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今日は晴天、ぼけ日和

狙われている?インターホンの録画に近所の男性 不安の中で訪ねてきた人

《介護福祉士でイラストレーターの、高橋恵子さんの絵とことば。じんわり、あなたの心を温めます。》

インターホンの画面に映る男性

最近、自宅のインターホンに、
近所で見かけたことがある男性の姿が、続けて録画されていた。

私の留守中になんどか来ているようだ。

うちの前でうろうろして、なんなのこの人。
私、狙われてる?

——そんな不安を抱えていたある日。

「二丁目の山田と申します」

見知らぬ女性が、硬い表情で訪ねてきた。

「最近、夫がご近所のインターホンを、押してまわってしまったんです。
 というのも、私の夫は認知症があって、近所でも、道に迷いがちでして…。
 きっとこちらにもご迷惑をおかけしたかもと思い、おわびに伺いました」

あの男性は認知症があって、
私の家を、自宅と間違えていただけなのか!

「もしかしたら、焦って、
 私の家をご自宅と間違われたのかもしれませんね。
 理由がわかって納得しました」

そう伝えると、インターホンごしに、女性は驚いた顔をした。

安心する女性

ドアを開けると、

「ご迷惑をかけたこちらの弁明ばかりで申し訳ない気持ちでしたが、
 夫が間違えた理由まで思いやってもらえるなんて、
 正直、ほっとしました」と、涙ぐまれた。

女性の笑顔を見ながら、私もほっとしていた。

この人の大事なご家族を、
私の勘違いから不審者にしてしまわなくて、本当によかった。

認知症がある夫が、他の家のインターホンを、頻繁に押し間違えてしまう。

ご近所にたいして申し訳なく思いながらも、同時に、
トラブルに発展する前に、周囲の理解を得ておきたいと願うのは当然の心境です。

私も訪問介護ヘルパーをしていた時に、認知症がある利用者さんの似たような件で頭を下げながら、
内心は少しでも理解を得たくて、お隣さんに直接かけあったことがあります。

ただ、まだ今のように認知症への理解がすすんでいない時代だったこともあり、
そのほとんどにおいて、こちらが望むかたちの理解は得られませんでした。

それは
「ヘルパーさんが入っているようなお宅の人がやることだから、
 こっちが我慢するしか仕方ないわね」といったもので、

理解からはほど遠く、“迷惑をかけられている”といった思いがひしひしと伝わってきたものでした。

認知症においての理解とは、
認知症があるご本人の行動の理由を共有してゆくことだと、私は思います。

とはいえ、ご家族など近しい関係であれば、
本人に直接聞いたり、様子を観察したりして、
理由を明らかにしやすいわけですが、
話したこともない相手だとそうもいかないでしょう。

それでも行動の理由を、思いやってみるのことが大切です。

なぜなら、その考察は相手だけではなく、お互いを楽にしてくれるからです。

インターホンを間違って押されても、
異様な行動だと、不穏にとらえることなく、

「あなたの家はここではなく、あっちですよ」と端的に伝えることもできて、胸中も穏やかに収められます。


遅かれ早かれ、誰がなっても不思議じゃない認知症。

一足先に認知症とともに生きる人を理解しようとすることはきっと、
自分自身の未来の居心地の良さへとつながっていることでしょう。

 

《高橋恵子さんの体験をもとにした作品ですが、個人情報への配慮から、登場人物の名前などは変えてあります。》

前回の作品を見る 

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