男子トイレで「ついてくるな」 介助が必要な父に付き添えず心配な娘
《介護福祉士でイラストレーターの、高橋恵子さんの絵とことば。じんわり、あなたの心を温めます。》
![娘がトイレについてくるのを「こないで」と拒否する父](http://p.potaufeu.asahi.com/6c99-p/picture/27918734/3358662dc64727879a77a5ef9938dfe4.jpg)
外出先で、一番困ること。
それは、認知症があり、
毎回介助が必要な、父のトイレだ。
小さな店内で、トイレに行きたくなった父。
私は急きょ、『介護マーク』を下げ、
男子トイレに入らせてもらえる機会をうかがった。
でも父は
「ついてくるな。みんなに迷惑がかかるから」と譲らなかった。
![一人でトイレに行く父親が心配な娘](http://p.potaufeu.asahi.com/d568-p/picture/27918737/047e1aecaf60bf5472ee18b539895fb6.jpg)
周りからはわからないだろうが、
父にとってトイレは難関だ。
でも介護中だからといって、
異性の私がずかずかと、男子トイレに入っていいわけがない。
そして、一緒に中に入って介助に付き添える多機能トイレは、
駅や大きな施設以外では、まだまだ少ない。
父はドアの鍵に、戸惑っていないだろうか。
うまくリハビリパンツをおろせただろうか。
![「介護中」と書かれた介護マーク](http://p.potaufeu.asahi.com/376a-p/picture/27918738/35128fc3a0dfa56d188c87e331544ab6.jpg)
私と父の、平和でささやかな日常は、
どこにいってしまったのだろう。
——でも、きっといつか。
認知症も介護も、
よのなかにもっと理解されて、
当たり前に暮らせる日がくる。
私はじっと介護マークを見つめながら、
父を待った。
例えば、喫茶店で珈琲を飲んだとき、
「ちょっと、トイレ」と、立ち寄っておく。
それは、どなたにもよくある日常かと思います。
けれど、もし自分自身や大切な人が、
そんなささいな行為さえも、
ひとりでは簡単にできなくなる日々を想像したとき、
町やよのなかはまったく別の色をおびて、見えるかもしれません。
特に、トイレ介助を必要とする人が外出をするとき困るのは、
同伴する人が異性である場合です。
こうしたときのために、たとえば近年、静岡県で『介護マーク』が考案され、
厚生労働省から各自治体を通じて、普及が呼びかけられています。
もちろん、トイレ介助での異性同伴となると、
繊細な問題であるため、介護マークがあってもなかなかスムーズにはゆかないでしょう。
それでも、介護マークを知る人が
じわじわと増えつつあるように、
認知症がある人や家族が抱える、
暮らしづらさを理解する人が増えてくれたら…。
ほんの少しずつでも、
よのなかは変わっていくのではないでしょうか。
※『介護マーク』については、以下のサイトをご参照ください。
◆厚生労働省
◆静岡県
《高橋恵子さんの体験をもとにした作品ですが、個人情報への配慮から、登場人物の名前などは変えてあります。》
![](http://p.potaufeu.asahi.com/nakamaaru/img/nakamaaru450_450.gif)