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今日は晴天、ぼけ日和

女だから…男なのに… 時代錯誤の偏見が、非のない介護職を苦しめる

《介護士でマンガ家の、高橋恵子さんの絵とことば。じんわり、あなたの心を温めます。》

「男なのに、なんで人の世話なんかしてるんだ?」

ああ、またかと、ため息が出る。

「男なのに、なんで人の世話なんかしてるんだ?」

介護福祉士である僕は、周りから何度も
こんなたぐいの言葉をかけられてきた。

「介護の仕事が、好きだからですよ」

僕は山田さんに、適当に返してやり過ごす。

後輩をフォローする先輩スタッフ

僕を思いやって先輩が、さりげなく間に入ってきた。

「彼は男性ですが、やさしくて、評判のスタッフなんですよ」

すると、山田さんは申し訳なさそうに言った。 

「ごめん、ごめん。俺たちの年代だと、
 男に世話してもらうのは、悪い気がしちゃうんだよな。
 男なのに偉いよ」 

——僕は、なにも言えなくなった。

目を閉じる男性

介護職になったことで、
それぞれの「性別への偏見」を
まさかこんなにも、突き付けられるとは。

——女性だから、男性だから、じゃない。

この仕事を選んだのも、
やさしいのも、

僕だから。

「高橋さん、仕事を増やしてごめん。
 あの利用者さん、男の僕には介助されたくないんだって。
 代わってもらえる?」 

介護現場で、そうやって私に頭を下げてきた、
男性スタッフさんの顔が、何人も浮かびます。

介護施設の忙しさは言わずもがなで、

私もときには、ひきつった笑顔を返してしまいました。
申し訳なかった、としか言いようがありません。
ご自身に、非はないというのに。

一部ではありますが、男性の介護職員にたいして、
いまだ、偏見の目が向けられることがあります。

男性が、管理職やリーダー、ケアマネジャーになれば、
周りからの目も変わるようですが、

そこにも、危うい偏見が潜んでいるように感じます。

『介護は、女性がするもの』
『男性なのに、こんな仕事をするのはおかしい』

今となっては、明らかな偏見ですが、 

「男子厨房に入るべからず」の風潮が強い時代に育った
高齢者の一部の方々には、
なかなか見直しづらい考え方なのでしょう。

ならば、その下の世代、
私たちから更新していければ、と願うのです。 

ただ、自分自身も持っていることに、なかなか気付けないのも、
「偏見」の難しいところです。 

それでも、私たちが自身のなかに
偏見をひとつずつ見つけていこうとするとき、
まわりまわって、自らを含め、誰もが生きやすい未来が、
つくられるのではないでしょうか。 

いま、介護施設で起きていること。
それはきっと、地域で暮らす私たちの心と地続きなのだろうから。

《高橋恵子さんの体験をもとにした作品ですが、個人情報への配慮から、登場人物の名前などは変えてあります。》

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