パンチが出る?高齢者が好きな鉄板食べ物 あるある探検隊の活動報告50
構成/福光恵 写真/レギュラーのマネジャー
「あるある探検隊」のリズムネタで一世風靡したお笑いコンビ・レギュラーの松本くんと西川くんは、いま全国の介護施設をまわって、お年寄りたちを笑顔にする活動をしています。ところがここ数カ月、世界的に蔓延する新型コロナウィルスの影響で、思うように活動ができません。再び施設のおじいさん、おばあさんたちを楽しませる日がくるまで、いまは自分たちの介護レクリエーションに磨きをかけるため、勉強あるのみ! 認知症の母親との介護奮闘記をユーモアたっぷりに描いた『認知症がやってきた! ママリンとおひとりさまの私の12年』(産業編集センター)の著者・酒井章子さんとオンラインで結んでインタビューした模様を、引き続き実況中継します。
※前回の話はこちら
認知症の人を笑わせるには、どうしたらいいのか——介護レクリエーションで施設の利用者たちを楽しませる活動をしているレギュラーの2人にとって、大きな課題だ。
2人の介護レクの特徴は、トークやゲームで利用者のみならず施設のスタッフや家族らも巻き込んで、会場全体で盛り上げていくこと。介護度の低い人たちが相手の場合は手ごたえも感じているが、介護度の高い利用者の多い施設では“苦戦”することも多い。
「毎日楽しいことをして笑って暮らしていれば、認知症の進行を遅らせることができますよ」
著書『認知症がやってきた! ママリンとおひとりさまの私の12年』や、ドキュメンタリー映画「徘徊 ママリン87歳の夏」(田中幸夫監督)で、ユニークな介護が注目されている酒井章子さんは、母親の「ママリン」に認知症の症状があらわれた2006年、主治医からこうアドバイスされた。
この言葉を心の拠り所に、「同居すれば、もっと楽しい毎日が送れる」との決意を胸にママリンとの共同生活を始めた酒井さん。その後、「楽しく笑って暮らせば大丈夫」という理想とは裏腹に、過酷な介護の現実を知ることになるわけだが、それから十数年に及ぶ介護生活で「認知症と笑い」についてなにを見出したのか。その極意をレギュラーの2人が率直に聞いてみた。
西川くん 僕らも介護施設で利用者さんたちを楽しませるためにトークやゲームの介護レクリエーションをやっているんですが、介護度が高い人を笑わせるのは、ほんまに難しいです。
酒井さん それは、だいぶ難しいと思います。認知症の人たちは、ちゃんと話を聞きます? ママリンの場合は、人の話なんて聞かないで、とにかく1人でしゃべってましたから。
ママリンが喜んで話すのは、自分がいちばん幸せだったころ、または嫌いな人の悪口です。自分のお気に入りのテーマを延々としゃべり始める。そのとき話をうまく合わせるために、認知症が進んでいないうちに、もっとママリンの若いころの楽しい話を聞いておけばよかったと、ちょっと後悔しました。
松本くん あー、たしかに僕らの経験でも、重要なのはとにかく話を聞くスタンスです。話を引き出すように水を向けると、しゃべってくれることがありますね。
酒井さん 認知症が進んでくると、とにかく自分、自分、自分中心という思考になりますからね。だから「初恋はいつ?」とか、「好きな歌はなに?」とか、「どこに住んでました?」とか、楽しい記憶に絡みそうな話題を心がけたらいいんじゃないですかね。
西川くん 僕らも施設の介護レクでよく昔話を聞くんですが、やっぱり方向性は間違ってなかったんですね。ママリンが喜ぶのは、ほかにどんなことがありました?
酒井さん 同居前の初期にやっていたのは、オリジナルのポストカードですね。当時、離れて暮らす認知症の母親に毎日、手書きのハガキを送ったことで認知症が治ったという新聞記事を見て、「ハガキ1枚でよくなるなら」と私も始めたんです。そのときも当然、ママリンが主役。会った時に写真を撮って、それをパソコンでデザインしてせっせとハガキを作りました。
西川くん 反応はどうでした?
酒井さん 「クスっと笑える内容にするのがコツ」というんだけど、本人の笑いのセンスもよくわからないんで、写真に吹き出しのコメントを雑誌風に付けたり、私が悪ふざけして遊びました。結果的に、ママリンはハガキをものすごく喜んでくれて、毎朝、郵便屋さんが来る時間を楽しみに待つようになったんですよ。届くと喜びの電話が必ずかかってきたし。驚いたのは、自分でカードファイルを買ってきて、ハガキをきれいに整理して、繰り返し見てくれていたことです。1枚もなくしていない。自分が写っている写真が嬉しいようで、どこかに行ったり食べたり、楽しい思い出の証拠が残り、実感としては半年くらいは認知症の進行が遅れたと思いますよ。
松本くん その後、大阪で一緒に住んで介護するようになると怒涛の徘徊が始まるわけですが、このころのママリンの楽しみはなんだったんですか。
酒井さん このころは、とにかく認知症の症状に振り回されて、私自身に余裕もなにもなかったんですが、ママリンが楽しそうにしていたのは、やっぱり“おしゃべり”ですね。といっても、別に私と話すわけではなくて、自分の話に夢中。女子学生みたいに何時間でもペラペラとしゃべってます。毎晩お布団に入ってからも2~3時間はひとりでおしゃべりしてましたね。
西川くん 毎晩3時間!
