認知症とともにあるウェブメディア

介護施設で、あるある探検隊♪

笑える介護映画爆誕!投げキッスで主演退場 あるある探検隊の活動報告51

「あるある探検隊」のリズムネタで一世風靡したお笑いコンビ・レギュラーの松本くんと西川くんは、いま全国の介護施設をまわって、お年寄りたちを笑顔にする活動をしています。ところがここ数カ月、世界的に蔓延する新型コロナウィルスの影響で、思うように活動ができません。再び施設のおじいさん、おばあさんたちを楽しませる日がくるまで、いまは自分たちの介護レクリエーションに磨きをかけるため、勉強あるのみ! これまで3回にわたり、認知症の母親との介護奮闘記をユーモアたっぷりに描いた『認知症がやってきた! ママリンとおひとりさまの私の12年』(産業編集センター)の著者・酒井章子さんとのオンラインインタビューを実況中継してきましたが、今回は完結編です。
※前回の話はこちら

ママリンこと、母の酒井アサヨさんの徘徊を見守る酒井章子さん(酒井章子さん提供)
ママリンこと、母の酒井アサヨさんの徘徊を見守る酒井章子さん(酒井章子さん提供)

大阪に住む酒井章子さんと認知症の母親「ママリン」の日々の生活を追ったドキュメンタリー映画「徘徊 ママリン87歳の夏」(田中幸夫監督)に、こんな場面がある。

“日課”の徘徊から戻って、酒井家の居間で落ち着くママリンと酒井さんの会話。

「あんたがアッコ(章子)ちゃん?」
「そうや、アッコちゃんや」
「なんや、大きいなりすぎたな」
「そりゃそうや。おばさんやもん。ママリンがもう87歳のおばあちゃんなんやから」
「そのおばあちゃんが、なにして捕まったの? ここ刑務所やろ?」

あるいは、徘徊中にママリンが声をかけたのは、歩道に放置された自転車。
「あんたも置いてきぼりか。かわいそうに……」

思わずクスリと笑ってしまうエピソードだが、ここで観客は戸惑う。果たして、こうやって認知症の人を笑っていいものだろうか――。

それは、施設で介護レクリエーションの活動をしているレギュラーの2人が、つねに気をつけている部分でもある。トークやゲームで利用者たちの面白い言動を引き出して、それを「笑い」に変えるのがプロの技だが、いきすぎた「いじり」で「いじめ」になってしまってはいけない。

酒井さんとママリンのドキュメンタリー映画も、当初は映画館で「笑ってはダメなんだ」と自制する人が多かったという。そこで「遠慮しないで笑ってください」と最初にアナウンスするようになり、やがて大爆笑の嵐に。「こんな笑える介護映画は初めて」とか、「介護はやっぱり悲惨だけれど、ちょっぴりは希望が見えた」などの声が寄せられたという。

酒井さん自身、映画の中でこう話している。
「あれを笑えるかどうか。私は“お笑い”と思って、普通に吹き出しています。ときどきびっくりするようなカッコいいことを言うし、とにかくおもしろいですから」

ママリン自身も、どこまで認識していたかわからないが、自分の映画を楽しんでいたフシがある。映画上映の舞台挨拶に立ち、ベテラン女優ばりに堂々とスピーチしたのだ。
「私のためにこんなに集まってくれて」と涙ぐんだかと思えば、「バカな娘が引っ張りだしてきてな」と次第に怪しい雲行きに。最後は「なんで私がこんなところにいなあかんの! ほな帰りまーす」と、観客席に向かって投げキッスをしながら舞台のそでに引っ込んでいったのだった。

もちろん会場は、やんやの大歓声。その爆笑の渦に田中監督と酒井さんは思ったという。「映画は大成功や」と。

松本くん 映画は「ここ誰の家? 刑務所?」というママリンの困った顔で始まりますが、そんな不条理なシーンでも、とにかく酒井さんのママリンへのツッコミがおもしろくて。僕らの介護レクリエーションや施設のスタッフさんたちに、ひとつのヒントになるかもしれないと思いました。

酒井さん 映画館で上映したときも、爆笑の嵐でした。みなさん最初は、笑ってはダメなんだと我慢するんですが、だんだんドカンドカンドカンと(笑)。私は、それでいいんだと思います。

西川くん ほんま、認知症の人たちの言ってることや行動って単純におもしろいんですけど、あくまでも僕らは第三者。認知症の人をどこまで笑っていいの?という躊躇はつねにあります。

酒井さん 笑っていいんですよ。認知症の人に限らず、自分が話したことがウケると嬉しいじゃないですか。悲劇より喜劇。人って笑われたり、笑わしてもらったり、それが人生。ママリンが変なことをしたら、おもしろい人やなあと思い、こちらは観客になる。観客が、認知症ママリンをアイドルにしてあげるんです。

松本くん 実際にママリンは映画でアイドルになったわけですけどね(笑)。

酒井さん ママリンはもともとまじめで、厳格で、クスリとも笑わない母でした。ところが、認知症のおかげでおもろい人になった。ある意味、認知症が堅物な脳を柔らかくしたんですよね。でもそれを笑っていいのかという空気もあります。「かわいそう」とか、「不謹慎だ」とかいう声が大きいのもわかります。
でも、これはこれで認知症になったママリンのひとつの“個性”だと思うんです。私は、感情の衝動をそのまま行動にするママリンを見て、好きなようにさせてあげるのがいいな、という放任主義でやってきました。だから、こっちも腫れ物にしないで、どんどんおもしろがっていいんやないかと。「ちょっとぐらい笑わせてもらわないとやってられない」という気持ちもありますし(笑)。

松本くん ママリンのやることなすこと、ほんまに即興コントのレベルですよね。

酒井さん だけど、徘徊しているときも、わけがわからんことを言っているようでそれなりに理由はあって、しかも本人は大真面目。私に文句を言ったり、罵声を浴びせたり、あるいはひとりで延々とおしゃべりしているときだって、ママリンのなかの“辻褄”があるんです。縮小していく脳の機能のなかで、ものすごくいろいろなことを考えていて、その考えが突拍子もないから面白いんだと思います。

西川くん たとえば映画の舞台挨拶なんかで笑われて、ママリンは機嫌が悪くなったりしないんですが?

