ポケットから出した「名刺」代わりの大切なモノ 気になるあなたの反応は
《介護士でマンガ家の、高橋恵子さんの絵とことば。じんわり、あなたの心を温めます。》
![ガサゴソ ポケットの中を探るひと](http://p.potaufeu.asahi.com/1517-p/picture/27208560/afb910c7e86d55b370b03bb03806d9e6.jpg)
最近、もの忘れが多い俺の
ポケットの中の大切な「これ」
隣のあんたに見せてみるか?
いやいや隠したままでいるか?
それが悩みどころだ。
![隣の人の様子をうかがうひと](http://p.potaufeu.asahi.com/7235-p/picture/27208557/a73ce2bd03aba5dfbf44393bf183a3fb.jpg)
見せたところで
「前に見ましたよ」と
あきれた声を出されるかもしれない。
「なんですか、これ」と
バカにされるかもしれない。
だから慎重に、慎重に。
![「田舎で育てていたスミレの種ですね」](http://p.potaufeu.asahi.com/1c10-p/picture/27208559/c6df7328907bd49b76a232ce0edede8d.jpg)
思いきって見せた、いつもの種。
うれしそうに笑ってくれてるけど、
きっとあんたは見たことあんだな。
あんたは優しい人だな。
だから安心して、俺は話せるんだ。
「この種は、昔な……」
高齢になったり、認知症が進んだりして、
以前より会話のキャッチボールが
難しくなった人のなかには、
まるで名刺のような「なにか」を持ち歩いている方が
ちらほら、いらっしゃいます。
それは育てていた花の種や、
歴代の総理大臣の名前を書き留めたメモ、
歌詞の印刷された絵はがきなどと
人によってさまざまです。
言うならばそれらは
「自己紹介に代わるもの」と、
呼んでもいいのかもしれません。
それを相手の目の前にさし出して、
ご自身から会話の糸口をひらいてくださるわけです。
——さて、はたして。
私が今よりコミュニケーションスキルが衰えたとき、
この方法を私自身も試せるか?
そう考えると、後ずさりするような心もちになります。
なぜなら、これまでに皆さまがそれぞれに見せてくださったものは、
その人にとっての「かけがえのないもの」ばかりだったからです。
自分という人を語らせる、なにか。
今、自宅を見回していくつか選んでも、
私はこれらを人前にさらす勇気が湧きません。
それでも誰かとつながっていくために、
自分自身に代わるような大切なものを
差し出す人がいらっしゃる。
あなたの心はどうやって
それを受け取るのでしょうか?
《高橋恵子さんの体験をもとにした作品ですが、個人情報への配慮から、登場人物の名前などは変えてあります。》
![](http://p.potaufeu.asahi.com/nakamaaru/img/nakamaaru450_450.gif)