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退所目前のウキウキ義母、浮かない義父。どうなるケア会議?? もめない介護58

駅のホームのイメージ
コスガ聡一 撮影

義父母が介護老人保健施設(老健)でのリハビリ生活を終え、自宅に戻ることが決まったのは2018年6月、義父の退院から約3カ月後のことでした。

「うちに戻れるの? それは良かったわ。じゃあ、さっそく荷物の準備をしないと」

自宅に戻るにあたって、義父の歩行状態の確認や帰宅後の介護サービスの調整が必要なことなどは随時、義父母にも伝えていました。しかし、義母はこうした話にはまったく興味を示さず、まるっきりうわの空。すぐさま荷造りを始めようとするのを、まあまあとなだめても、また数分もすると、荷物をガサゴソ……の繰り返しでした。

一方、義父は「喜ばしいことだと思います」と言いながらも、浮かない顔をしています。聞けば、「自宅に戻って、これまで通り、家内の面倒を見てやれるのか自信がない……」と。どうも、歩行確認で久しぶりに自宅に戻った時に、(自宅の)トイレの流し方が分からなかったことにショックを受けたようでした。

ただ、かといってこのまま施設に居続けたいというわけではなく、「食事はおいしい」「同じ部屋の人がうるさくていやだ」「我慢できないわけではない」「家内は制約が多いことにいら立っている」など、いい面悪い面入り混じって、複雑な気持ちのようでもありました。

また、義姉からもさまざまな心配ごとがLINEメッセージで届きます。

「あの家では歩行器の使用は難しいと思っていました。障害物が多くて心配です」
「介護関係の方の来訪がますます増えるなかで段差のある玄関に慌てて出て行き転倒という心配もあります。何かよい方法はありますか」
「転倒防止以外に①朝夕食作り、火の始末、②買い物、③泥棒不安のため、2階の様子を見に行かないか④洗濯、湯沸かしなど、電化製品を使用する家事などを心配しています」

退所を前に心配が募り、パニックに陥り始めた義父

さらに、退所に向けたケアカンファレンスの前日には、義父から電話がかかってきました。
「次にいつ来るのかわからなくなったので、至急確認したい」
「大雨が降るようだけど、担当者会議に来られないのではないかと心配になって……」
「娘の連絡先がわからなくなったので教えてほしい」

電話に出るなり、矢継ぎ早に質問され、びっくり仰天。それまでは比較的おだやかで落ち着いていた義父ですが、ここに来てパニックモードに突入してしまった様子でした。

「担当者会議は明日の午後1時からです」
「午後1時ですか……」
「おとうさん、何かいま、お手元にメモするものはお持ちですか?」
「ペンとメモがあります」
「では、もう一度、日にちと時間を読み上げますので、メモしていただけますか」

一緒に何度か復唱し、メモをしてもらっているうちに、電話の向こうの空気が少しゆるんできました。

「明日の会議は、雨が降っても槍が降っても、必ず行きますので大丈夫ですよ」
「そうですか。そりゃよかった」
「なので、お義姉さんの連絡先は明日お会いした時にメモをお渡ししましょうか」
「助かります。じゃあ、また明日!」

義父は気が済んだのか、こちらの返事も待たず、パッと電話を切ってしまいました。

パワーあふれる義父母に、在宅介護の希望を感じて

そして迎えた、担当者会議の日。施設側の介護スタッフの方々に、在宅でお世話になっていたケアマネさんやヘルパーさん、訪問看護師さんも加わり、会議室は超満員。義父母にも参加してもらい、情報共有と今後の生活サポートについて相談することに。

「義父の体力は自宅に戻れるぐらいのところまでなんとか回復してきたとはいえ、“元どおり”というわけではありません」
「外出時は原則、付き添いが必要。転倒骨折を防ぐという点でいうと、単独はもちろん夫婦だけでの外出も極力避けたいです」
「自宅に引きこもると体力が衰えてしまうので、これまで通り、デイに通うなど生活のリズムを作っていただいて……」

専門職の方々からの意見やアドバイスを神妙な顔をして聞いていた義母ですが、ひと通り意見が出尽くすと、「でも、あんまり過保護なのもよくないと思うんですよ」とすかさずアピール。「少しぐらい無理をしたほうがいい」「鍛えないから、こういう病気みたいなことになるんですよ」などと、独自のスパルタ理論を展開しながら、介護サービスの量を減らすことを画策し、苦笑いを誘っていました。一方、義父は泰然自若。「プロの方々にお任せしよう」とやさしく義母をいさめてもくれました。おとうさん、サイコー!と内心、拍手喝さいです。

さらに、義父母は「このたびは大変みなさんにはお世話になりました」と、個々にお礼のスピーチ。突然の入院で驚いたこと、しかしサポートしてくださった方たちの尽力で無事、療養を終えられることに対する感謝を伝えていました。

施設に入ってから認知症の進行を感じさせる言動も少なくなかった義父母ですが、この時は自分たちの身に起きたできごとをほぼ正確に把握していた様子がうかがえました。そして何より驚かされたのが、堂々とした話しぶりです。このエネルギーが今後どこに向かうのかと考えると少々ビビりながらも、パワーあふれる姿に「在宅に戻ってもやっていけるかも」と励まされるような気持ちでもありました。

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