酒井さん しかも、オリジナルの物語で。たとえば、「さー、みんなそろそろ寝ましょうか。でも目をつぶるのがまだしんどいな〜。どうしましょう」と言ったと思うと、「あー、○○ちゃんが遊びにきた〜」などと続く(笑)。
松本くん 映画では、ママリンが楽しそうに歌っている場面が出てきましたよね。
酒井さん 歌も大好きです。好きな歌は童謡の「浦島太郎」。認知症のおばあさんが、いつの間にか自分が年取って知らない世界になっていた、という歌を歌っているんだからシュールですよね。「浦島太郎」の歌詞が5番まであることを、ママリンが歌ってくれて初めて知りました(笑)。
西川くん しかし、こうやって聞くと、やっぱりトークとかゲームで成り立たせるのはなかなか難しそうだなあ。
酒井さん 介護レクに役立つかわからないけど、年を取ると、みんな「赤」が大好きですよ。ママリンと散歩していると、工事現場の赤いコーンや郵便ポストを見つけて「かわいいねー」と頬ずりしていることもあった。年齢とともに色の好みが“お子ちゃま化”していって、赤や青などの派手な色、そして花柄なんかも好きになるみたいですね。だから、2人も施設に行くときは衣装の色を工夫して「赤のお兄さん」「青のお兄さん」みたいにすると、簡単に人気者になれるかもしれない(笑)。
松本くん なるほど〜。僕はもう長いこと白シャツにネクタイでやってきたけど、ここは思い切って……いや、どうかなあ。
西川くん 僕はもう、うちのタンスに青い服がなかったか思い出してたところだわ!
酒井さん あと、最強なのはあんぱん! それもヤマザキの「薄皮つぶあんぱん」ですね(笑)。
松本くん 「赤」と「あんぱん」て、アンパンマンじゃないすか!
酒井さん ママリンは、これさえあればハッピー。小腹が空いているときにちょうどいい一口サイズで、なにより薄皮だから、すぐに大好きなあんこにたどり着くのがポイントですね(笑)。これって“介護あるある”で、お年寄りはみんな「薄皮つぶあんぱん」が好きで常備しておくのは当たり前らしいですよ。ママリンも大好きすぎて、ほしくなると即興の小芝居を始めるんですよ。「子どもたちがお腹がすいたそうですぅ。たいそうな物はいりません。おやつで十分です。この子らは、わがまま言いません。あの可愛いあんぱんがいいそうですぅ」みたいな(笑)。
西川くん わははは。さすが主演女優!
酒井さん 私はママリンを笑わせることはできなかったけれど、私がたくさん笑わせてもらいました。ママリンがおしゃべりするストーリーは、常識や現実がぶっ飛んでいて、健常人では思いつかないアメージングな創造の世界。天才作家とかの自由で斬新な発想は、もしかしたら認知症的な脳の構造を持っているのでは—―と思ったほどです(笑)。
<オンライン・インタビューを終えて>
西川くん ある程度は予想してたけど、介護度の高い利用者さんを楽しませるって、そうとうハードルが高いで。
松本くん しかも、ヤマザキの「薄皮つぶあんぱん」がライバルやもの。一口であんこにたどりつくって、かなり手強いやろ(笑)。これは施設に行くときに手土産で持って行って配るしかないな。
西川くん しかし、自分のいい思い出を聞き出すと機嫌が良くなって、どんどんしゃべってくれるというのは納得したな。
松本くん そうそう。僕らも介護レクリエーションでよくやるけど、記憶をたぐり寄せることで脳を活性化させる効果が期待される「回想法」そのまんまやもんな。
西川くん 僕らの介護レクでは、利用者さんに「いままで一番おいしかったものは?」と聞くのが定番だけど、そのとき一緒に「薄皮つぶあんぱん」を渡せば最強やね。(笑)
松本くん 思えば僕らも、かつては介護レクで出し物を中心にやっていたけど、それがいつしか、みんなにしゃべってもらって盛り上げるというトーク型に変えていったやん。酒井さんがママリンの介護のなかで行動を分析して作戦をつくっていったように、これが僕らが現場でつかんだ「作戦」や。
西川くん あと僕らに足りないのは「原色の衣装」か。たしかにヒットした芸人さんって、原色の強い色を着てはる人が多いもんな。
松本くん ダンディ坂野さんの黄色とかな。パッと見てその人とわかる色の衣装がヒットにひと役買ってるのはあるはずや。今度から介護度の高い利用者さんがいる施設にいくときは、僕らも赤と青のお兄さんでいくか。
西川くん それって、完全にテツandトモさんとカブるやん!
松本くん おっと西川くん、それはたしかにアルな!