女学生のときからお気に入りの長い髪 白髪になってもこのままでいさせて
《介護福祉士でイラストレーターの、高橋恵子さんの絵とことば。じんわり、あなたの心を温めます。》
「髪、切ったら?
シャンプーしてくれるヘルパーさんだって、
短いほうが楽なんだからね」
家族はしょっちゅう私に、そう勧めてくる。
でも私は、この長さがお気に入り。
女学生の頃からずっと、同じ長さなの。
まひがある私の手では、洗髪は難しく、
訪問介護ヘルパーさんに介助をお願いしている。
たしかに短い髪だったら、洗うのもずっと楽よね。
でもどうか、この長い髪のまま、
残りの日々を過ごさせてほしいの。
長い髪は、女の子の憧れ。
私の永遠の夢が、きらきら光ってるの。
白髪のおばあさんになった今でも、
ずっとずっと。
服装や髪形に、こだわりを持つ人は少なくありません。
しかし、介護を必要とする段階になると、
そのこだわりに対して周囲から不満があがることがあります。
「ひとりでボタンが留められないのだから、ワイシャツじゃなくて丸首のものを着たら?」
「ひとりでも整えやすいように、髪は短くしたら?」
毎日ご本人に関わる介護者であれば、そう提案して当然です。
ひとりでも困らないようにと、一緒に考えることも大切なわけですから。
けれどできるだけそこで、立ち止まりたいと思うのです。
なぜなら、服装や髪形に関するこだわりは、
その人の個性や、これまでの生活様式・人生観が深く関わっているからです。
つまり他者が強引に変えてしまっては、
ご本人のその人らしさ、生きる意欲まで奪いかねない繊細な部分なのです。
だから、
「お気に入りのボタンシャツは、もう難しいから」と、
違うデザインのものを勧める前に、
どうすれば同じものを着続けられるかを一緒に考えてみる。
そうして自分のこだわりを大切にされたご本人は、
老いてできないことが増えていくという寂しさよりも、
未来に生きる意欲が自然に湧くことでしょう。
髪形や服装のこだわりには、
その人らしさのヒントが豊かに隠れています。
だからこそ、そのこだわりを一緒に大切にしてみる。
その余裕が、幸せな介護につながるのかもしれません。
《高橋恵子さんの体験をもとにした作品ですが、個人情報への配慮から、登場人物の名前などは変えてあります。》