母が施設入居を拒否 着替えもトイレも一人でできないのに【お悩み相談室】
構成/中寺暁子
認知症地域支援推進員で介護支援専門員の田中リエ子さんが、認知症の様々な悩みに答えます。
Q.認知症の母(82歳)と同居していますが、着替えやトイレなど一人ではできないことが増えてきたので、施設入居の準備を進めています。母とも話したつもりですが、日によって「絶対に入らない」と言い張ることもあり、困っています(55歳・女性)
A.トイレの問題は、同居する家族にとっては大きな負担になると思います。相談者と同じようなタイミングで、施設入居を検討する方は多いようです。
日によって認知症の人の言うことが変わるのは、よくあることです。気持ちがコロコロ変わるというより、認知症の人にとっては“今”の気持ちが全てです。相談者としてはお母さんの今の気持ちを受け入れるしかないと思います。対応として避けたいのは、「この間は施設に入るって言ったでしょ」とお母さんを責めるようなことを言って、施設への入居を説得しようとすることです。
責められると、認知症の行動・心理症状(BPSD)の1つである被害妄想が出てくる可能性があります。「私のことが邪魔だから無理やり施設に入れようとしている」と思い込み、余計に入居を拒否するようになるかもしれません。認知症の人は感情の記憶は残りやすいので、一度抱いた嫌な感情は拭えず、入居に関して先に進めなくなってしまいます。
施設入居の話を出したときに拒否されるようであれば、「そうだったわね、私が間違えたかもしれないね」という感じで一歩引くと、空気が和やかになり、お母さんは安心すると思います。施設の話を出しただけでお母さんの機嫌が悪くなってしまったようなときは、「今日の夕飯は何にしましょうかね」など、話題をがらりと変えるのもおすすめです。以前私が相談を受けた方は、被害妄想がある認知症の義母への対応に困っていました。そこで言い合いになりそうなときに、この方法をおすすめしたところ、話題を変えることで義母の怒りの感情が別の感情に切り替わるようで、被害妄想がなくなったそうです。
お母さん自身、施設に入居することに対して、不安を感じているのかもしれません。高齢者施設ではショートステイを受け入れていることも多いので、まずはショートステイで徐々に慣れてもらうというのも1つの方法です。併設のデイサービスがあれば、より利用しやすいかもしれません。スタッフもスムーズに入居につなげられるように、工夫してくれるのではないでしょうか。
同居している現状では、相談者は大変な思いをしているのでしょう。夜間もトイレの場所がわかるように照明をつけっぱなしにしておく、ボタンがない着脱しやすい服を用意するなど、ホームヘルパーやデイサービスのスタッフなど介護の専門家に対応を相談しつつ、乗り切ってほしいと思います。
【まとめ】認知症の母が一度は受け入れた施設への入居を「絶対に入らない」と拒むときには?
- 以前の発言と違うことを責めたり、入居を説得しようとしたりせずに、お母さんの“今”の気持ちを受け入れる
- 施設の話をすると機嫌が悪くなるようであれば、話題をがらりと変える
- 入居予定の施設でショートステイやデイサービスを利用できそうなら、利用して徐々に受け入れられるようにする
≪お悩みの内容については、介護現場の声を聞きながらなかまぁる編集部でつくりました。≫