「せーの!」床に尻もちした母をベッドに戻すのに、役立ったのは粗大ごみ

タレント、アナウンサーとして活躍する“コマタエ”こと駒村多恵さんが、要介護5の実母との2人暮らしをつづります。ポジティブで明るいその考え方が、本人は無意識であるところに暮らしのヒントがあるようです。今回は、ベッドから車椅子への移乗がうまくいかず、床に尻もちをついてしまったお母さんを、ベッドまで持ち上げたときの苦労についてのお話です。
床に落下
あー! これはマズイ…。
最近体重が増加した母。ベッドから車椅子に移乗する時、90度回転させてお尻を車椅子の奥まで運んで座らせるところ、途中で重さに耐えられず、手前の端っこに腰掛けてしまいました。その拍子にズルズルズル…車椅子が後ろにずれ始めたのです。
このままでは母のお尻は床に落ちてしまう!と、必死に母の両手を掴み、引き上げて立たせようとしましたが、私は股関節と半月板を断裂してリハビリ中の身。しかも、母の方が私より体重が重い。持ち堪えられず、母はゆっくりと床へと沈んでいきます。
「あーーーっ!」
遂に尻もちをつきました。尻もちをついた瞬間、ベッドサイドのレールにコツンと側頭部をぶつけるおまけ付き。あー、やってしまった…。
大事には至らなかったのですが、問題はここからです。母をどう起こすか。

この時の母は脱力がひどく、床にのびた状態。背中を起こしても保持できないため、床へと倒れていき、膝を曲げても伸びていきます。何より、脱力した状態は、より一層重い。
困ったなぁ…。
母のお尻を一度に車いすの座面まで持ち上げるのは到底無理。段階的に引き上げようと、高さ18cmの低い踏み台を持ってきました。まずはこの踏み台にお尻をのせることが目標です。母の背後にまわり、母と、私の間に踏み台を入れて。母のお尻を持ち上げます。

「せーの! …うーーーーん。」
やはり重く、持ち上がっても18cmには届きません。一瞬踏み台の端に乗っても、シーソーのように反対側が浮きあがり、滑ってズレたり、なかなか乗せられません。
参ったなぁ…。ちょっと休憩。一旦冷静に考えよう。
軟体動物のような今日の身体状態だと、まず背中を起こした状態で保つのが大変です。支えが必要だから、何かにもたれかかった状態で動かし始めるのはどうか。
母を120度回転させ、ベッドの側面を背もたれのようにして背中が寄りかかった状態にしました。そのままだと左右、あるいは前に傾くので、常に私の手は母の肩に。肩を支えながらベッドに乗り、母の背後へまわり、後ろから引き上げようと考えました。ところが、実際ベッドの上に上がると、マットレスがエアーなので足元がグラグラします。その上、車椅子ほどではないものの、高さがあり、思った以上に難易度が高い…。

やはり段階が必要と、母とベッドの間に踏み台を置き、母の肩をベッドに預けて体重を分散させながらお尻を持ち上げ、その踏み台に一旦乗せてから、ベッドへ引き上げようと試みました
が、どうしても膝がダラーンと伸びて踏ん張れません。
次の課題は膝を曲げた状態に保つことと考え、足を投げ出そうにも、伸ばせない状況を作ればよいと、部屋を見回しました。多少押されても大丈夫な重量があるものは何だろう…。すると、粗大ゴミで出す予定の空気清浄機が目に入りました。足の前に置いてストッパーがわりにしてみよう。

「せーの!」
エアマットの不安定さが邪魔をします。私の方がしっかり踏ん張れません。体幹を鍛えておけば良かった!
テレビからは、さっきオープニング曲が聞こえてきたと思っていたバラエティ番組の次週の予告が流れています。ひと場面も見ないうちに45分が経過していました。よし、もうひと頑張り。腹筋に力をこめて、
「せーの!」
お!? 踏み台に乗りました!チャンス。この勢いでベッドまで!!
「せーの!」
何がなんでも、今決めないと。
「もう一回。せーの! うーーーーーん、あっ!? 乗った!」
遂に、ベッドにお尻が乗りました。火事場の馬鹿力とはこのこと。もう汗だくです。あー良かった…。
こころからホッとしたものの、今後こういうことがあった場合どうすればよいか検討せねば。またひとつ課題が見つかりました。とりあえず、空気清浄機は粗大ごみから一旦退却することになりました。

