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コマタエの 仕事も介護もなんとかならないかな?

新大阪駅で一悶着 車椅子移動に怒声を浴びせる運転手と小さな紳士

駒村多恵さん

タレント、アナウンサーとして活躍する“コマタエ”こと駒村多恵さんが、要介護5の実母との2人暮らしをつづります。ポジティブで明るいその考え方が、本人は無意識であるところに暮らしのヒントがあるようです。今回は、車椅子移動のハプニングにまつわるお話。人の心について考えさせられます。

介護の日

11月11日は「介護の日」です。あれ? ポッキーの日では?と思ったかた、それも正解です。日本記念日協会によると、11月11日は年間で2番目に記念日が多い日で、ほかにも「きりたんぽの日」や「まつげ美人の日」など合わせて57もあるそうです(2022年10月10日現在)。
「介護の日」は、国民全体が介護について考える日となるようにと、厚生労働省が2008年に発表しました。

わが家は母が車椅子移動になってからも、公共交通機関を利用してあちこちでかけています。普段は私1人で車椅子をガシガシ動かして電車の乗り降りをしているのですが、8年程前、ダイヤの乱れで混雑した山手線に乗り合わせることになり、なかなか降りられず焦ったことがありました。もたついている私たちを観光客らしき外国人男性2人が出口に誘導してくれて、無事に降りることができました。不意の親切が心に染みました。

母が通う美容室の帰りは新大阪駅を経由します
母が通う美容室の帰りは新大阪駅を経由します

地元の大阪で、母が40年間、通っていた美容室に行った帰りのこと。
美容師さんが「夫と母の介護用に購入した車で来ているから、新大阪駅まで送りますよ」と申し出てくれました。せっかくのご厚意。甘えることにしました。
車で新大阪駅に行くのは初めてです。急なことで障害者車両用の乗降スペースを調べていなかったので、私だけ駅の少し手前で降りて誘導員のかたに聞きに行きました。すると「ないからここのレーンに入って」と、タクシー専用レーンに入るよう指示されました。タクシーレーンだと、一般車両レーンより駅の入口に近い場所で母を降ろすことができます。

感謝を述べ指示通りに進んだのですが、いざレーンを進むと一車線で追い越せない構造。本当にここで大丈夫なんだろうか?
すると、懸念していたことが現実に。
母を降ろすのに時間がかかり、後続のタクシーを待たせることになりました。申し訳ない気持ちで美容師さんとできるだけ急いでいると、
「何しとんじゃー! 早うせいやぁああああー!」
という怒鳴り声が。
後ろのタクシーの運転手さんが窓全開で身を乗り出し、阿修羅のごとく、ものすごい形相で睨んでいます。

駅に一番近いタクシーレーンは一車線のみ
駅に一番近いタクシーレーンは一車線のみ

「すみません!」
大きな声で謝りましたが、怒鳴り声は続きます。
「早よせい言うとるやろ! このクソババアーーー!!!」
ナニワ金融道!?と見まがうようなドラマさながらの怒声に、こんな言葉が現実に発せられることがあるのかと度肝を抜かれながら、
「すみません、ただ、誘導員のかたに許可はもらっています! できるだけ早くやりますからちょっと待ってください!」
と返答しました。
私はともかく、美容師さんは母と1歳違い。当時70代の女性がこれ以上早くは無理です。怯えきっています。
さっきの誘導員の方はどこ!?と探すと、少し離れた場所に移動し、そっぽを向いて知らん顔。愕然としました。

入口に近いところで降ろす許可を出してくださったこと、有難く思っています。タクシーの運転手さんのお怒りもごもっともです。ただ、時間がかかることがある程度、予想されたからこそ迷惑がかからないようにと事前に聞きに行ったつもりだったのに……。
ようやく降ろし終わって美容師さんの車が去ると、後ろで列をなしていたタクシーの運転手さんたちは、私たちの前を通り過ぎるときに、それぞれ減速し、こちらを睨みつけて走り去っていきました。

これからは、どんなことがあっても入念な下調べをしてから出かけようと反省する一方、時は万博を大阪に誘致する構想がニュースになった頃。海外から車椅子のお客様が来ても大丈夫だろうか?などと思いながら、やるせない気持ちで車椅子のハンドルに手をかけ駅に入ろうと振り向くと、小学校高学年くらいの男の子が私たちのためにドアを開けて待っていてくれました。
「わあ……ありがとうございます!」
周りの大人が遠巻きに見ている中での親切。あたたかい気持ちとともに未来に光を感じたこと、忘れられません。

※次の話「「心配」と「楽しい!」を行ったり来たり 介護に生かせた趣味の時間」を読む

※前の話「突然の別れ 足がすくむ死の存在と、患者としての幸せ まぶたに浮かぶ……」を読む

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