女だから…男なのに… 時代錯誤の偏見が、非のない介護職を苦しめる
《介護士でマンガ家の、高橋恵子さんの絵とことば。じんわり、あなたの心を温めます。》
![「男なのに、なんで人の世話なんかしてるんだ?」](http://p.potaufeu.asahi.com/2d9d-p/picture/27499357/4b614899b69f5ba102c0ee484d031a39.jpg)
ああ、またかと、ため息が出る。
「男なのに、なんで人の世話なんかしてるんだ?」
介護福祉士である僕は、周りから何度も
こんなたぐいの言葉をかけられてきた。
「介護の仕事が、好きだからですよ」
僕は山田さんに、適当に返してやり過ごす。
![後輩をフォローする先輩スタッフ](http://p.potaufeu.asahi.com/70bb-p/picture/27499358/1e1ecc9a0b221d24bbe3ff7da318e496.jpg)
僕を思いやって先輩が、さりげなく間に入ってきた。
「彼は男性ですが、やさしくて、評判のスタッフなんですよ」
すると、山田さんは申し訳なさそうに言った。
「ごめん、ごめん。俺たちの年代だと、
男に世話してもらうのは、悪い気がしちゃうんだよな。
男なのに偉いよ」
——僕は、なにも言えなくなった。
![目を閉じる男性](http://p.potaufeu.asahi.com/fd9f-p/picture/27499359/ce31f324d1723e7836503eba59bd3409.jpg)
介護職になったことで、
それぞれの「性別への偏見」を
まさかこんなにも、突き付けられるとは。
——女性だから、男性だから、じゃない。
この仕事を選んだのも、
やさしいのも、
僕だから。
「高橋さん、仕事を増やしてごめん。
あの利用者さん、男の僕には介助されたくないんだって。
代わってもらえる?」
介護現場で、そうやって私に頭を下げてきた、
男性スタッフさんの顔が、何人も浮かびます。
介護施設の忙しさは言わずもがなで、
私もときには、ひきつった笑顔を返してしまいました。
申し訳なかった、としか言いようがありません。
ご自身に、非はないというのに。
一部ではありますが、男性の介護職員にたいして、
いまだ、偏見の目が向けられることがあります。
男性が、管理職やリーダー、ケアマネジャーになれば、
周りからの目も変わるようですが、
そこにも、危うい偏見が潜んでいるように感じます。
『介護は、女性がするもの』
『男性なのに、こんな仕事をするのはおかしい』
今となっては、明らかな偏見ですが、
「男子厨房に入るべからず」の風潮が強い時代に育った
高齢者の一部の方々には、
なかなか見直しづらい考え方なのでしょう。
ならば、その下の世代、
私たちから更新していければ、と願うのです。
ただ、自分自身も持っていることに、なかなか気付けないのも、
「偏見」の難しいところです。
それでも、私たちが自身のなかに
偏見をひとつずつ見つけていこうとするとき、
まわりまわって、自らを含め、誰もが生きやすい未来が、
つくられるのではないでしょうか。
いま、介護施設で起きていること。
それはきっと、地域で暮らす私たちの心と地続きなのだろうから。
《高橋恵子さんの体験をもとにした作品ですが、個人情報への配慮から、登場人物の名前などは変えてあります。》
![](http://p.potaufeu.asahi.com/nakamaaru/img/nakamaaru450_450.gif)