単なる赤みと侮るなかれ 皮膚の腫れで、母が予想外の長期入院に
タレント、アナウンサーとして活躍する“コマタエ”こと駒村多恵さんが、要介護5の実母との2人暮らしをつづります。ポジティブで明るいその考え方が、本人は無意識であるところに暮らしのヒントがあるようです。違和感を覚えた母親の顎の赤み。やがて赤みが腫れとなり、原因も分からないまま入院することになった、その後のお話です。
(前編を読む)
丹毒
朝起きて母の顎の腫れを確認し、仕事をしながらてんやわんやした、その夕方。デイサービスから家には戻らず病院へ運ぶと、そのまま入院することになりました。朝よりも夕方の方が腫れが酷く、赤みも広範囲に広がっていて、同じような腫れでも成人とは違って高齢者の場合は大事をとる方が良いとの判断です。在宅での急変は対応しきれないこともあるので、入院させてもらえることは大変有難い。訪問診療でお世話になっている病院なので、母の病歴を把握してくれているのも安心です。空きベッドがあったのは幸運でしかありません。
診断によると、病名は「丹毒」。私は初耳でしたが、皮膚の感染症とのことでした。母は不随意運動で下唇を噛んでしまうため、普段マウスピースをはめています。ただ、食事中や歯磨きのときなどマウスピースを外している時に、噛んで血だらけになることが時々ありました。
思えばつい数日前もそうでした。食後はしっかり口腔ケアをしてからマウスピースをはめているつもりですが、残渣(ざんさ)のふき取りが不十分のままマウスピースを付けると、食べ残しを密閉し、細菌の繁殖を促してしまうことになります。下の前歯の裏側は私からは見づらく、手を入れにくい上、カチカチと口を開け閉めする合間に口の中を清掃するので、タイミングが難しい。餅つきの餅をこねているタイミングで杵が振り下ろされたと想像してみてください。「ヨイショ!」の掛け声もないので、タイミングが合わなかったときは、「イッターーーーーーイ!」自分の意思に関係なく力いっぱい噛んでくるので、容赦がない。母はジョーズか!と思うほど、指をかみちぎられんばかりの痛みです。そうなると、私もつい、噛まれないよう警戒してすぐ手を引っ込めようとするので、結果、消極的な歯磨きになるのは否めません。
唇の傷口から感染したのなら、一番考えられる感染ルートは残念ながら、そこ。とりあえず、点滴で抗生剤を投与して炎症を抑えるとのことで、3日間点滴をし、薬に切り替えて様子を見ることになりました。
抗生剤の威力はすさまじく、みるみる赤みが引き、1週間後には「もう大丈夫」と思えるほどまで回復していました。念のためもう1週間様子を見て退院にしましょうと言われましたが、すぐ退院しても問題ないのではないかと思えるほどの回復ぶりでした。
しかし、入院から12日目、退院時間の調整に病院へ行くと、母の首の腫れがぶり返しているように見えました。看護師さんに診てもらうと、「あれ? ちょっと赤いですね。でも、医師からは特に指示がないので、明後日の退院で大丈夫です」とのこと。ところが、その翌日、母の顎から首、耳にかけてが、真っ赤に腫れあがっているではありませんか。入院した時に撮っていた写真と見比べてみると、場所は少しずれているものの、腫れの範囲や赤みは同じくらいになっていました。担当の先生に聞いてみると、
「うーん、赤いですね。昨日皮膚科の先生に診てもらえばよかったですね」
担当医は内科の先生。この病院では皮膚科の先生は常駐ではなく、毎週月曜日に来院されるとのこと。この日は火曜日。次の来院は6日後です。何と間の悪いことでしょう! 結局、翌日から再び点滴、投薬と振り出しに戻り、6日後の皮膚科の先生の受診までしのぐことになりました。
月曜日。皮膚科の先生に診察してもらい、さらに1週間の入院を指示され、ようやく退院の許可が下りたのは入院から約1カ月後。気づけばコロナを罹患した時よりも長く入院していました。細菌感染のルートが確定しないので原因を取り除けないのが一番苦労したところ。最初、顎に赤みを見つけたときは、入院なんて想像もしていなかったのに、皮膚の腫れ、侮れないものですね。
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