や介護の現場である。
医療現場では現在、家族による遠隔お見舞いや、医師の回診や問診の実証実験が始まっている。介護施設でも同様に、看護師が遠隔操作して利用者を見守ったり、家族がニューミー越しに面会したり、あるいは在宅介護の両親と遠隔でやりとりしたり、といった活用法が期待されているという。
「なかなか外出できない施設の利用者さんたちに、ニューミーに入ってもらって観光地を見てまわったり、グループで施設を歩き回って探し物ゲームをしたりするのもいいですね。逆に、施設に置いたニューミーにレギュラーさんのような芸人さんが入って、利用者さんたちに向けてレクリエーションをするといった活用法も、ぜひ実現させたいです」(松尾さん)
実際、レギュラーの2人がやっているような介護レクリエーションでの活用は、ニューミーにとって未知の領域。ならば!と記念すべき試験運用第1号として、レギュラーの2人がアバターイン!
松尾さんと、同社の千葉周平さんの2人を観客に、ニューミーでレギュラーのオリジナルレク「満腹アヒルの大冒険」(唇の両端を指でつまんで「アヒル口」にしながら好きな料理の名前を言い、それをみんなで当てる聞き取りクイズ)をやってみることにした。
「すごい、すごい! なんだこれ!」
まずはアバターインの専用サイトからログインして、パソコンの矢印キーで松尾さんらのオフィスにいるニューミーを動かしてみたレギュラーの2人。いとも簡単に、そしてスムーズに動くニューミーに早くも大興奮だ。
「満腹アヒルなに食べた?」
ニューミーの画面に映った松本くんに向かって、口々に答えを言う松尾さんたち。ニューミーそのものは、いわば“動くテレビ電話”といった単純な機能なのだが、これが不思議なもので、アバターロボットの画面に映し出された相手と話していると、だんだんとその場に一緒にいる気分になってくる。
満腹アヒルで盛り上がった松尾さんと千葉さんも、「自分たちがニューミーと話していることを忘れた」と言うほど、実際の介護レクに近いゲームを楽しみ、アバターロボットを使ったオンライン介護レクのミニ実験は、成功裏に終わったのだった。
松本くん いやいや、驚いたな。なんて言ったらいいんやろう、ニューミーを遠隔で動かすあの感覚は。
西川くん ほんま、感動的やったね。あの調子でニューミーが置いてさえあれば、地球の裏側だってどこだって、歩き回ったり、話しかけたりできるってことやもん。
松本くん 実際にニューミーで介護レクをやってみた印象では、まずトークベースのレクリエーションならば、じゅうぶん活用できるよな。画面が顔の部分だけだから、「ギャグ体操」や「トントンサスサス」など全身を使うゲームはちょっと難しいけど、「満腹アヒル」とか「ノーズイヤークロス」みたいな顔を使ったゲームや手遊び、言葉遊びに向いている。
西川くん 確かに、前回の連載コラムで紹介したNTT東日本の実証実験のように、ネットで施設をつないで大画面に映す“テレビ中継”のような介護レクは大人数向け。一方で、今回のニューミーは、多くても10人程度を相手に距離感を縮めながらやるのにもってこいやね。ほんま、僕らだってオンラインでやってることを忘れたもんな。
松本くん ニューミーにはニューミーの特性があるから、それを踏まえた介護レクはいろいろ考えられそうや。施設に何台か置かれるようになれば、利用者さんたちにもニューミーに入ってもらって、みんなで散歩してもいいし。施設でかくれんぼとかも、できるかもしれん。僕ら2人がそれぞれのニューミーにインして、真ん中にマイクを置いて漫才なんかもやってみたいわ。
西川くん というかそれって、近いうちにM-1グランプリとかにも出てきそうやね。アバター漫才や!て、残念ながら僕の鉄板ネタの「気絶」はまだできないけどね(笑)。ニューミーに手がついてからやね。
松本くん 「気絶」ボタンを押したら手を挙げるとか、「どつく」ボタンを押したら体当たりするとかな(笑)
西川くん というわけで、松本くん、ここで読者のみなさんにお知らせしなきゃいけない。
松本くん そうやね。実は、いよいよこの連載も今回で最終回。僕らの施設での体験を話すつもりが、途中から新型コロナの影響で施設に行けないようになってしまったなあ。
西川くん その代わりに、いろんな人たちとオンラインでつないで話を聞かせてもらったな。現場には行けないけど、ほんま知識が増えたで。
松本くん 静岡県で介護施設を運営する遠藤聡さんに、ママリンの徘徊を見守り続けた酒井章子さん、僕らの介護レクの師匠である「スマイル・プラスカンパニー」の玉城梨恵さん、劇団「OiBokkeShi(オイボッケシ)」の菅原直樹さん、それから今回のニューミー。ほんま、いろんな分野の人たちが、いろんな視点で認知症や介護について語ってくれた。新しい発見ばかりやったわ。
西川くん 思うんやけど、コロナ禍によって施設に行けなくなったからこそ、企業がリモートの介護レクに動き出したり、介護関連情報のアプリができたり、介護業界にとっては少しだけ“新しい風”が吹き始めたのかもしれへん。
松本くん 僕的には、介護の未来を考えると明るいで。なんせ、日本は世界のなかで最先端の高齢社会やからね。これから高齢社会を迎える世界各国のいいお手本になるはず。世界をリードする介護関連の技術は、日本の財産や。
西川くん いまやネットの進化で、簡単に世界に情報発信できる時代やもんな。日本のノウハウをちゃんとフォーマットとしてつくれば、それを海外に売り込めるようになる日も近いと思う。
松本くん すぐにリアルタイムの自動翻訳とかもできるようになるだろうしな。そうなったら、日本の介護レクは世界がほしがるキラーコンテンツや。まずは、世界の人たちが楽しめるフォーマットをちゃんとつくること。そうすれば、日本は介護レク界のハリウッドみたいになって、そのうちロバート・デ・ニーロが「満腹アヒルなに食べた?」とかやってるかもしれへん(笑)。
西川くん ほんま、コロナが始まったころは、どうなっちゃうんやろうとお先真っ暗だったけど、光が見えてきたで。人間というのはすごいもんや。苦難が降りかかっても、なんとか乗り越えようとする。僕らも、どんどん前に進んで行かなきゃな!
松本くん 西川くん、それは確かにアルな!