町に潜む“危険”は悪意なく作られる ルール違反が誰かの命とりになることも
《介護福祉士でイラストレーターの、高橋恵子さんの絵とことば。じんわり、あなたの心を温めます。》
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外からは見えづらいけれど、
僕には認知症がある。
症状のせいで僕は、注意力が散漫になる時がある。
だから信号無視した人の背中につられて、
車道に飛び出してしまった!
その人の背中に、悪意はない。
ただ、僕みたいな人がいるのを、
知らないだけ。
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外からは見えづらいけれど、
私は左半身に、まひがある。
だから、エスカレーターは、
しっかり手すりをつかめる、
右側にしか乗れない。
関東で暮らす私。
『みんなと同じ、左側に並んでよ』と、
なにも知らない人の視線が突き刺さる。
その人の視線に、悪気はない。
ただ、私みたいな人がいるのを、
知らないだけ。
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見えないだけで実は、
多くの人が抱えてる、困りごと。
でも知れば、きっと変わっていく。
「なにかお困りですか?」
そのひとことが、あちこちに生まれる、
やさしい明日がくる。
「実は自分には、色覚異常がある」と
教えてもらったことがあります。
「周りからは分かりづらいでしょうが、生活や仕事で困ることが多いんですよ」とも。
まったく気づけていなかった私は、驚きました。
なぜなら私は、介護福祉士という職務上、障害や認知症がある人たちと過ごしてきたので、
身近な人がなにかを抱えていれば、言われなくても、
なんとなく気づける、とたかをくくっていたのです。
その時、改めて、
実は多くの人が見えない困りごとを抱えて生きている、と
反省と共に、実感させられました。
見えない障害や認知症がある人と、一緒に歩くとき、
悪意のない人たちがつくってしまった危険が、
町のあちこちにあることに気づきます。
赤信号を無視する背中、
エスカレーターでの歩行、
点字ブロックの上に置かれた自転車。
どれも誰かにとったら、
実は、命とりのルール違反。
かくいう私も、今までそのルールを破ったことは、
1度や2度ではありません。
でも、見えない困りごとを抱えた人たちを知れば知るほど、
ルールを守ることは、誰かの命を守ることだと知りました。
ルールを守る。
または、もう一歩すすんで、
「なにかお困りですか?」と、声をかけてみる。
そうすれば、私たちの町は、
ひとりのやさしさと勇気から、
変わっていくはずです。
《高橋恵子さんの体験をもとにした作品ですが、個人情報への配慮から、登場人物の名前などは変えてあります。》
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