もめない介護

夫婦で紛失、家の鍵 義母は魔女の魔法がお気に入り もめない介護69

コスガ聡一 撮影

「自宅の鍵をおふたりとも、どこかに無くしてしまわれたようです」

週3回ある通所リハビリ(デイケア)の送り出しと迎え入れのため、朝夕30分ずつ訪問してくれているへルパーさんから連絡があったのは、2018年6月のことです。介護老人保健施設から自宅に戻ってきて約2週間。デイ通いをなんとかやめたい義母を、ケアマネさんとヘルパーさんの連携プレイで説き伏せ、ひと安心と思った矢先のことでした。

これまでも何度か、鍵をめぐる問題は生じていました。義父母が自宅に戻るにあたっての義姉の心配ごとのひとつに「玄関の鍵が管理できるかどうか」がありました。

認知症だとわかった当時、もの盗られ妄想の症状が強く出ていた義母は「(ドロボウに入られないために)鍵を交換したい」と、しきりに訴え、義父も同意。頻繁に鍵を交換していました。義父母が自分たちで業者を探し、知らないうちに鍵が変わっていたということもあれば、頼まれて私が鍵交換を手配したこともあります。

時には、義父母主導で鍵を新しくしてみたものの、交換後の鍵が見当たらなくなり、使えなくなるといったトラブルも起きていました。ただ、義母のたっての願いで玄関に鍵が複数つけられていたことが幸いし、「どれかひとつでも鍵が生きていれば何とかなる」と、だましだましやってきたのです。

鍵や財布の管理が出来ていた義父までもが紛失したことにショック

義母は早々に鍵の管理が難しくなっていました。紛失防止に紐でバッグに結わえてみたり、鈴をつけたり……といろいろやってみましたが、うまくいきません。その場では「あら、かわいい色ね」「この鈴、いい音色ね」などと言うのですが、しばらく経つと外してしまいます。

嫁の手前、調子をあわせてみたけれど、本当は気に入っていなかった可能性も大いにあります。あるいは、気に入ったからこそ、ドロボウにとられないよう、大切にしまいこんでしまったのかもしれません。

一方、義父は認知症になってからも、鍵や財布の管理はしっかりしていました。デイ通いのときも、玄関の鍵をかけるのは義父の役目でした。義父母ともに認知症であれば、当然、鍵の紛失の問題は直面しても不思議はないこと。そう頭ではわかっていたけれど、あの義父が鍵をなくすタイミングがやってきたかと、小さくショックも受けました。

ただ、感傷にひたってばかりもいられません。というのも、鍵をなくしたことで義母がパニックを起こし、「新しく鍵を作らないといけない」「早く鍵屋に連絡して」と義父を責め立てているというのです。

ヘルパーさんによると、義父は「達也(わたしの夫)と真奈美さんに相談してからにしよう」と落ち着いており、そのことがさらに義母のいらだちに拍車をかけているようなのです。

「おとうさまは黙って聞いていらっしゃいますが、おかあさまがかなりきつい口調でおっしゃっていて……。なんとかなだめていただけないでしょうか」

見るに見かねたヘルパーさんから連絡があり、夫の実家に電話をかけました。

こちらが笑ってしまいそうなほどの義父の言われよう

「あら、あなた。そちらはお元気ですか?」

義母は機嫌良く電話に出たものの、鍵の話を振るとヒートアップ。「早く鍵を交換すればいいのに、ちっとも動こうとしない」「もうボケちゃったんじゃないかしら。だっておかしいでしょう?」など、自分のことは棚に上げて、義父への不満をぶちまけます。あまりにひどい言われように、義父に同情しつつも、ちょっと笑ってしまいそうにもなります。

義父は誰に言うでもなく「家内は乳母日傘で育ってますからねえ」とつぶやくことが時折、ありました。そのたびに義母は「人聞きが悪いことを言わないでください」「人を“世間知らず”みたいに言って!」と苦情申し立てをしていましたが、義父がそう言いたくなるのもわかります。お嬢さま育ち、ここに極まれり!

