なかまぁるクリップ

車イス母と介護ムスメが超大型台風で避難を迷った理由 岩佐まり手記・前

フリーアナウンサーの岩佐まりさんは、重度のアルツハイマーの母と2人暮らし。仕事と介護を両立させながら、社会福祉士の取得を目指す大学生でもあります。介護福祉分野の情報感度が高く、人脈も広い、そんな岩佐さんを大きな不安をもたらしたのが、昨年、日本列島を揺るがせた台風19号でした。避難のためらい、移動の難しさなどをつづった手記を寄せていただきました。 

台風で空っぽになったスーパーのパンコーナー(岩佐まりさん撮影)
台風で空っぽになったスーパーのパンコーナー(岩佐まりさん撮影)

2019年10月12日、過去最強クラスの台風19号が関東を直撃したあの日、多摩川の畔に住む私のスマホには朝から緊急速報を知らせるエリアメールが立て続けに鳴り響いていました。多摩川の氾濫の恐れがあるとのことで、「警戒レベル4避難勧告」と表示されました。既に外は雨。前日から鉄道各線の運休や、近所のスーパー、母の通うデイサービスもお休みが決まっていたため、私は自宅から出ることなく要介護5の母の介護をしていました。

もし氾濫したら、私のいる町はすぐに浸水するほど川に近いため、マンションの3階住まいとはいえ、近所の友人から教えてもらった多摩川のライブカメラの映像をしきりにインターネットで確認していました。降りしきる雨のせいで、川の水位は見る見るうちに上がってきました。あのいつも穏やかな多摩川が本当に氾濫するかもしれないと恐怖を抱き始めたころに受信したエリアメールには「避難指示」が表示されました。

スマートフォンに届いたエリアメール(岩佐まりさん提供)
スマートフォンに届いたエリアメール(岩佐まりさん提供)

避難したいけど、避難が怖い

避難所に行くべきか。でも、車椅子の母を連れて大雨の中避難することの方が危険に思えました。また、避難所には母のおむつや介護用品を持参しなければなりません。例え1日分のおむつだけでもかなりの量で、私一人で持ち運ぶことは容易ではありません。避難所には母のように動けない人を介護するための簡易ベッドがどれだけ用意されているのかもわかりません。きっと地域の要介護者全ての人が使えるほどの台数はないでしょう。
それならば介護環境が整っている自宅にいた方がいいのではないか。結局、私は自宅にとどまり、川の氾濫を心配して朝方まで眠れませんでした。幸い、私の住む町は浸水被害は免れましたが、隣町では多摩川の氾濫によって亡くなられた方がいらっしゃいましたし、要介護状態にあった旦那様が奥様の目の前で溺死するという痛ましいニュースもありました。

台風の日の多摩川ライブカメラの映像を保存した(岩佐まりさん提供)
台風の日の多摩川ライブカメラの映像を保存した(岩佐まりさん提供)

まさかと思っていることが起きてしまう、それが自然災害です。甘く見てはいけません。災害弱者といわれる要介護高齢者や障害者は、悪天候になる前の段階で早めの避難が必要なはずですが、要介護高齢者、障害者だからこそ、介護環境を気にして早めの避難を躊躇してしまう気持ちを初めて体感しました。「早めに避難を」と、知識としては理解していてもいざ自分がその立場になって見えてくる問題も多いものです。

後編では、車いすの必要な母と暮らす岩佐さんならではの視点で、タクシー利用について考えます。

あわせて読みたい

この記事をシェアする

この連載について