今こそ電話相談!蘇るばーちゃんスマイル これって介護の裏技?
青山ゆずこです! 祖父母が認知症になり、ヤングケアラーとして7年間介護しました。壮絶な日々も独学の“ゆずこ流介護”で乗り切ったけれど、今思えばあれでよかったのか……? 専門家に解説してもらいました。
意外と追い詰められていた? ゆずこの自己防衛テク
ばーちゃんが施設になじみはじめて、わたしは人の気配がなくなった家の中でおもむろにゴロン!と仰向けに転がりました。耳を澄ましても、ばーちゃんの怒鳴り声やドスンドスンと響くような足音はまったく聞こえません。
今まで住んでいた家とはまったく別の場所のように、静寂に包まれた家。
食事の時も予期せぬ行動をするため、急いでかき込んだり中断したりしていましたが、今はゆっくり味わって食べることができます。お風呂に入っている時に電気を消されて、「強制闇風呂」に挑戦しなくて済むのです! 夜中のトイレタイムもかなりの確率で待ち伏せされていて、よくばーちゃんが暗闇から飛び出してきたっけ。もう毎日がお化け屋敷状態で、あまりの恐怖にわたしは本気でAmazonで“おまる”を買おうとしたことも……。
衣食住、当たり前のことが当たり前にできる幸せ。そうして久しぶりに心や体を休めてほっとした瞬間、久しぶりにじーちゃんとばーちゃんの笑顔が頭の中に浮かびました。そういえば、なぜか最近2人の笑顔をあまり思い出せなくなっていました。
それにしてもなんでこのタイミングで? 今思えば、思い出せなくなったのは、わたしが自分を守るために決めた1つのルールがきっかけでした。
現実を乗り越えるために、思い出にフタを
ずばりそのルールとは、「じーちゃんとばーちゃんが暴れるなど修羅場になっている時には、思い出や昔の姿を一切思い出さないこと」です。
大変な状況になればなるほど、「あの頃は元気だったのに」「どうしてこんなことになってしまったのか」と元気だった頃と比較して余計に落ち込んでしまいます。それは、思い出と愛情と歴史がある“家族だからこそ”仕方がないこと。でもあまりにその思いが強いと、介護する側が必要以上に感傷的になり、より落ち込んでしまう原因にもなるのです。
だからわたしは大変な状況の時こそ過去を引き合いに出さず、ただ目の前の現実に一生懸命向き合うように心がけてきました。思い出や過去をまったくなかったものにするということではありません。思い出の瓶のフタをパカパカと開け閉めするようなイメージです。開け閉めがうまくできるようになると、結果的に自分の心が必要以上に振り回されないで済むのです。
ただ少し気を付けたいのが、「その思い出のフタは、自分でも気が付かないうちに固く閉じてしまう危険性がある」ということです。
自分では感情をうまくコントロールしていると思っていても、いつの間にか限界を超えているということも。わたしがじーちゃんとばーちゃんの笑顔を思い出しにくくなっていたのも、介護をする中で心身ともに自分の限界を超えていたからかもしれません。思い出そうとするのですが、鬼のような形相で向かってくるばーちゃんや、何を訴えても聞く耳をもってくれない渋い顔のじーちゃんしか頭に浮かんでこない……。
我慢強いところがわたしの長所でもありますが、介護する中で、何かに耐えることや自分にガマンを強いること自体が間違っているのかも知れません。
自分を守るため、相手に向き合うため思い出にフタをするといっても、それほど余裕のない介護を続けたところで本当にお互いに幸せな介護ができるのでしょうか。ばーちゃんが施設に入ったことで自然と余裕が生まれ、自分がやってきたことの危うい一面に改めて気が付くことができました。
「耐えるのが美徳、尽くしてなんぼ、介護は寄り添って当たり前。そんなことを続けたら、簡単に潰されてしまう」と、ごろんと横になって畳の目を数えながらぼんやりと考えるゆずこ。暇すぎて2348目まで数えて、そして寝落ちする。ああ、自由最高、自由万歳。
言葉にすること、誰かとつながることで救われる思いも
思い出のフタを開閉する、このゆずこ式の向き合い方。介護のプロの方にはどう映るのでしょうか。認知症になっても安心して暮らせる社会の実現を目指す『認知症の人と家族の会』東京都支部代表の大野教子さんにお話をお聞きしました。
「現実が厳しいほど、思い出にフタをせざるを得ない状況になってしまうのかも知れませんね。『今だけを見て、今を乗り越えなきゃ!』と、ゆずこさんも相当大変な思いをされてきたのでしょう。ただ、それが行き過ぎてしまうと、ゆずこさんも懸念されていたように“お互いにとって幸せな介護”とはどんどんかけ離れてしまうかもしれません。
介護する人たちに必要なのは、自分の感情や状況を言葉にすることなんです。言葉にして誰かに話すことで、自分の状況を客観的に見ることができ、心に余裕も生まれます。だから私たち『認知症の人と家族の会』は、認知症当事者の方やそのご家族が参加できる集いやカフェ、イベントなどでの相談会を大切にしています。そういった会に参加すると、他人の介護の状況を知ることもできますよね。とても大切なことです。自分の世界だけに閉じこもってしまうと、いつの間にか『自分が一番大変な介護をしている』『自分だけが損な役回りだ』など、余計に自分自身を追い詰めてしまうこともあるのです」
確かに、人に話すなど言語化することで、「自分は苦しんでいた原因はこれか」「何で苦しいのか」と改めて気付くことがすごく多かった気がします。もし誰にも話せず抱えこんでいたら、わたしも悲劇のヒロインになってしまっていたかも……。
ただ今は一時的とはいえ、新型コロナウイルスの影響で外出も控えなくてはいけない緊急事態です。そんなときは一体どうすれば?
「家族の会をはじめ、今はお電話での相談の窓口も増えているんですよ。実際に介護を経験したスタッフが相談に乗ります。こちらからすごく具体的な解決策をご提案するということあまりないのですが、話されることで気持ちと頭がクリアになって整理できるのでしょうね。何がつらいのか、解決策もご自身で見えてくるようです」
この非常事態で集いやカフェなどへの参加を躊躇されている人は、“はじめの一歩”として電話相談にチャレンジしてみてはいかがでしょうか。
「いや、まだ耐えられる!」と1人で謎のガマン大会になったり、家族の笑顔が思い出せないくらい追い詰められたりする前にガス抜きをしてくださいね。相手を思いやるのと同じくらい、“自分メンテナンス”もすご~く大切です!
- 大野教子(おおの・きょうこ)さん
- 『認知症の人と家族の会』東京都支部代表。1995年から4年間、認知症の義母を在宅介護(その後18年間遠距離介護)し、およそ3年前に看取る。1999年に同会の東京都支部の世話人と電話相談員を務める。2011年、支部代表となる。