老いるほどに深まる孤独 寂しさを癒やしてくれるのは空想の家族の存在
《介護福祉士でイラストレーターの、高橋恵子さんの絵とことば。じんわり、あなたの心を温めます。》
「お姉ちゃん、もう眠い」
よしこちゃんが、私を呼んでいる。
よしこちゃん。
それは、私の幼い妹。
まだ4歳だから、私だけが頼りなの。
私の手のひらの上でいつも、
よしこちゃんは、ワガママを言うの。
でも、私はやさしいお姉ちゃん。
「お出かけ、明日にする?」
そう言うと、よしこちゃんは、
安心してうなずいた。
おねむのよしこちゃんに、
私は布団をかけて、添い寝した。
安心してね、よしこちゃん、
いつもそばにいてあげる。
私はやさしい気持ちのまま、目を閉じた。
年を重ねていくことは、
出会いよりも、別れが増えていくことかもしれません。
老いと共に寂しさもつのっていくだろう日々の中で、
ご自身のそばにいつも寄り添う、可愛い誰かがいてくれたら、どんなに心づよいことでしょうか。
私は今まで、ぬいぐるみやマスコットを、家族やペットのように愛情を注がれている、
認知症を深めた方々に出会ってきました。
例えば、キャラクターの書かれたバッジを、
幼い妹である「よしこちゃん」と信じて暮らされていたり、
犬のぬいぐるみを、昔飼っていた犬そのものとして飼い、
エサもあげていたりするようなケースです。
私は初めてそのような光景に出会ったとき、どう接したらいいのか、わかりませんでした。
けれど、
「今日もよしこちゃん、かわいいですね」などと、
その方がつくられた空想のご家族に、こちらの現実をそわせると、
ご本人の表情は、より穏やかになるのでした。
はたからは奇妙に見えても、
ご本人にとっては作りあげた家族こそが、安心できる世界なのでしょう。
その方々の愛情に満ちた顔を思い出すたびに、
老いるほどに深まるだろう、人の孤独を、
まわりまわって認知症がいやしてくれるのではないか、と、
わずかな希望を抱きたくなってしまうのは、私だけでしょうか?
《高橋恵子さんの体験をもとにした作品ですが、個人情報への配慮から、登場人物の名前などは変えてあります。》