認知症とともにあるウェブメディア

今日は晴天、ぼけ日和

認知症がある人を沈黙させる 親しくなった人ほど言いがちな残酷なことば

《介護福祉士でイラストレーターの、高橋恵子さんの絵とことば。じんわり、あなたの心を温めます。》

たき火をするひと

「認知症があるように見えないね」

君はたまに、僕にそう言うね。
まるで称賛するかのように。

でもいつも、僕はなにも答えない。

——その沈黙の意味を、君はわかってくれている?

本を手に笑顔のひと

「認知症があるように見えないね」

認知症って、そもそも目に見えないよ。

もし僕がこの本をわざと、さかさまに読みだしたら、
君は納得するのかな。

そうやってだれかに僕は、

僕自身と認知症のイメージを、
答えあわせさせられる残酷さを、

たくさんあじわってきたんだよ。

沈黙するひと

「認知症があるように見えないね」

君のおどろきに、
僕はいつも沈黙する。

この空のした、
僕は僕であるだけなのに。

「あなたは、日本人に見えないね」

日本人の両親のもと、日本で生まれ育ったあなた。

そう言われたら、
いったいどう答えますか?

私だったら、その質問者をいぶかりつつ、
しかもカチンとしながら、

「あなたは、日本人にどういうイメージをお持ちですか?」と、

聞き返すでしょう。


「認知症に見えないね」

という文言は、

認知症がある本人と親しくなってきた人たちが、
つい口にしがちな感想のひとつですし、

私だって、考えなしに言ってしまう未熟さがあります。

そのたびに、社会の「認知症のイメージ」に向き合わされ、

ひとり苦悩を胸にしまいこむご本人さんを見ると、
やるせない気持ちになります。

到底、認知症があるご本人の気持ちなど、わかるものではありませんが、

せめて、自分の発言がその人を不用意に傷つけるのだけは避けたい。


だからまずはこんなふうに、
自分自身に問いかけたいものです。

私は、認知症がある人に
どんな思いこみをもっているのだろうか?と。

《高橋恵子さんの体験をもとにした作品ですが、個人情報への配慮から、登場人物の名前などは変えてあります。》

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