初の団体ツアー 見ず知らずの方々の温かさに触れた、いつもと違う親子旅

タレント、アナウンサーとして活躍する“コマタエ”こと駒村多恵さんが、要介護5の実母との2人暮らしをつづります。今後母親に介護が必要になると診断されてから、積極的に親子旅をしていた駒村さん。スペイン旅行でさまざまな温かさに触れた時のお話です。
母と周遊スペイン旅
今後、母に介護が必要になると医師に告げられてから、私は努めて母と旅に出かけました。他人に合わせる旅行は気を遣うので、ツアーではなく個人旅行。徐々に遠出ができなくなることを想定して、目的地を長距離から設定し、母の状態の下降に伴って、距離を縮めていこうと考えていました。歩けるけれど長い距離は車いすの方が良いという時期は、観光案内所などに車いすをレンタルできないか聞いてみたり、ホテルによっては無料で利用できるところもあるので、色々なホテルにメールで問い合わせ、部屋とともに車いすのレンタルを予約していました。

ところが、私が行きたいと思っていたスペインは、リサーチの結果、個人で何カ所か巡るより、ツアーに参加して荷物を預けたまま観光した方が明らかに効率よく安全に周れそうでした。当時、まだ自力歩行出来て、団体行動もとれそうだったので、初めてツアーを予約することにしました。

出発は2月半ば。前日、都内は大雪で交通機関も大幅に乱れるほどでした。幸い当日は晴れ間がのぞきつつあったものの、足元は悪く、履いていたタイツはビシャビシャ。私は母の分のスーツケースも運び、何とかリムジンバスに乗り込みました。ところが、乗り込むときに、屋根に積もっていた雪が私の頭上にバサッ!
「ワッ!」
慌てて雪を払ったのですが、その時、私は財布を落としたようなのです。
気づいたときは真っ青になりました。しかし、ツアー料金は先払い。滞在中の食事と宿泊代はほぼ含まれています。加えて、約450ユーロを分けて持っていたので、節約すれば何とかなりそうです。スペインはスリが多いと聞き、母は財布を持たず、私が封筒で管理することにしたのですが、まさか私が都内で財布を落とし、このお金を使うことになるとは!

飛行時の遅延により、マドリードに到着したのは予定より6時間遅い深夜1時。私のスーツケースがロストバゲージ。私の方に詰められるだけ荷物を詰めて、母の方は、ほぼ空にしていたので、着替えもありません。ホテルで温かいお茶を飲めるように小型電気ポットを購入して茶葉とともに持参したのですが、ポットは私のスーツケースに、茶葉は母のスーツケースに入れていました。スカスカのスーツケースから茶葉を手にし、長い一日を思い、グッタリ。着の身着のままでベッドにもぐりこみ、波乱の初日を終えました。

その後ツアーは順調に進み、3日目、世界遺産メスキータを観光していると、あるご夫婦が私たち親子の後ろをゆっくりと歩いていることに気づきました。私たちが徐々に集団から遅れ始めたことを察知し、はぐれないようにさりげなく最後尾を歩いて下さっていたのです。お礼を言うと、「もう母が他界して親孝行できないから」と、ツアー中、見守って下さいました。

卒業旅行で参加していた女子大生3人組は、飛行機の座席が私と母が離れていることを耳にし、「私たち連番だったのでどうぞ」と、席を交換してくれました。その後も皆さんと自由行動でも食事に出かけたり、写真を撮り合いっこしたり。迷惑をかけたくないと個人旅行を選んできましたが、見ず知らずの方々のあたたかさに触れて、いつもとは違う旅の良さを教えてもらいました。

そして帰国の日。空港カウンターで手続きをしていると、「あなたのフライト はキャンセルだ」と告げられました。経由地のドイツのセキュリティ担当者がスト ライキに入ったので、国際便の人だけがキャンセルになると言うのです。ツアー参加者、みんなパニックです。到着地が違うからと各自でルートの選択を迫られ、急に差し迫った状態でそれぞれの無事を祈りながら別れることになりました。

結局、我々は8時間以上遅れて帰国。財布がないので母のシルバーパスと交通系ICの残高を駆使し、なんとか家にたどり着いた時は、二人ともしばらくイスから動けませんでした。最後まで波乱がありましたが、記憶に残る、忘れられない母との旅となりました。

