窓も心も閉ざし、引きこもる女性が「よいしょ」と立ち上がったわけは
《介護士でマンガ家の、高橋恵子さんの絵とことば。じんわり、あなたの心を温めます。》
今日もまた、
訪問介護ヘルパーの
山田さんが来た。
早く買い物に行ってくれればいいのに。
今日も、私は一緒に行けないの。
骨折してから、
立ち上がりも難しいこと、
あなたも知っているでしょう?
なのに山田さんは、
「一緒に車椅子で行きましょうか」と私を誘った。
こんな姿、誰にも見られたくないのに!
でもほんのちょっとならと、うなずいてしまった。
——久しぶりの空は、風は、こんなに気持ちがいいものか。
あの日から、私は
閉めきっていた窓を
開けるようになった。
「よいしょ」と踏ん張り、立ち上がる。
「ご本人の話によると、一日中ベッドにいるそうで、
○月○日以降、携帯電話も使われていない。
更なる筋力低下・孤立化が進む恐れがある」
訪問介護ヘルパーの山田さんは
ご本人のそんな様子を日々、モニタリングし、
訪問介護を行うチームのメンバーに報告し、話し合っていたのでしょう。
そのようにして、今回のようなきっかけを作ったのだろうと思います。
訪問介護は、人の暮らしを支えます。
それはただやみくもに、衣食住に関わる営みを手伝うことではありません。
日常から映し出される
心身の様子をキャッチしながら、
介護サービスの内容を都度変化させ、
提案・提供してゆきます。
「あの靴をはいた帰宅後は、疲労感が強い」
「最近料理をしなくなったのは、ガスの元栓の開け閉めがストレスらしい」
「水曜に通院日を決めているのは、Aさんがいるから、と話していた」
そんな日常にひそむ小さな訴えを見つけて、
明日へのバトンの渡し方を共に考えていくのが、
訪問介護ヘルパーの仕事です。
例えば買い物だって、
訪問介護ヘルパーがひとりで、さっ、と行ってしまったほうが
時間も短縮されるでしょう。
けれど訪問介護の真の目的は、
どうしたらご本人が日々、希望をもって、
その人らしい自立のありかたで暮らしていけるか、
を考え、支援することです。
そのことを理解していないと、
時間内でたくさん仕事をしてくれる
ロボットのようなヘルパーが、生まれてしまいます。
あなたなら、人生の締めくくりを
どんな訪問介護ヘルパーに
支えてもらいたいですか?
《高橋恵子さんの体験をもとにした作品ですが、個人情報への配慮から、登場人物の名前などは変えてあります。》