認知症とともにあるウェブメディア

認知症の人とのコミュニケーションに役立つバリデーションを徹底解説

バリデーションとは? 認知症の人とのコミュニケーション方法を解説

認知症の人とのコミュニケーションに悩みを抱えている人にとって、役立つコミュニケーション方法の一つがバリデーションです。認知症の人や介護する人にとっての効果や実践するうえでの基本的態度、テクニックなどについて解説します。

バリデーションについて解説してくれたのは……

「グループホームありすの杜きのこ南麻布」管理者
正垣幸一郎(しょうがき・こういちろう)
「グループホームありすの杜きのこ南麻布」管理者
1994年社会福祉法人イエス団賀川記念館にて隣保事業、学童保育、一人暮らし老人給食などに携わったのち、震災復興事業、特養の主任ケアワーカーなどを経て、2008年に介護施設などを運営するきのこグループ入社。公認日本バリデーション協会に所属し、「バリデーション・ティーチャー」の資格をもつ。介護福祉士、介護支援専門員。

介護におけるバリデーションとは

認知症の人とのコミュニケーション方法の1つであるバリデーション。誕生した背景や目的などについて解説します。

認知症の人に共感するコミュニケーション

バリデーションは、米国のソーシャルワーカーであるナオミ・ファイルが1960年代に提唱したコミュニケーション方法です。

ファイル氏は父親が高齢者施設を経営していたことから、高齢者と接する機会が多い環境で育ちました。コロンビア大学でソーシャルワーカーの資格をとったのち、父親が経営する高齢者施設で働くようになったのですが、そこで認知症の人に対するケアに疑問を抱くようになります。

認知症の人は見当識障害によって、日時や場所、季節などを正しく認識しにくくなりますが、当時は「リアリティ・オリエンテーション」といって、誤った認識を正すようなケアが主流でした。しかし現実をわからせようとする方法は、認知症の程度などによっては、否定されているように感じたり、孤独感が強まったりすることもあります。そこでファイル氏は、現実をつきつけるのではなく、認知症の人の世界を理解することを目指す、バリデーションという方法を構築していったのです。

ファイル氏は日本を含めた世界各国で講演し、バリデーションを広く普及していきました。バリデーションという言葉には、「正当であることを確認する」といった意味があり、相手の立場になって理解しようとすることが、認知症の人に対するバリデーションの基本になります。

バリデーションの目的

バリデーションは、アルツハイマー型認知症やそれに類似した認知症高齢者とコミュニケーションをとるための方法です。家族や介護従事者は認知症の人の問題行動などに困ると何とか症状を落ち着かせたいと考えるものです。しかし、バリデーションはこうした認知症の症状を緩和させることを目的としているわけではありません。バリデーションは敬意と共感を持った姿勢で関わることを基本としています。

コミュニケーションというと言葉のやりとりだけをイメージしがちですが、バリデーションでは言語的なものだけではなく非言語的コミュニケーションも大切にしています。そしてどちらの方法でも、共感を伴ったコミュニケーションを行うということが重要なポイントになります。

ユマニチュード、パーソン・センタード・ケアなど、海外発祥の認知症ケアにはさまざまなものがある

海外発祥の認知症ケアには、バリデーションのほかにもユマニチュードやパーソン・センタード・ケアといった方法があります。ユマニチュードは、フランスの体育学の専門家が1970年代に考案した方法です。「見る」「話す」「触れる」「立つ」という4つの柱を基本として、その人自身の能力を引き出すことを重視しています。パーソン・センタード・ケアは、1980年代にイギリスの心理学者が提唱した方法で、相手の立場になって心理的なニーズを理解することを重視しています。細かいテクニックの違いはありますが、いずれの方法も認知症の人を個人として尊重するコミュニケーション方法であることが共通しています。

バリデーションの基本的態度

バリデーションには「理論」「基本的態度」「テクニック」の3つの要素があり、どれが欠けても成り立ちません。テクニックだけがあっても、理論や基本的態度が伴っていなければ、バリデーションとはいえません。ここでは基本的態度について説明します。

【バリデーションの3つの要素】理論(原則・バリデーションのゴール)、基本的態度(誠実&インテグリティ・敬意・感情の共感)、テクニック(言語的テクニック・非言語的テクニック)

感情の共感

バリデーションにおいて最も大事なポイントは、共感を伴ったコミュニケーションであるということです。相手と同じように感じるのは難しいことですが、表情や声の調子、動作などを集中して観察し、相手の気持ちを感じ取ります。

