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認知症になると表情も変わる?顔つきに関わる特徴や最新のAI研究を紹介

認知症と顔つき(イラスト/Getty Images)
イラスト/Getty Images

認知症になると表情や顔つきが変わることがあると言われています。さまざまな要因が複合的に関わっていると考えられますが、最近は脳の中の表情に関連する部分が変化することも一因だということが明らかになりつつあります。また、顔つきからAIの解析によって認知症を早期発見する方法も研究されています。認知症患者の診療に携わる東京大学医学部附属病院認知症センターの亀山祐美医師とAI画像解析を専門とする東京都健康長寿医療センター研究所神経画像研究チームの亀山征史医師に解説してもらいました。

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認知症になると表情にも影響する?

認知症になると、表情や顔つきが変わることがあると言われています。さまざまな要因があると考えられますが、最近は脳の変化が表情にも関係することがわかってきました。

脳の表情に関わる部位が萎縮している可能性がある

アルツハイマー型認知症は、「アミロイドβ」というたんぱく質が、脳の神経細胞の外側に蓄積することがきっかけとなって発症すると考えられています。アミロイドβがかたまりとなると、神経細胞の中に「タウたんぱく」が蓄積して神経細胞が減少していきます。アルツハイマー型認知症の人は、神経細胞の減少によって記憶を司る「海馬」が萎縮し、記憶障害が出るとみられています。東京大学医学部附属病院の研究チーム(※)では、認知症の人とそうではない人の笑顔の写真をAIで画像解析したところ、認知症の人は笑顔のスコアが低いことがわかりました。さらに笑顔のスコアが低い人は脳の「側坐核」や「淡蒼球」という表情に関わる部位が萎縮している傾向がありました。今後全国的に多施設の患者を対象に調査していく必要がありますが、認知症の人の脳の変化そのものが、直接的に表情に影響を及ぼす可能性があることがわかってきたのです。

※複十字病院認知症疾患医療センター長 飯塚友道医師、東京大学医学部附属病院老年病科の亀山祐美医師らのグループと東京都健康長寿医療センター研究所神経画像研究チームの亀山征史医師の共同研究

アミロイドカスケード仮説/神経細胞 アミロイドβ アミロイドβが蓄積 → タウたんぱく質が蓄積 神経細胞が死滅 → 認知機能が低下
アミロイドカスケード仮説
アルツハイマー型認知症については、以下の記事をご参照ください
どんな症状?アルツハイマー型認知症 MCIとの違いや薬、検査法を名医が解説

認知症の症状によって表情が変化する

認知症の人は意欲や関心が低下しやすくなることから、ボーっとして表情が乏しくなることがあります。また、不安を感じやすくなることでつねに緊張した表情になったり、怒った表情になったりすることもあります。口腔環境が悪化したり、あまり話さなくなったりといったことで、口元が変化しやすい傾向もあります。

運動症状の1つとして表情が乏しくなる

アルツハイマー型以外の認知症の類型のうちの一つであるレビー小体型認知症は、手足が震える、動作が緩慢になる、筋肉がこわばるといったパーキンソン病の症状(パーキンソニズム)が見られるのが特徴です。パーキンソニズムは神経伝達物質の1つであるドパミンが不足することで現れますが、ドパミンは運動機能に関わるため、体が動きにくくなる、筋肉が緊張し続ける、姿勢を保ちにくくなるなどのさまざまな運動症状が出ます。表情筋も動かしにくくなるため、表情が乏しくなります。

レビー小体型認知症については、以下の記事をご参照ください
レビー小体型認知症を専門医が解説 原因や前兆、なりやすい人など

認知症になったときの表情の特徴とは?

認知症の人の表情や顔つきの傾向として、目がどこを見ているのかわからなくなる、口のしまりがなくなる、笑顔が下手になる、つねに緊張した表情あるいは怒った表情になるといった特徴があり、進行するほど認知症ではない人と比べたときの変化は大きくなります。

また、レビー小体型認知症の特徴の1つとして、無表情でまばたきの回数が少なく、1点を見つめるような「仮面様顔貌」と呼ばれる表情があります。

 鏡を見つめる男性、Getty Images
Getty Images

認知機能の低下をAIで見分ける解析も

東京大学医学部附属病院の研究チームは、同院老年病科を受診している比較的軽度の認知症患者121人と認知症ではない117人(東京大学高齢社会総合研究機構が実施する大規模高齢者コホート調査の参加者のうち同意を得られた人)を対象に、正面の表情のない写真を使って、認知機能が低下しているか、もしくは健常かを判別できるかどうかを調べました。判別に使用したのは、認知症の人と健常の人の顔写真を学習させたAIです。

数種類のAIモデルで調査したところ、最も成績がよかったAIでは感度(認知症の人を認知症と見分けた割合)87.31%、特異度(認知症ではない人を認知症ではないと見分けた割合)94.57%で、正答率は92.56%でした。年齢で2つのグループに分けて解析した場合でも同様の成績を得られたため、年齢による影響は少ないと考えられます。

