【介護人材】老健施設の31.7%が60歳以上の介護助手を導入 小・中規模施設の受け入れ体制やサポート体制の整備が重要
取材・岩崎賢一
全国の介護老人保健施設(老健)を調べたところ、全老健の会員施設のうち31.7%の施設で60歳以上の介護助手(高年齢介護助手)を雇用していることが分かりました。「日本公衆衛生雑誌」で21日、調査分析をまとめた論文が公表されました。継続雇用のためには「希望に合わせたシフト調整」や「体調面での配慮」のための工夫が特に必要であることが浮かび上がりました。調査分析を担当した東京都健康長寿医療センター研究所の相良友哉研究員は「特に入所定員100人未満の小中規模施設における受け入れ体制やサポート体制を整備することが重要」と指摘しています。
60歳以上の介護助手は小・中規模施設で平均3.4人、大規模施設で平均4.2人を雇用
調査は、全国老人保健施設協会の会員3591施設の施設長に対して行われ、FAX調査では2170施設から、質問紙調査では1261施設からそれぞれ回答がありました。調査では、60歳以上の介護助手を高年齢介護助手として定義し、入所定員100人未満の「小・中規模施設」と100人以上の「大規模施設」に分類し、雇用理由や課題、教育体制、雇用継続のための工夫を比較しています。
この研究は、令和2年度厚生労働省老人保健健康増進等事業「介護老人保健施設等における業務改善に関する調査研究事業」の一貫として行われました。相良研究員によると、高年齢介護助手のあり方に対する全国調査は今回が初めてという。
FAX調査によると、高年齢介護助手を導入している施設は31.7%でした。さらに質問紙調査をしたところ、高年齢介護助手の雇用は大規模施設の方が小・中規模施設より多いことが分かりました。
また、質問紙調査によると、高年齢介護助手の平均雇用人数は、小・中規模施設でも大規模施設でも増加傾向にあり、2020年の時点で小・中規模施設で3.4人、大規模施設で4.2人でした。
「希望に合わせてシフト調整」「体調面への配慮」「定期的な面談等での心理的サポート」がポイント
雇用理由としては、「役割分担によるケアの質の向上」や、「介護職員の労働環境改善」といった目的が規模を問わず多かったですが、「介護事故のリスク減少のため」と回答した施設は大規模施設の方が6.5ポイント高かったのが特徴でした。
このほか、「決まった教育体制がない」と回答した施設は、小・中規模施設が30.0%、大規模施設が21.6%で、課題が浮かび上がりました。
雇用維持のための課題も同時に調査されています。施設規模にかかわらず、一番多かったのが、体力や体調といった健康面で仕事への影響が出やすい(小・中規模施設31.1%、大規模施設33.0%)でした。また、施設規模で差がでたのは、家庭の事情等で仕事への影響がでやすいとの回答結果で、小規模施設で15.7%、大規模施設で10.2%でした。このような事情もあるためか、高年齢介護助手を継続雇用するための工夫として、回答が最も多かったのが、「希望に合わせたシフト調整を行っている」(小・中規模施設69.4%、大規模施設69.2%)であり、その後、「体調面での配慮」(小・中規模施設57.4%、大規模施設63.8%)、「定期的な面談等での心理的サポート」(小・中規模施設24.1%、大規模施設37.3%)と続きました。
研修・教育、フォローアップはこれからも改善が必要
相良研究員らの分析によると、小・中規模施設は大規模施設に比べて、高年齢介護助手に対する決まった教育体制がなく、家庭の事情等で仕事への影響が出やすいと感じている傾向がありました。一方、大規模施設は、小・中規模施設に比べて、介護事故のリスク減少を雇用の目的としている施設が多く、継続雇用に向けて、定期的な面談などの心理的サポートをしている傾向がデータで示されました。
介護助手は特別養護老人ホームやグループホーム等でも導入されていますが、今回の調査は老健施設を対象にしたものです。そのうえで相良研究員は、「小・中規模施設で教育体制が整っていないのは、現場が忙しく、フォローアップができておらず、最初の研修も不十分である可能性が浮かび上がりました。高年齢介護助手は、必ずしも介護の経験があるわけではありません。多様な人材の確保が求められている中、これは介護施設側の改善すべき課題です」と指摘しています。
*この記事は、東京都健康長寿医療センター研究所の藤原佳典副所長、相良友哉研究員への取材及び「日本公衆衛生雑誌」に掲載された論文「介護老人保健施設の規模による高年齢介護助手の導入実態と課題」を参考に作成されています。
*論文は、こちらの「日本公衆衛生雑誌」のURL(https://doi.org/10.11236/jph.23-052)から読むことができます。