判断しない

相手の話す内容に対して良し悪しを判断せず、「そうなんですね」「そういうことがあったんですね」というように受け入れます。良し悪しの判断は、主観でしかないこともありますし、判断してしまうと相手は話を続けにくくなります。

オープンである

自分は安全であり、どんな話でも受け入れる気持ちがある、ということを姿勢やポジショニングによって示します。相手から見やすいように正面にポジションをとり、腕を組むなどせずに両手を広げてオープンな姿勢をとります。

正直である

認知症の人や高齢者には、人を見抜く力があり、嘘をついたとしても見抜かれてしまいます。正直に向き合うことが大切です。

積極的傾聴

相手の話をしっかり聞くことはもちろん、それが相手にも伝わるような姿勢が大切です。話すスピードや声の調子などを相手に合わせたり、目を合わせたりしながら傾聴すると、相手は自分の話をよく理解してくれていると感じることができます。

バリデーションのテクニック

バリデーションには、さまざまなテクニックがあります。テクニックには、言語的テクニックと非言語的テクニック、さらにどちらにも通じるテクニックがあります。

また、認知症には4つのフェーズがあると考え、それぞれのフェーズに合わせたテクニックを使用することが重視されています。フェーズという言葉を使うようになる前は、段階という言葉を使用していました。認知症の症状は階段を落ちていくように単に進行していくだけではなく、行ったり来たりすることからフェーズという表現に変えたのです。

バリデーションでは相手がどのフェーズにいるかを見極めることも重要になります。テクニックはフェーズによって違います。フェーズ1、2は言語的テクニック、フェーズ3、4は非言語的テクニックが中心となります。

認知症における4つのフェーズ

【フェーズ1】
コミュニケーションをよくとることができ、たいていの時間は見当識(時間や場所、季節、人間関係などの認識)が保たれている。

【フェーズ2】
コミュニケーションはとれるが、多くの時間はその人特有の現実の中で生きている。

【フェーズ3】
まだコミュニケーションはとれてはいるが、欲求や感情は自分の中にたいていは秘めていて、表現する際には動作や音を用いる。

【フェーズ4】
介護する側が感じられるほどのコミュニケーションは、ほとんどとれない。欲求や感情を自分の中に閉じ込めている。

言語的・非言語的テクニック

【センタリング】
バリデーションを行う際に、介護する側が必ず実践するテクニックです。精神を集中し、相手の感情を受け入れるために、いったん自分の感情を横に置くようなイメージです。相手との関係性や環境によって難しいこともあるため、自分なりのセンタリングの方法があるとスムーズに行いやすくなります。

一般的にとり入れやすいのは、大きく深呼吸をすることです。他に好きな色を思い浮かべる方法(視覚)、好きな音楽、音を聴く方法(聴覚)や体の一部に触れる方法(運動感覚)など、自分なりの方法でかまいません。

【好きな感覚を用いる】
心理学の一つである「NLP(神経言語プログラミング)」では、人は「視覚」「聴覚」「運動感覚」のうち、どの感覚を優位に過ごしているかによって、3つのタイプに分けられると考えられています。バリデーションではこれに基づいて、相手がどのタイプかを探り、それに合わせたコミュニケーションをとります。例えば視覚優位のタイプであれば、視覚を使って想像できるような質問をすることで、相手との距離が縮まりやすくなります。

言語的テクニック

【オープンクエスチョン】
「いつ」「どこで」「だれが」「なにを」など自由に答えられるような質問を投げかけます。主にフェーズ1、2の人に使用します。フェーズ3以降の人には「はい」「いいえ」で答えられるようなクローズドクエスチョンのほうが、コミュニケーションがとりやすくなる傾向があります。

【リフレージング】
共感をもって相手の言葉と同じ言葉(キーワード)を反復(リフレージング)します。声の調子やリズムも同じようにします。主にフェーズ1、2の人に使います。

【レミニシング】
過去の出来事について質問することによって昔、行っていた対処の仕方を思い出し、現在の喪失を乗り越えていく事ができます。主にフェーズ1の人に使います。

【極端な表現をする】
「一番よいときはどんなときでしたか?」「一番悪いときはどんなときでしたか?」「そんなことは一度もなかったですか?」など、極端なことを聞くイメージです。最高、最悪の状態を考えることで感情をさらに表現しやすくなります。主にフェーズ1、2の人に使用します。