精密検査につなげる、精神的負担の少ないスクリーニングとして活用

厚生労働省が9月、国内での製造販売を正式承認した新しい認知症の治療薬「レカネマブ」は、アミロイドPET検査や脳脊髄液検査によって、アミロイドβの蓄積が認められたMCI(軽度認知障害)や軽度アルツハイマー型認知症の人が対象となります。レカネマブは従来の認知症薬と異なり、脳内のアミロイドβを減らし、進行を抑えることが期待されています。つまり、これまで以上に認知症を早期に発見する意義が大きくなっているのです。しかしアミロイドPET検査は費用が高額で、脳脊髄液検査は腰椎に針を刺して髄液を採取するので、体に負担がかかります。また、どちらの検査も限られた施設でしか実施されていません。認知症の検査として広く実施されている「改訂長谷川式簡易知能評価スケール」や「MMSE(ミニメンタルステート)」といった神経心理学検査は、「今日は何月何日ですか?」など、質問によって記憶力などをテストしていくので、患者側が嫌な思いをすることもあります。

そこで、まずは顔の表情による簡単なスクリーニングによって早い段階で判定することができれば、精神面の負担も減らしつつ、より詳しい検査が必要な人を脳脊髄液検査やPET検査につなげることができるようになります。

レカネマブについては、以下の記事をご参照ください
国内でも承認へ アルツハイマー病の新薬『レカネマブ』を徹底解説

実年齢より、見た目年齢と認知機能のほうが関係が深い

南デンマーク大学の双子を対象とした有名な研究では、70歳の一卵性双生児を比べると、喫煙歴や生活習慣病の有無などによって、見た目年齢が大きく変わること、さらにそれが寿命にも影響を及ぼすことが指摘されています。また、見た目年齢が動脈硬化、骨粗鬆症の指標となるといった研究報告もあります。

認知症はどうでしょうか。東京大学医学部附属病院老年病科の入院患者を対象とした調査では、「MMSE」検査の結果と見た目年齢が相関することが明らかになりました。具体的には、認知症の疑いが低い人ほど、実年齢よりも若いということがわかったのです。この調査を応用し、AIによる画像解析を導入したのが、前述した研究です。

「顔情報」を利用して認知症の早期発見へ

写真撮影、Getty Images
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AIを使って顔で認知機能の低下を判別する検査が実用化されれば、簡単で負担がほとんどない、認知症のスクリーニング(特定の病気が疑われる人を選び出すこと)検査となることが期待できます。認知症の専門医がいない地域で実施できるのもメリットです。この検査によって認知機能の低下が疑われれば、専門医への受診や予防に取り組むきっかけになるはずです。さらに次のような活用方法も考えられます。

・認知症の治療を受けた場合に、治療効果を判定する方法になる
・健康診断のたびに顔写真を撮ることで、前回との比較によって認知機能の低下を判断することが可能になる

実用化のためには、今後より多くの顔写真をAIに認識させたうえで、大規模な調査を実施することが必要です。

表情が伝えてくれること

顔の研究結果などからわかるように、表情や顔つきに変化があった場合、認知機能が低下しているサインかもしれません。家族や身近な人に顔の変化があった場合、早めに医療機関で相談することをおすすめします。

顔を見合わせる祖母と孫、Getty Images
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顔周りを意識しよう

AIによる画像解析はブラックボックスで、具体的に顔のどの部分を見て認知症を判別しているのかはわかりません。しかし前述の研究で顔を上下に分けて解析したところ、顔の下半分のほうがよい成績でした。あくまで推測ですが、認知症になると自分で歯磨きができなくなるなど口腔内の衛生環境が悪化して歯を失う、話すことが減って口の周りの筋力が低下するといったことが考えられます。

まとめ

認知症の人の表情や顔つきが変わるのは、さまざまな要因がありますが、脳の変化そのものが、影響を及ぼすことが明らかになりつつあります。認知症を疑っても受診までのハードルはまだ高いのが現状ですが、今後さらなる解明が進み、顔による検査方法が確立されると、より早期に発見できる人が増えるのではないでしょうか。

認知症の人とのコミュニケーションについては、以下の記事をご参照ください
認知症の人とのコミュニケーションに役立つバリデーションを徹底解説
心の安定や意欲の向上も 昔の思い出を語ってもらう回想法 実践方法や留意点は

認知症の人の顔つきについて解説してくれたのは……

亀山先生画像200
亀山祐美(かめやま・ゆみ)
東京大学医学部附属病院認知症センター 副センター長
1998年東京女子医科大学医学部卒業。フランス・ストラスブール大学病院神経内科留学、東京大学保健・健康推進本部助教などを経て、2020年より同大医学部附属病院老年病科特任講師。日本認知症学会専門医、日本老年医学会専門医、日本老年精神医学会専門医、日本抗加齢医学会専門医、日本内科学会認定内科医。

亀山征史・東京都健康長寿医療センター研究所神経画像研究チーム AI画像解析専門部長
亀山征史(かめやま・まさし)
東京都健康長寿医療センター研究所神経画像研究チーム AI画像解析専門部長
1998年東京大学医学部卒業、2005年同大大学院医学系研究科修了。国立国際医療研究センター、東京都健康長寿医療センター放射線診断科医長を経て、2023年から現職。

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