やいのやいのと文句が止まらない義母ですが、「予備の鍵があるので、そちらを使いましょう」と提案すると、「あらそう、鍵があるの?」と思いがけず前向きなリアクションが返ってきました。

「わたしもね、本当はこんなこと言いたくないの。動かない人にあれこれ言うのは厄介なのよ」
「そうでしょうねえ。おとうさんもおつらいでしょうしね」
「鍵を交換するのだって安くないもの」
「そうなんですよ! 鍵交換ってどうしてあんなに高いんでしょうね」
「やっぱり、いまの鍵を使うほうが無駄にならないわよね」
「その通りだと思います。あと、今度伺ったときに一緒になくした鍵も探してみましょう」
「あら、そうしてもらえると助かるわ。あなた、探しもの上手ですものねえ」

いやいや、一緒に探すんですってば! 調子のいい義母の口ぶりに思わず笑ってしまいそうになりますが、とりあえず、ご機嫌なまま“鍵交換まっしぐらモード”を解除できるなら、それに越したことはありません。

布団の間に押し込められた義父のバッグ

数日後、夫の実家を訪れた際、義母との約束通り鍵の探索をし、義父の鍵は発見。義父がいつも持ち歩いているバッグごと、布団の間に押し込められていました。恐らく義母の仕業です。ある瞬間、「盗られたら困る」という気持ちがワーッとこみ上げてきて、“ドロボウが見つけられないような場所”に隠す。そして、自分もどこにしまったか忘れてしまう……。これまでのやりとりを通じて、そんな義母の心の動きや、義母が「ここならきっと安心!」と思える場所も、おおよそ見当がつくようになってきました。

ただ、義母の鍵はどこをどう探しても見つかりません。そんなこともあろうかと、あらかじめ預かってあった鍵をもとに、さらに数本の合鍵を複製しておいたのが役に立ちました。義母にはそのうちの1本を渡します。

義母に渡せば、早晩また紛失してしまうに違いありません。でも、義母自身はそんなつもりはまったくないのです。「きちんと管理しているけれど、ドロボウが持っていってしまう」と信じて疑っていません。家の中でしまいこむ分には、何本なくしても防犯上はさほど問題がないのでよしとしよう! 外であちこちに置いてくるよりはきっとマシ! と、こちらも義母に鍛えられ、ずいぶん図太くなってきました。

さらに今回は、すべての鍵に、光と音で場所を知らせてくれる「紛失防止タグ」を付けることにしました。鍵や財布にキーホルダーサイズのデバイスを付け、スマホアプリに登録しておくと、見失っても音と光で置き場所を知らせてくれる優れモノです。

玄関の鍵はもちろん、義父母が持っている鍵付きダンスの鍵など、あらゆる鍵にセット。この紛失防止タグの導入は大正解でした。この時期を境に、鍵の紛失頻度は上がり、義父母のもとを訪れるたびに、ピーピー鳴る電子音に耳を澄ませる日々が続きました。

なくし物がピーピーと音を鳴らす魔女の魔法で捜索ストレスを軽減

最初は怪訝そうな顔で「何やってるの?」と聞いていた義母でしたが、そのうち、慣れてきて「世の中便利になったわねえ」と感心していました。そして、ついには「ねえ、あれやってちょうだいな」とせがむようになったのです。

「ホットカーラーが見つからないから、あれで探してちょうだい。ほら、あのピーピー鳴らすやつ」
「おかあさん、ピーピー鳴らすには、あらかじめ音が鳴る機械をつけておく必要があるんです」
「あら、そうなの? 不便ねえ」
「そうですね」

わたしがスマホをいじると、探していたものがピーピー鳴り出す。義母にはその光景が魔法を操っているように映っていたのかもしれません。それ以降も、魔女が魔法をかけるようなジェスチャーをしながら、「あれやって!」と繰り返しリクエストされ、そのたびにみんなで大笑いしたものです。

認知症ともの忘れ、なくしものは切っても切れないことがほとんどで、なくした本人もつらく、家族も気をもみます。同じものを繰り返し探していると疲れ果ててしまうことも。そんなとき、ほんの少しでも捜索ストレスをやわらげる助けとして、こうした捜し物支援のデジタルガジェットを活用してみるのもおすすめです。

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