酒井さん ないないない(笑)。実際、ママリンを笑ったことで怒られたことはないですね。認知症の人は、基本的に自分のことに夢中ですから、まわりが笑おうが、泣こうが、あまり関係ない。ただ、こっちの機嫌が悪いと敏感に察知して“百倍返し”されますけど。

西川くん ママリンの日々の様子を綴ったブログも、“お笑い”の宝庫です。

酒井さん これも、そもそも面白いことを書こうと始めたわけじゃないんです。日々の苦労を感情的に書くブログではなくて、いまのママリンを記録として残さないともったいないなと思って書き出したもの。やってみると、記録することで私が救われた面もあります。今日のママリンは何キロ歩いた……とかビジネスライクな記録に徹したおかげで、それが自分的に何かの落としどころになって、ヘンに感情に根が残らなくなったんですよね。

松本くん ほんま、聞けば聞くほど酒井さんとママリンは名コンビですね。

酒井さん 実は最後になりましたが、お知らせがあるんです。講演会やお会いした方には言ってるんですが、ママリンは2019年秋に92歳で亡くなったんです。

松本くん え……。

西川くん ほんまですか……。

松本くん いや、すみません。ママリンの思い出をたっぷり聞いてしまいました……。

酒井さん ママリンは急性胆嚢炎で入院したんですが、そのあと誤嚥性肺炎を発症して……すーっと眠るように亡くなりました。昨年から何度か入院しては復活を繰り返していたんで、今回も元気になって帰ってくるとばかり思っていたんですが。心の準備はまったくなかったですね。晩年は、それはそれは穏やかな天使ちゃんモードになって平和な日常だったんで、寂しくなるかと思っていましたが、いまの心境を正直に言うと、ヤッホー! 自由だー!(笑)。後悔はなくて、やり切った感があります。
でも、いまは夜遊びも自由にできるのに、いまだに夕方5時くらいになると習慣で、帰らな!と思ってしまうんですよね。

西川くん そうなんですか。改めて13年に渡るママリンの介護の日々を振り返って、いま介護で苦労をしている人たちにメッセージはありますか?

酒井さん そうですね、私はママリンの専門家で、ほかの家庭にはそれぞれの事情があると思います。そのうえで言えることは、まず、まじめに一生懸命、本を読んできっちり介護と向き合う優等生になる必要はない、と思うこと。あと、愛情や気持ちだけで介護するのは無理です。どんなに思いやっても、気持ちが相手に伝わらず、自分が傷つくだけ。必要なのは、アイデアと知恵と工夫です。
ときに冷たく接してしまうのも、親だから。逆に相手が他人なら、優しく接することができるので、施設やヘルパーさんの手に委ねるのも正解です。幸い私は18歳で家を出て、ママリンとべったりの関係でなかった。これが仲良し親子で、大好きなママが壊れていくとなったら、また違うつらさがあったと思います。亡くなったあとの心境も違っていたでしょうね。

<オンライン・インタビューを終えて>

西川くん ママリン、亡くなられたか。さみしいなあ。

松本くん ご冥福をお祈りします。でも、「人って笑われたり、笑わしてもらったり、それが人生」って、つくづく名言やね。ほんま、酒井さんはすごいなあ。

西川くん 認知症のママリンを「アイドルにしてあげる」って、これも名言やろ!

松本くん 認知症の人を笑うというのはとてもナイーブなことやけど、酒井さんは親子関係のなかでうまく成立させている。僕ら芸人は、自分の家の事情とかもどんどんしゃべって笑いにするけど、ふつうはなかなかできひんし、それをうまく料理しているのはスゴイことや。

西川くん ママリンは、言ってみれば、みんなが知っている店の名物おばあちゃんみたいな存在になっていたな。酒井さんが笑いにしてくれたことで、認知症は辛いことばっかりじゃないよと教えてくれた。オマケに、ママリンは舞台挨拶までこなしてしまうんだもんな。ベテラン女優の域や。

松本くん だけど、ママリンひとりでは成立しない。娘のツッコミがあって、初めて笑いに変わるんや。酒井さんは、無意識にこれをやっているんだからたいしたもんや。まあ、酒井さん自身は、芸人になりたいわけでもないし、こんなにほめられても困るだろうけど(笑)。

西川くん でもまあ、それで文字通りママリンをアイドルにしたわけだしな(笑)。もっと若い人にも、ママリンの映画を見たり、酒井さんの本を読んでもらいたいな。もちろん、いま介護に直面している人は必見や。

松本くん 僕らは酒井さんみたいに当事者やないけど、施設のおじいちゃんやおばあちゃんと交流して、おもしろかったこと、笑ったことをみんなに知らせていくことの意味は大きいんじゃないかと改めて思ったわ。それで認知症やお年寄りのことに興味を持ってもらえれば、嬉しいな。

西川くん 松本くん、それはたしかにアルな!

「コロナ禍を生きぬく~認知症とともに」 の一覧へ

あわせて読みたい

この記事をシェアする

この連載について

この特集について

認知症とともにあるウェブメディア