都会でのうれしい「おせっかい」 多くの人の優しさに支えられ
タレント、アナウンサーとして活躍する“コマタエ”こと駒村多恵さんが、要介護5の実母との2人暮らしをつづります。ポジティブで明るいその考え方が、本人は無意識であるところに暮らしのヒントがあるようです。今回は、たくさんの「優しさ」に支えられているというお話です。
優しい世界
先日、いつものようにあさイチ放送終了後、メイクを落としていると、その日のゲストのお一人がひょっこり。「これだったらお母さん食べられるかなと思って」と、栗きんとんをお土産に下さいました。会ったこともない母に心を寄せていただいて、嬉しい…。この連載の読者の方もそうですが、密かに母を気にかけてくださる方が多く、殺伐とした世の中で優しいぬくもりを感じています。
ご近所にも母を気遣ってくださる方がたくさんいます。
商店街の菓子店のお父さん。母はここのメロンパンを毎日のように食べていた時期がありましたが、嚥下機能が落ち、今はプリンを時々買うくらい。それでも、私たち親子がショーケース前にやってくると、「おー! いらっしゃい!!」とお父さんが中から出てきて、「お母さん! どう? ああ、今日顔色いいじゃない!」など、必ず目の前にきて腰をかがめ、「寒くなってきたから気をつけてね」などと送り出してくださいます。
お煎餅屋さんのお父さんは母よりも年上。車いすで出かけると、「中に入ってお茶飲んでいきなよ」と、おせんべいを陳列している台をレジ奥に運んで車椅子が通れるように道を作り、「お母さんはヨーグルトなら食べられるよね!」と、冷蔵庫からヨーグルトを出してきて食べさせてくれます。時には、どこかへ出かけたと思ったら「切らしちゃってたから、買ってきた」と、わざわざコンビニまでヨーグルトを買いに行ってくださったことも。お煎餅屋さんなのに! こちらのお煎餅が我々親子は大好きで20年以上通っていたのですが、お父さんが86歳という年齢もあって、惜しまれながら閉店。ご夫婦に良くしていただいたことは忘れません。
母が通院している歯科医院は、母をきっかけにバリアフリー化されました。以前は、数段の階段を上がるとき、スタッフの皆さんが車いすごと母を持ち上げて運んでくださっていたのですが、移転に伴い、段差解消のスロープが導入されたのです。しかも、こちらの先生は、私たちが会計するのを見計らって、手が離せるときは先回りしてエレベーターのボタンを押しに行き、ドアを開けて待っていてくださいます。
花屋の店員さんは、私たちが花屋の横に入口があるビルに入ろうと、自動ドアの開閉ボタンを押そうとすると、無言で駆け寄って代わりに押してくださいます。
短いストロークですが下り坂になっているので、私はバックで坂を下り、ブレーキをかけ、振り向いて開閉ボタンを押しているのですが、ボタンを押してもらえるだけでスムーズに入れるので、ひと手間かからないことが、実はとても助かっています。
母がまだ要介護1だった頃。大学病院へ行くために二人で電車に乗ろうと改札を入った途端、母が駆け出したことがありました。電光掲示板を眺めている男性に話しかけると、くるっと私の方を振り返り、「多恵ちゃん! 溜池山王に行きはるんやて。教えたげて」と言うのです。東京の土地勘は皆無の母。溜池山王という単語だって初めて口にしたと思います。
とにかく「あの人は困っているんじゃなかろうか?」と思えば、自分で助けられるかどうかは置いておいて、とりあえず手を差し伸べる…。極めて母らしい行動で、苦笑しながらルートをお伝えしました。それまでの私は、都会はあまり干渉しないので、むやみに話しかけるのを良しとしないと思い込んでました。おせっかいを恥ずかしがらないことは大事かもしれないと、考えを改めたことを覚えています。
あれから何年も経ち、今、私たち親子は様々な方に支えられています。何気ない会話や行動に救われることがたくさんあると感じています。11月11日は介護の日。改めて感謝したいです。