身につけていない腕時計をはずそうとする母 伝えたかった体のサイン
《介護福祉士でイラストレーターの、高橋恵子さんの絵とことば。じんわり、あなたの心を温めます。》
![身につけていない腕時計をはずそうとするひと](http://p.potaufeu.asahi.com/2963-p/picture/27904719/5f3cf0d256177db87f1d48e3cff49cae.jpg)
「腕時計をはずさなきゃ!」
認知症がある母は、たまにこんなことを言う。
実際のところ、母は腕時計をしていない。
けれど母は必死に、
あるはずのない腕時計を、はずそうとするのだ。
![困った表情を浮かべるひと](http://p.potaufeu.asahi.com/a92e-p/picture/27904717/9a0eb03e0b9cd1fcfe7f051812ff68c3.jpg)
はじめのころ私は、
母がおかしくなったように感じて、悲しかった。
だから「腕時計なんてしてないよ!」と、
無理やり、その行動をやめさせたこともあった。
でも深呼吸して、
母のようすをじっくり見るようにした。
すると、そんなふうに母が言うときは、
疲れていたり、トイレに行きたいときだと、
なんとなくわかるようになった。
![並んで座る親子](http://p.potaufeu.asahi.com/38cc-p/picture/27904718/8dc7486748d7303f3a24612754bbdcd1.jpg)
母はおかしくなったわけじゃない。
からだのサインを、昔とは違う方法で
あらわすようになっただけ。
わかってあげられないこともいっぱいあるけれど、
のんびりゆこうね、お母さん。
認知症がある人が、
実際にはしていない、腕時計やベルトを外そうと、
必死に格闘しはじめる。
そんな状況に居合わせたことはありますか?
私自身はよく経験してきた状況なのですが、
毎回、すぐには理由がわからないので、
お互いに困ってしまうこともしばしばです。
それでも、
認知症があるご本人のからだが、
なにかの理由で、いま、不快なんだろうなということは、
なんとなくわかるもの。
疲れて歩きたくない、という理由が、
裏に潜んでいたこともあれば、
トイレを我慢していたり、
頭がぼーっとしたりして、足もとの平衡感覚が揺らいでいた、というときもありました。
原因が、わかるときもわからないときもあるのは仕方ないとして、
大切なのは、
見えない腕時計を外すのを、無理やりやめさせたりしないことだと思います。
「なんで、それを外したいんですか?」
そんな会話を重ねながら、
原因が浮かびあがってくるときもあるのですから。
《高橋恵子さんの体験をもとにした作品ですが、個人情報への配慮から、登場人物の名前などは変えてあります。》
![](http://p.potaufeu.asahi.com/nakamaaru/img/nakamaaru450_450.gif)