【反対のことを想像する】
相手がつらい話をした時は、「逆にうれしかったときはどんなときでしたか?」というように、反対のことを想像できるように質問します。反対のことを想像することによって、自分のなじみのある対処方法を思い出すことがあります。主にフェーズ1の人に使用します。

【あいまいな表現をする】
相手が言葉でうまく表現できず、介護する側が話を理解できないときに「何を言っているのかわからない」と伝えるのではなく、「そうなんですね」、「それを大切にしているんですね」というように代名詞を使ってあいまいな表現で答えます。言語的なコミュニケーションはできるけれど、ときどき自分で造語をつくるようなフェーズ2、3の人に使用します。

【はっきりとした低いやさしい声で話す】
高齢者にも聞き取りやすく、また安心感を与えるために、はっきりとした低いやさしい声で話します。愛情のこもった優しい声がきっかけとなり、愛する人を思い出し、ストレスを減らすことができます。

非言語的テクニック

【アイコンタクト】
正面から相手の目を見つめてコミュニケーションをとります。どのフェーズの人に対しても使います。

【ミラーリング】
鏡のように表情や姿勢、声のトーンを相手に合わせます。共感をしたうえで行わなければなりません。共感を持ったミラーリングは高齢者と信頼を築きます。主にフェーズ3以降の人に使います。

非言語的テクニックの一つであるミラーリング。相手の表情や姿勢、声のトーンを相手にあわせるというもの。フェーズ3以降のお年寄りの世界の中に心の底から入りたいと思う介護者が使うべきテクニックです
非言語的テクニックの一つであるミラーリング。相手の表情や姿勢、声のトーンを相手にあわせるというもの。フェーズ3以降のお年寄りの世界の中に心の底から入りたいと思う介護者が使うべきテクニックです

【タッチング】
バリデーションでは「アンカードタッチ」と呼び、「母のタッチング」「父のタッチング」など過去の記憶を呼び起こすような触れ方をします。フェーズ2、3、4の人に使用します。

【音楽を使う】
相手の感情に合わせて、それを表出できるような馴染みのある曲を選び、一緒に歌います。主にフェーズ2、3、4の人に使います。

【満たされていない人間的欲求と行動を結びつける】
人にはさまざまな欲求があり、それが行動に結びついていることがあります。相手の行動から今の欲求は何かということを導き出します。主にフェーズ2、3、4の人に使います。

バリデーションに期待できる効果

バリデーションは、認知症の人や家族、介護従事者にとってどのような効果があるのでしょうか。それぞれ説明します。

認知症の人に期待できる効果

言語的、非言語的コミュニケーションが増え、目をしっかり開き、まっすぐに座るといったより覚醒した状態が続くようになることが期待できます。相手との信頼関係ができ、ユーモアのセンスが戻ることもあります。

また、バリデーションでは「認知症の方は安らかな死を迎えるために人生においてその人がやり残した課題を解決しようと奮闘している」という考えがあります。敬意と共感を持った関りをすることにより認知症高齢者の不安は減り、引きこもりを防ぎ、尊厳が回復することがあります。

家族や介護従事者に期待できる効果

認知症の人とのコミュニケーションがとりやすくなるだけではなく、イライラが落ち着き、気持ちがラクになります。認知症の人を介護する中でイライラしてしまうのは誰にでも起こることですが、そうした自分を認めつつ、数分程度でもいいので、センタリングを行い(深呼吸等)バリデーションを意識した時間をもてると、認知症の人と心を通わすことができます。

数分程度でもいいので、センタリングを行い(深呼吸等)バリデーションを意識した時間をもてると、認知症の人と心を通わすことができます
数分程度でもいいので、センタリングを行い(深呼吸等)バリデーションを意識した時間をもてると、認知症の人と心を通わすことができます

まとめ

バリデーションは、認知症の人が抱いているそのときどきの感情に共感し敬意をもった姿勢でかかわることが基本であり、そのうえで、認知症の状態(フェーズ)に合わせて、さまざまな言語的・非言語的テクニックを用いてコミュニケーションをとります。認知症の人との関係がなかなか築けないとき、やりとりに困ったとき、バリデーションの基本的態度やテクニックが役立つのではないでしょうか。

あわせて読みたい

この記事をシェアする

認知症とともにあるウェブメディア