介護レクの新スタンダード作って世界へ あるある探検隊の活動報告39
構成/福光恵 写真/レギュラーのマネジャー
「あるある探検隊」のリズムネタで一世風靡したお笑いコンビ・レギュラーの松本くんと西川くんは、いま全国の介護施設をまわって、お年寄りたちを笑顔にする活動をしています。ところがここ数ヶ月、世界的に蔓延する新型コロナウィルスの影響で、思うように活動ができません。感染防止のため家族の面会もできなくなった利用者たちのストレスも心配です。
そこで今回は、昨年9月に2人が介護レクリエーションで訪れた、ケアハウス「慈恩」とデイサービスセンター「サルビア」(ともに静岡県富士市)などを運営する社会福祉法人「岳陽会」の常務理事・遠藤聡さんとオンラインでつなぎ、現場のお話をうかがいました。
富士市内で特別養護老人ホームやケアハウス、デイサービスセンター、地域包括支援センターなど10施設を運営する「岳陽会」の常務理事を務める遠藤さんは、いま施設でどのようにネットを活用していくか、その可能性を模索している。
それは、レギュラーの2人も同じ。
自分たちがいつもやっている介護レクリエーションをオンラインでできないか——コロナ自粛が続くなかで、そう考えるようになった2人は、現場の率直なニーズを聞いてみることにした。
西川くん 僕の知り合いでも、施設にいるおばあちゃんの面会に行けなくなったので、施設のスタッフさんにお願いしてビデオ通話でおしゃべりしたという人がいます。遠藤さんのところはどうですか?
遠藤さん うちの施設でもそれをやろうと、いままさに準備中です。この先、新型コロナと共存する世の中になると、ビデオ通話がスタンダードなツールになるかもしれないですね。
松本くん 家族とのコミュニケーションだけやなく、介護レクでもネットを活用することが増えるんやないですかね。そうやって新型コロナを機に、いろいろいい方向に変わるとええんやけど。
西川くん 僕らの介護レクも、内容がどんどん変わっていくかもしれないな。
遠藤さん 今後、パソコンやスマートフォンを通したオンラインの介護レクは当たり前になるでしょうね。今回、どんなことができるのか少し調べてみたんですが、実はこれって意外なメリットがありそうなんです。
施設に誰かを呼んで介護レクをやってもらうとなると、事前に準備も必要だし、当日も入居者さんや利用者さんに多くのスタッフが付く必要があって、それなりに大掛かりなイベントになります。これがオンラインのレクリエーションなら、入居者さんたちを楽しませるのは、画面の向こうの専門家と一部スタッフに任せて、その間、残りのスタッフはほかの仕事に専念できる。
松本くん ステージに僕らが立つ代わりに、大きなモニターを置くイメージでしょうか。ビデオを流して一方通行でやるのと違って、オンラインなら、ある程度はやりとりしながら介護レクができそうですね。
遠藤さん そうですね。ただ、以前、ロボットを使った介護レクをやったことがあるんですけど……あまり反応がよくなかったんですよね。
西川くん え、そうなんですか?
遠藤さん ロボットが歌を歌ったりしたんだけど、ちょっと難しかった。もちろんロボットとは違いますが、モニター越しのやりとりがどこまで受け入れてもらえるか。誰でもテレビは見るから、ある程度、馴染みがあるとは思いますが。
松本くん うーむ、そんなに簡単にはいかないか。その場にいれば近寄って興味を引くことができるけど、リモートだとそれも難しいだろうし。でも、たとえば現場にスタッフさん1人いてもらって、「そこのグリーンのセーターのおじいちゃんに聞いてください」みたいなリクエストができれば、よりうまくいくかも。
遠藤さん それと僕の感触では、会場は少人数に絞ったほうがいいですね。画面におさまる人数……多くても10人くらいなら、やりとりもリアルに近い感じになるかもしれない。あと、体を動かすレクリエーションより、トークで笑いを引き出すほうが、うまくいく気がします。
松本くん ほう。少人数にしてトークで笑いを引き出す、と……なるほど。
西川くん でも、ふだんのお客さんを笑わせるのも難しいのに、それが高齢者、しかもリモートとなると……これは、なかなか壁は高そうやなあ。
遠藤さん お年寄りが好きなのは「笑うこと」と「歌うこと」。それはリモートでもできるはずです。2人にはぜひ、リモートならではの介護レクをつくり出してほしい。それがこの先、介護レクリエーションのスタンダードになるかもしれませんよ。
2人 それはええなあ!
<オンラインミーティングを終えて>
松本くん いろいろとヒントをもらったな。
西川くん だな。もともと僕らの介護レクのよさは“現場での生のやりとり”から生まれるものだから、映像にして流しても無理だと思っていたけど、オンラインでインタラクティブにできるなら、可能性を感じるようになってきたな。
松本くん オンラインでは体を動かすレクリエーションより、トークで笑いを引き出すほうが向いていると言っていたけど、ちょっと考えなきゃな。体験型よりコミュニケーション型ってことや。
西川くん ほんま、そこは意外やったわ。オンラインでも、いつものように「トントンサスサス」でもやろうと思ってたから。モニター越しでは身体の動きとか身近に感じづらいからトークのほうがいい、ということやったな。
松本くん あと、5人から10人の少人数を相手にするのがいいって。
西川くん うむ、勉強になるな。言われてみれば、その通りや。
松本くん だけど、最近、何度かビデオ通話をやってみて思ったんだけど、画面に顔がバーンと出るやん。これって、もしかして西川くんの時代が来るんやない? 若いころ、テレビのロケで画面に登場するときの顔のバリエーション、めちゃくちゃあったやん。
西川くん おおおお! 僕の十八番「気絶」を始めとする顔芸が、ようやく生きる時が来たな。
松本くん 西川くんの顔芸VS利用者さんたちの「オンラインでにらめっこ対決」なんていいかもしれへんな。画面8分割とかでやったら、絶対おもろいで。
西川くん おじいさん、おばあさんがヘン顔で「あっぷっぷ」ってな。僕の「気絶」は白目でなにも見えてないから、絶対に負けることがない。これぞ無双や。
松本くん それこそ、オンラインでしかできない楽しさやね。画面の背景を変えて、「万里の長城から中継している松本です。スタジオの西川さーん?」とか、世界からの中継ごっことかどうや。
西川くん いやいやいや、ほんまに万里の長城から中継していると思い込む人が、出てくるで(笑)。だけど、静岡の遠藤さんと東京の僕らが、なんの違和感もなく話せたように、海外の人とも気軽におしゃべりができる時代がすぐ目の前という気がしてきたね。
松本くん 中国の高齢者人口は2億人といわれていて、いち早く高齢化社会が進んだ日本を、ビジネスの手本として見ているという話はよく聞くやろ。中国のおじいちゃんと、日本のおじいちゃんとかがビデオ通話と自動翻訳機でつながって、各国の高齢者の悩み事を打ち明け合うっていうのもええんちゃう。
西川くん 談笑していたつもりが、いつの間にか喧嘩になって、外交問題に発展しないとも限らないで(笑)。
松本くん 西川くん、それはたしかにアルな……。