毎日元気になんて過ごせない!介護を持続可能にするための母と私の冷凍貯金

タレント、アナウンサーとして活躍する“コマタエ”こと駒村多恵さんが、要介護5の実母との2人暮らしをつづります。持続可能な介護をモットーとする駒村さんは、自分用の常食とそれを母親用の介護食にした冷凍ストックは欠かせないといいます。そんな介護食士としての腕を買われ、ついに介護食研究家としてデビューした時のお話です。
介護食研究
瓶のふたが開かなくて、必死に捻ったら掌の皮がむけました。たかが数センチ。しかしながら、利き手なので作業効率がものすごく落ちます。湿潤療法の絆創膏を貼って手袋を着用し、母の移乗、体位交換、着替え等々を行うのですが、何かをつかんだり、押したりするたび、痛みが走ります。料理もしかり。野菜をこすり洗う動作が、もうしんどい。気をつけながらゆっくり行うと、全体的に予定がずれ込み、結果的に睡眠不足に繋がります。それはもう、私のモットーとしている持続可能な介護にはならないので、何かを諦めます。
今回は、料理を放棄。「今日、料理作るの、めんどくさいな」という気持ちになった時のために、我が家の冷凍庫には、レンジで温めたらすぐ食べられる料理を沢山ストックしています。調理するときに多めに作って小分けにして冷凍。すぐにさぼりたくなる私自身のための対策です。そんなに毎日毎日、元気になんて過ごせませんから。
私が食べるための常食と、それを、母が食べられる食形態にアレンジした介護食、それにきのこ類とネギ、しょうがは使い勝手が良いので、切ったり、すり下ろしたりした状態で冷凍庫に存在するレギュラーメンバーです。特にえのきだけは、加熱するととろみが出てくるので、介護食を作る上で重宝する食材。細かく切った状態でのストックは欠かしません。
そんな私の食の工夫の一端を是非放送でと、介護食を番組で紹介するオファーをいただきました。NHK Eテレ「あしたも晴れ!人生レシピ」。高齢者は積極的に肉を食べようという特集で、肉料理を作ったのです。介護食研究家デビューです!

介護食と一言で言っても、食べる人の状態によって食形態は異なります。歯がどこにどのくらい残っているか、舌の動き、唾液の分泌量など色々な要素が絡むので、今回は、視聴者層に合わせて常食に近いもので、母の歯や飲み込みが悪くなって以降、実際に工夫を加えたメニューを紹介することにしました。
メニュー決めに当たって、これまでに作った介護食関連の写真や動画を見返しました。おそらく千枚は優に超えるであろう膨大な数に目がチカチカしました。この作業は、結果的に母の嚥下機能が悪化していく10年をたどることにもなり、寂しさは否めません。一方で、ここ4、5年は訪問診療に来てもらっている嚥下外来の先生方と確認しながら食形態を決めているのですが、その作業を楽しんでいることも感じ取れました。例えば、甘さを足しつつとろみの状態を調整する場合、砂糖の代わりにハチミツを使うか、ハチミツよりもさらっとしたとろみのメ-プルシロップを使うかで最適なテクスチャーに近づける具合。

ある日、診察中に味見をしながら調整していると、「なんか、外部ラボみたいですね!」と先生。確かに。「これを加えてみたらどうだろう?」などと、かき混ぜたりすり鉢で擦ったりする我が家の台所は、さながら介護食の実験室です。実は、母は薬剤師で、国家試験の勉強のために終電ぎりぎりまで大学で毎日のように実験していたという話をよくしていました。分銅や乳鉢、乳棒を使って実験していた日々は、母にとって懸命に打ち込んだ青春そのものだったように思います。だからなのか、先生の会話に耳を傾けている母は、いつも満足そうです。

先生方も私が診察のために準備しているメニューを予想して我が家にやって来るので、時には「当たった! 今日クリスマスだからビーフシチューだと思ったんですよね!」などと的中を喜び、試食も楽しみにしてくださっている様子。要介護5ともなればいつどうなるかわからないという覚悟は必要になりますが、介護食を囲んであーだこーだ言い合う時間が、これからもずっと続くと良いのにと思わずにはいられません。

