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今日は晴天、ぼけ日和

美しくはないけれど、人生を表す文字 介護職員の声がけで笑顔が生まれる

《介護士でマンガ家の、高橋恵子さんの絵とことば。じんわり、あなたの心を温めます。》

筆を持つひと

今日はデイサービスの、習字クラブ。

かつては生きがいだったこの時間も、
今では気分が重い。

だって私はもう、
うまく文字が書けないから。

スラスラと筆を運ぶひと

スラスラと美しい文字を書いていた、
若々しい私は、もういない。

昨年、持病で入院してから
私の体は、急激に年老いた。

今は、筆がずっしり重く、
線はふるえて、半紙を波立たせる。

こんな文字、誰にも見られたくない!

「桜」の文字を手に微笑むひと

「やっぱり、山田さんの書く線は、
 どんな線も重みがありますね」

ふいに、背後から声をかけられた。
どう見たって、前よりうまく書けていないのに。

「山田さんが一生懸命、
 書かれる姿に、感動するわ」

次々に周りからかかる声に、私はうれしくなった。

私はまだ、もうひと花、
咲かせられるのかもしれない。

先日、デイサービスの習字クラブに、
参加する機会がありました。

「高齢の方の、笑顔と生きがいを応援したい」

そんな熱い思いを抱いた、介護スタッフさんたちが
講師となり、続けているクラブです。

参加された方々は、目をキラキラさせて、
一文字ずつ、真剣に取り組んでいらっしゃいました。

とはいえ、高齢になるとどうしても、程度の差はあれ、
認知症があらわれたり、身体に不自由さを抱えたりするもの。

つまり「みんなで一緒に、同じ文字を書く」というのは、
なかなかに難しいことなのです。 

だからこそ、習字クラブの介護スタッフさんたちは
技術や、字のうまい・下手を評価するのではなく、

とりくまれたご様子や感想を、
参加者さんへ率先して伝えていました。

「この字を、何度も練習されていましたね!」

「山田さんの字には、温かみを感じます」

「山田さんが、参加してくださってうれしいです」

そんなふうに、第三者から
あるがままの姿や個人的な印象を伝えてもらうことは、
ただうれしいだけでなく、
その人にとって、大きな力になるのではないでしょうか。


改善されない、介護職員の人手不足。
いまだ終わらないコロナ禍。

そんななかでも、この温かな時間を作り出している、
介護スタッフさんたちに、私も力強く励まされました。

《高橋恵子さんの体験をもとにした作品ですが、個人情報への配慮から、登場人物の名前などは変えてあります。》

前回の作品を見る

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