コロナ禍で開かなくなった玄関に 春の訪れとともに届けられた贈り物
《介護士でマンガ家の、高橋恵子さんの絵とことば。じんわり、あなたの心を温めます。》
コロナが来て、外に出なくなった。
出なくなったらもう、
誰に会うのもおっくうになった。
いつのまにか、ほぼ開かなくなった玄関。
そんなうちの玄関に
「バサッ!」
なにかがひっかけられた。
レジ袋には、みずみずしいチューリップと、メモ用紙。
ひきこもる前に、たまにおしゃべりしていた、
となり町の田中さんからだった。
あの人、私に声もかけずに、これを置いていったのか。
その気遣いが、ありがたかった。
まだ私には、人に会える心の準備さえ、できていなかったから。
『玄関を開けるには、
もう少し、時間がほしいの』
心のおくで、田中さんの面影に語りかける。
それでも私は、チューリップの青い香りに背を押されて、
久しぶりに、そっと窓を開けた。
もし、風のうわさで、
友人や知人がひきこもりになっている、と聞いたら。
あなたは、どうしますか?
出向いていって話を聞く、というシンプルな行動こそ、
なかなかできるものではありません。
なぜなら、大人になった私たちは、
「簡単に声をかけて、ずっと関わり続けられるのか」
「他人の人生に口だしできるほど、自分はできた人間ではない」
「あの人には家族がいるんだ。私がでしゃばってどうする」
などという、生真面目なあたまで、
せっかく灯(とも)った良心さえ、
バケツで水をかけるように、消してしまいがちです。
けれど、ひきこもっている人のご家族は、
ご本人に近いからこそ八方塞がりで、
第三者が小さな風を、家にそっといれてくれるのを待っていたりします。
他者にずっと関わり続けられるような人も、
問題を解決できる完璧な人間も、
きっとどこにもいません。
特に今は、コロナをきっかけに、
ひきこもりの状態が定着してしまった高齢の方々がいます。
そうした方々は、寝たきりになったり、認知症が進んでしまったりする可能性があります。
また、健康面だけではなく、
なにより人生の豊かさそのものを失ってしまいます。
だからもし、近くにいる人がひきこもりの信号を発している、と気づいたときには、
かる~く関わる。
ほんのちょっと関わる。
そんな軽やかで、
でも適切なことが誰にでもできる、と
心に留めておきたいものです。
《高橋恵子さんの体験をもとにした作品ですが、個人情報への配慮から、登場人物の名前などは変えてあります。》