受診は間違いだった?MCIと診断されて父が無気力に【お悩み相談室】
構成/中寺暁子
認知症介護指導者の落川晃央さんが、認知症の様々な悩みに答えます。
Q.父(70代)のもの忘れが最近ひどいので、認知症外来に連れていったところ、軽度認知障害(MCI)と診断されました。私としては認知症ではなくてよかったと思ったのですが、父は落ち込んで無気力状態。こんなことになるなら、病院に連れて行かないほうがよかったのでしょうか。(50代・男性)
A.「軽度認知障害」というと、認知症と名前が似ているので、本人からしてみると認知症と診断されたような感覚になり、ショックを受けるのかもしれません。認知症については、まだまだ正しく認識されていない面があるので、「人生が終わった」というような捉え方をしてしまうのも、仕方がないこともあります。
しかし、お父さんはMCI(軽度認知障害)の段階で診断されて、本当によかったと思います。まず、MCIは認知症ではありません。認知症になると後戻りはできませんが、MCIは今後認知症になる可能性もあれば、健常に戻る可能性もあります。それを左右するのは、これからの過ごし方なのです。何もせずに過ごしたらそれだけ、認知症になる可能性は高くなります。お父さんには、こうしたことを説明して「早く診断されたことを前向きにとらえて、回復を目指そう」と声をかけるといいと思います。
前向きになるには、ある程度の時間は必要だと思います。何をきっかけに前進するかは人それぞれですが、家族よりも医師など専門家の言葉がきっかけになることもあります。専門家から回復した事例などを話してもらえると、説得力が増すかもしれません。
MCIから健常に戻るためには、運動や社会交流などが効果的だと言われていますが、家族にすすめられて無理にやっても意味はありません。ストレスがたまって逆効果になることもあります。趣味などお父さん自身が楽しく取り組めるようなことをやるのが一番です。
もう1つ、MCIの段階で診断されることのメリットは、将来に向けて準備をするきっかけができたということです。認知症は、高齢になれば誰もがなる可能性があります。進行していくと自分の思いや考えを整理できなくなっていくので、大事なことを選択しなければならない場面で家族が決めるしかなくなります。例えば将来介護が必要になったときに、なるべく自宅で過ごしたいのか、施設に入居したいのかなど、誰もが考えておいたほうがいいですが、先延ばしにしてしまうこともあります。MCIと診断されたことを機に、将来についての考えを整理する、決めたことを周囲に伝える、あるいは記しておくといった準備をすることができます。
お父さんがMCIの段階で診断された意義を理解して、少しでも前に進めるといいですね。
【まとめ】父がMCIと診断されてから無気力状態のときには?
- MCIは認知症ではないこと、これからの過ごし方によって健常に戻れる可能性があることを理解してもらう
- 趣味などお父さん自身が楽しくできることに取り組んでもらう
- 将来の医療やケアなど、今のうちに考えておいたほうがいいことについて、決めておく
≪お悩みの内容については、介護現場の声を聞きながらなかまぁる編集部でつくりました≫