夫を介護する私へのやさしい言葉 けれど、胸にチクリと刺さる理由とは
《介護福祉士でイラストレーターの、高橋恵子さんの絵とことば。じんわり、あなたの心を温めます。》
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私は、認知症がある夫の介護をしている。
だから、
「だんなさんに笑顔が多いのは、
あなたのかかわり方のおかげよ」と
周りからは、ねぎらいの声をかけられる。
みんなやさしい。
——それなのに。
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『あなたのかかわり方のおかげ』という言葉の重さに、
胸がちくりと痛む。
夫の調子のよさが、私のおかげだとしたら、
夫の調子がわるいときは、
私のせいってこと?
そんなふうに思ってしまう私は、
きっと心が狭いのだろう。
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それでも、私は願ってしまう。
これ以上、介護者家族に
なにも背負わせないで、と。
そんな声に出せない、私の小さな祈りが、
だれかに届きますように。
介護者のかかわり方によって、
認知症がある人の心持ちや、行動が変わる。
その事実は、世間にもだいぶ周知されてきたように見えます。
だからこそなのでしょう、
認知症がある人のご家族の
「私たちこそが、がんばらなきゃ」という熱意が、
以前と比べると、段違いに見受けられます。
認知症について理解を深め、かかわり方を改善する。
それはとても大切なことですが、
前提としてかかわり方だけでは、説明がつかない、
認知症の症状のあらわれ方があります。
例えば、今日は倦怠(けんたい)感が強くて、トイレの失敗も多いという日もあれば、
翌日はケロッとして、認知症が急に改善したのでは?と思われるような時もあるわけです。
つまり、ご本人も介護者も一筋縄ではいかない日々の変動を、
気持ちを揺らされながら、過ごされていることが多いのです。
だからこそ、ご本人が笑顔ならば、
「素敵な笑顔ね」「今日は絶好調ね」
という言葉だけで、介護者へのねぎらいに十分になるのではないでしょうか。
家族による介護について、第三者が一部だけを見て、適切かどうかなどと評価するのは、
おこがましいものです。
共にいる。
それだけで、尊いことなのですから。
《高橋恵子さんの体験をもとにした作品ですが、個人情報への配慮から、登場人物の名前などは変えてあります。》
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