完成した三日月型クッション 福祉用具と、固定概念の先に思うこと
タレント、アナウンサーとして活躍する“コマタエ”こと駒村多恵さんが、要介護5の実母との2人暮らしをつづります。ポジティブで明るいその考え方が、本人は無意識であるところに暮らしのヒントがあるようです。前回、体を支えるクッション作りに四苦八苦していたコマタエさん。オーダーメイド品がいよいよ完成。どんなアイデアだったのでしょうか。
深い! 福祉用具の世界(後編)
年々、自分で体を支えることが困難になってきた母。装具外来でオーダーメイドクッションという新しい知恵を授かり、左右の腰と車椅子との間にクッションを入れて随分まっすぐの状態を保てるようにはなったのですが(「深い! 福祉用具の世界・前編」を参照)、今度は前に倒れることが増えてきました。
そこで次に打った対策は、車椅子をヘッドレスト付きの「ティルト式」に変更すること。背面だけが倒れる「リクライニング式」と違って、背もたれと一緒に座面やフットレストも後ろに倒れるものです。
後ろに傾けている限りは頭が前に倒れるということは防げます。ただ、大きく後ろに倒したら、いつも斜め上の空を向いて足も上がっている状態になります。もう少し通常の座位に近い姿勢で、上半身が前に倒れてこないようにできないかと思案していました。
そんなある日、ショッピングセンターを歩いていたところ、通りかかったニトリの店頭ワゴンに目が留まりました。
三日月型クッション……これ、胸の前からはめたらどうだろう?
手に取ると、端と端をボタンで留められるようになっています。
胸の前からあてて背中で留めたら、体にあたる部分は柔らかく、シートベルトのようにホールドされるのではないだろうか。
早速、購入し、車椅子の背面でボタンを留めて使ってみると、ちょうどいい! 装具外来の先生やPTさんからも「これ、ちょうどいいんじゃないですか」と好評で、毎日愛用していました。ところが、母がちょっとずつ太ってきたのと、冬にダウンコートを着た上から無理やりボタンを留めていたらボタン部分が取れてしまい、使えなくなりました。
すぐに替わりを探したのですが、しっくりくるものが見つからない。すると、福祉用具製作所のかたが「こんなのありますよ」とチラシを見せてくれました。
三日月型クッションの両端にベルトがついていて、ベルトの先がウエストポーチのバックルのようにカチッとはまり、固定される仕組みの体幹保持クッション。ベルトはある程度、長さが調節できるので、ダウンコートであろうがノースリーブであろうが対応できそう。機能的に申し分ありません。
ただ……そのクッションはビビットな蛍光オレンジ一色で面積も大きいので、街を歩いていたら真っ先に目に飛び込んできそうな、相当なインパクト。
「もうちょっと可愛いデザインのものってないですかねぇ。例えば……こういう感じとか」
自宅で、膝の上に載せて肘を置く用に使っている三日月型クッションを見せながら、これにベルトがついてたらいいんですけどねぇと理想を呟くと--。
「そのクッションで作れますよ。ベルトとかパーツを用意してもらわないといけないですけど」
「え?そんなことが可能なんですか!?」
「はい、縫えばいいので」
「……なるほど」
実は、私は家庭科が大の苦手。編み物の宿題が出た際は、一段目で既に編み目がガタガタ。見かねた祖母が都度直してくれたのですが、完成したものは、もはや祖母の作品でした。
そんな訳で、縫うという手芸的な発想が全くなかった私は、自宅で使っている三日月型クッションの色違いをすぐにネットで発注し、東急ハンズでパーツを購入。福祉用具製作所に送付しました。
三週間後。届いた三日月型クッションは、体の固定も長さ調整も可能。肘を置いてリラックスもできて、母は快適な様子。何より可愛い! オーダーメイドだから高額になるかなと思いきや、材料費と工賃をあわせて、チラシに載っていた体幹保持クッション(蛍光オレンジ)の3分の2程度、むしろ安価でした。
福祉用具を自分好みにするなんてこれまで考えたこともなかったし、デザインは我慢することに慣れていました。でも本当は福祉用具も、機能的なのはもちろん気分が上がるデザインが当たり前に選べる世の中であるといいし、不自由を感じる人がたくさん我慢しなくてもいい世の中になるといいなと。
固定観念を取り払った先に快適が待っていることに気づき、強く思いました。
※次の回「突然の別れ 足がすくむ死の存在と、患者としての幸せ まぶたに浮かぶ……」を読む
※前の回「母を支える三日月クッション 紆余曲折、完成までの長い道のり」を読む