母のショートステイの日 後ろめたさのワケは 気分転換の外食にも行けず
《介護福祉士でイラストレーターの、高橋恵子さんの絵とことば。じんわり、あなたの心を温めます。》
普段なら一日中、私が気にかける必要がある母。
今日この家には、その母はいない。
なぜなら、ショートステイで、
近隣の高齢者施設に宿泊中だからだ。
私にとっては、つかの間の休息。
——なのに、気が晴れない。
というのも親戚に、こう言われてしまったからだ。
「お母さん、
ショートステイに行きたがってるわけじゃないのに、
可哀想」って。
たしかに母は、
喜んでショートステイに行ってくれるわけじゃない。
前回は、行くのを嫌がられてしまったし。
でも、在宅で介護を続けていくためには、
私にだって休息が必要で、親子で話し合った結果だ。
それでも今日、
気分転換に行こうと思っていた外食は、
親戚や誰かに見られたらと思ったら、
後ろめたくてできなかった。
今ごろ母も、私と同じように、
やるせない思いをしているのだろうか。
母の思いも大事。
でも、その母の暮らしを支えるために、
介護者である私の思いも大事なはずだ。
答えの出ない問いに、
私はひとり、夜をさまよっている。
ショートステイ(短期入所生活介護)とは、
介護が必要な人が短期間、施設に入所し宿泊できるサービスのことです。
その間、在宅で介護をする人が休養をとったり、用事をすましたりすることができる利点もあります。
つまり、在宅介護をしている人にしてみれば、
介護を続けていくための命綱と言っても大げさではない介護サービスなのです。
けれど、今回取り上げた内容のように、
ショートステイで施設に宿泊するご本人と、
介護をする人の思いが一致しないケースもあるわけです。
ならばやはり、ご本人の気持ちが第一なのだから、
ショートステイを使わずに、
介護をする人にがんばってもらうのが正しいやり方なのでしょうか?
いえいえ、そんなはずがあるわけがありません。
はじまりもあやふやで、終わりも見えづらい、在宅介護の日々。
もしそこに正解があるとするならば、
それこそ、はっきりとした正しさを求めたりせず、
その都度、ご本人と介護者の思いのあいだをとっていくことこそが、
私には最適解に思えてなりません。
だから、介護をする人は、ショートステイを利用することで、
ひとときの休息をとって良いのはもちろんのこと、
大手を振って旅行や趣味に興じたって、当然かまわないのです。
在宅介護を継続していくためには、
「こうありましょう」と正解を押し付けあうよりも、
「ぼちぼちいきましょうか」と互いに声をかけあいたいものです。
《高橋恵子さんの体験をもとにした作品ですが、個人情報への配慮から、登場人物の名前などは変えてあります。》