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知っていますか?レビー小体型認知症 前触れとなる症状や薬剤過敏

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認知症について知っておきたい基礎知識について、榊原白鳳病院(三重県)で診療情報部長を務める笠間睦医師が、お薦めの本を紹介しながら解説します。

レビー小体型認知症という病名を聞いたことがありますか? 様々ある認知症の原因となる病気の中でも、アルツハイマー型認知症、血管性認知症に次いで3番目に頻度の高い認知症なんです。

「都市部における認知症有病率と認知症の生活機能障害への対応」(平成23年度~平成24年度総合研究報告書)によると、臨床診断では、アルツハイマー型認知症が全体の67.6%、血管性認知症が19.5%、レビー小体型認知症が4.3%を占めます。しかしながら、死後に解剖して調べてみると(=病理診断)、レビー小体型認知症は18%(約2割)に上がるとの研究結果もあります。かなり頻度の高い認知症ということになりますね。

※レビー小体型認知症については、以下の記事もご参照ください。
「レビー小体型認知症を専門医が解説 原因や前兆、なりやすい人など」 

アルツハイマー型認知症といえば、症状として「記憶障害」が思い浮かぶと思いますが、レビー小体型認知症というとどんな症状が思い浮かぶでしょうか? 

レビー小体型認知症は「緩慢な動作や振戦などのパーキンソニズム」と「幻視」が代表的な症状です。また、記憶障害が起きる前に種々の前触れとなる症状が出ます。
レビー小体型認知症の早期診断の課題について報告した研究によれば、記憶障害の起きる数年前から24%の患者さんにおいて抑うつ症状が認められているとされています。

さて、ここでクイズです。最終的にレビー小体型認知症と診断された症例の初期診断名の何%が「うつ病」だったのでしょうか?

正解をお伝えする前に、最初はうつ病と診断され、約6年間抗うつ薬による副作用に苦しんだ経験のあるレビー小体型認知症当事者の書いた本がありますのでご紹介しましょう。

レビー小体型認知症当事者として発信活動をされている樋口直美さんの著書『私の脳で起こったこと レビー小体型認知症からの復活』 (ブックマン社,, 2015)です。改訂され、文庫版『私の脳で起こったこと─「レビー小体型認知症」の記録』(ちくま文庫, ,2022)としても出版されています。

樋口直美著「私の脳で起こったこと」

樋口直美さんは、41歳の時(2004年)に不眠で受診したところ「うつ病」と診断され、抗うつ薬である「パキシル」(一般名:パロキセチン)と抗不安薬を処方され、深刻な副作用に苦しみました。その後、6年近く誤った治療が続きましたが、新しい主治医と相談のうえで投薬をやめたところ体調も良くなり、認知機能障害も軽快しました。
49歳(2012年)になり、樋口さんはレビー小体型認知症に関連する文献を読み漁り始めます。その後の2013年2月7日の日記の内容を、著書の中で記しています。

2月7日 うつ病は誤診
パキシルで重病人になったが、これこそレビーの「薬剤過敏性」ではないのか。そんなことが起こるのは、千人に一人だと主治医に言われた。私に責任があるかのように。パキシルは増量され、昇圧剤が追加されたが、更に悪化した。
10年間、ありとあらゆる自律神経症状が、ふいに出たり消えたりし続けることに悩んできた。いったい原因は何だろうと様々な病院で様々な検査をし、多くのお金と時間を無駄に費やしてきた。レビーだとしたら、すべて説明がつく。【樋口直美 『私の脳で起こったこと レビー小体型認知症からの復活』 (ブックマン社,  2015)】

薬剤の効果は、患者によって違います。パキシルでうつ症状が緩和される人がいる一方で、どの薬剤も副作用はつきものです。忘れてはならないのは、レビー小体型認知症においては薬剤に対する過敏性が認められることです。このため、通常量の服用量でも、過剰に症状が悪化することがあるのです。

ではもう一つクイズです。レビー小体型認知症の方は、どの程度の割合で抗精神病薬に対する薬剤過敏を有しているでしょうか?
海外での研究によると、レビー小体型認知症の50%超において、抗精神病薬に対する薬剤過敏があるとの報告もあります。
このため、レビー小体型認知症を発見された横浜市大名誉教授の小阪憲司先生(故人)は、レビー小体型認知症の患者に対する抗精神病薬の投与は「ごく少量から始める」「できるだけ使用しないように心がける」ことが肝要だと指摘されていました。

さて、それでは、最初のクイズ、『最終的にレビー小体型認知症と診断された症例の初期診断名の何%が「うつ病」だったのか』についての回答を言います。
ある大学病院の精神科の患者を対象としてデータ(※)となりますが、最終的には、レビー小体型認知症と診断された症例のうち、実に46%が初期診断名では、「うつ病」だったとのことです。それだけ、レビー小体型認知症の初期での診断は難しいということでしょう。
※高橋晶,水上勝義 朝田隆「レビー小体型認知症(DLB)の前駆症状, 初期症状」(老年精神医学雑誌 22巻 増刊-1号,p60-64,2011)

最後に、レビー小体型認知症についてもっと知りたいという方のために、関連の本を3冊ご紹介して今回のコラムを終えたいと思います。

内門大丈監修「レビー小体型認知症 正しい基礎知識とケア」
監修:内門大丈,池田書店

内門大丈先生が監修された『レビー小体型認知症─正しい基礎知識とケア』は、レビー小体型認知症のご本人およびご家族にぜひとも読んで頂きたい本です。この本を読めばレビー小体型認知症の全容を概ね理解することができます。
次に、レビー小体型認知症に関する基礎知識をつけてから読むと、より面白くなると思われる小説を2冊、ご紹介します。

村井理子著「全員悪人」

村井理子さんの書かれた『全員悪人』(CCCメディアハウス, 2021)
『全員悪人』は実体験を元にして書いている小説です。私はAmazonのレビューに以下のような感想を寄せています。

私が文面から受けました印象は、『カプグラ症候群なのかな?』というものでした。専門用語ですので分かりにくいとは思いますが、ひと言で言えば、カプグラ症候群とは、『同じ姿をした偽物であると訴える症候』です。
カプグラ症候群、嫉妬妄想は、典型的にはレビー小体型認知症でしばしば見受けられるものです。私のように認知症を専門とする医師からみますととても興味深い徴候であり、それが当事者目線としてユーモラスに記述している本書は非常に貴重な一冊です。
小西マサテル著「名探偵のままでいて」

小西マサテルさんが書かれた『名探偵のままでいて』(宝島社, 2023)』はレビー小体型認知症のおじいちゃんが主人公の傑作ミステリーです。孫娘の持ち込む様々な「謎」をおじいちゃんが解き明かしていきます。第21回『このミステリーがすごい!』(2021年)大賞受賞作で、純粋にミステリーとして楽しめますよ。

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