コロナ禍で開かなくなった玄関に 春の訪れとともに届けられた贈り物
《介護士でマンガ家の、高橋恵子さんの絵とことば。じんわり、あなたの心を温めます。》
![玄関に届けられた贈り物](http://p.potaufeu.asahi.com/df0e-p/picture/27433006/d9dba11032155103a0613836417e1d4d.jpg)
コロナが来て、外に出なくなった。
出なくなったらもう、
誰に会うのもおっくうになった。
いつのまにか、ほぼ開かなくなった玄関。
そんなうちの玄関に
「バサッ!」
なにかがひっかけられた。
![おすそわけ! 田中](http://p.potaufeu.asahi.com/b532-p/picture/27433004/54e449e55309aa039d1a27eeb4294fef.jpg)
レジ袋には、みずみずしいチューリップと、メモ用紙。
ひきこもる前に、たまにおしゃべりしていた、
となり町の田中さんからだった。
あの人、私に声もかけずに、これを置いていったのか。
その気遣いが、ありがたかった。
まだ私には、人に会える心の準備さえ、できていなかったから。
![窓の外を眺めるひと](http://p.potaufeu.asahi.com/b03c-p/picture/27433005/660aefcfabb3640a0cf39d97cb0a1bcc.jpg)
『玄関を開けるには、
もう少し、時間がほしいの』
心のおくで、田中さんの面影に語りかける。
それでも私は、チューリップの青い香りに背を押されて、
久しぶりに、そっと窓を開けた。
もし、風のうわさで、
友人や知人がひきこもりになっている、と聞いたら。
あなたは、どうしますか?
出向いていって話を聞く、というシンプルな行動こそ、
なかなかできるものではありません。
なぜなら、大人になった私たちは、
「簡単に声をかけて、ずっと関わり続けられるのか」
「他人の人生に口だしできるほど、自分はできた人間ではない」
「あの人には家族がいるんだ。私がでしゃばってどうする」
などという、生真面目なあたまで、
せっかく灯(とも)った良心さえ、
バケツで水をかけるように、消してしまいがちです。
けれど、ひきこもっている人のご家族は、
ご本人に近いからこそ八方塞がりで、
第三者が小さな風を、家にそっといれてくれるのを待っていたりします。
他者にずっと関わり続けられるような人も、
問題を解決できる完璧な人間も、
きっとどこにもいません。
特に今は、コロナをきっかけに、
ひきこもりの状態が定着してしまった高齢の方々がいます。
そうした方々は、寝たきりになったり、認知症が進んでしまったりする可能性があります。
また、健康面だけではなく、
なにより人生の豊かさそのものを失ってしまいます。
だからもし、近くにいる人がひきこもりの信号を発している、と気づいたときには、
かる~く関わる。
ほんのちょっと関わる。
そんな軽やかで、
でも適切なことが誰にでもできる、と
心に留めておきたいものです。
《高橋恵子さんの体験をもとにした作品ですが、個人情報への配慮から、登場人物の名前などは変えてあります。》
![](http://p.potaufeu.asahi.com/nakamaaru/img/nakamaaru450_450.gif)