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子なし夫婦の近所づきあい 認知症の夫が暴言を吐き…【お悩み相談室】

散歩する夫婦、Getty Images
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介護支援専門員の須原智子さんが、認知症の様々な悩みに答えます。

Q.認知症の夫(80歳)と2人暮らしです。私たちは子どもがいないこともあり、なるべく近所付き合いをするようにしてきたのですが、最近夫が近所の人たちに暴言を吐くのです。私としては肩身がせまく、このまま住みづらいです(78歳・女性)

A.私が担当している認知症の利用者の中に、妻が近所の人たちと非常にうまくやっているケースがあります。その方の妻は、近所の人たちに「夫は認知症なのよ」と伝えて、夫の見守りなど、協力してもらっているのです。例えば、利用者は犬の散歩に1人で出かけるのですが、認知症なので道がわからなくなることがあります。そんなときでも近所の人が声をかけたり、妻に「あそこで見かけたよ」と伝えたりするので、利用者は迷子にならずにすんでいるのです。

相談者も、もともと近所付き合いをしてきているので、「認知症の影響で暴言を吐いてしまうのよ、ごめんなさいね。言われたことは気にしないで」とすべて打ち明けてしまうのがいいと思います。近所の人に愚痴をこぼせるような相手がいたら、夫の世話をするなかで大変なことなどを聞いてもらい、「あなたも大変ね」と言ってもらえるような環境をつくると、相談者も精神的にラクになると思います。

現在は「認知症」という病気については広く知られていますが、まだまだ理解が進んでいない部分があります。夫は認知症だからという理由だけで暴言を吐くのではなく、何か理由があって暴言を吐いていると思います。例えば「近所の人が自分のことを頭がおかしくなったという目で見ている」といった被害妄想や不安が強くあると、それが暴言という形で出てしまうこともあります。近所の人に同じ質問を何度もしてしまい、それを指摘されて怒ってしまうこともあります。

認知症の人の「もの忘れ」は、そうではない人の「もの忘れ」と違って体験した記憶ごとなくしてしまうので、指摘されても思い出せるわけではありません。こうしたことを理解していないと、適した対応ができず、本人の暴言につながるというのはよくあることです。

認知症の原因疾患が影響して、暴言を吐くことも考えられます。例えば「前頭側頭型認知症」の場合は、社会性が欠如したり、自分に抑制がきかなくなったりする症状が出ることがあります。「レビー小体型認知症」の場合は、幻視や幻聴などの症状が出やすく、他者から見るとおかしく見える言動をすることがあります。認知症の原因疾患を診断してもらっていない場合は、検査を受けて正しく診断してもらいましょう。認知症による症状はさまざまで、薬によって症状が落ち着くこともあります。気持ちを落ち着けるような薬もあるので、第三者への影響が強く出ている場合には、認知症の専門医とよく相談して、必要最小限の薬を利用するのも一つの方法です。

認知症は誰でもなる可能性がある病気ですし、理解を深めることは近所の人にとっても役立つと思います。相談者夫婦が「住みづらい」ということは、自分たちが認知症になったときにも「住みづらい」地域であるということ。近所の人たちにもそうしたことに気づいてもらい、協力しあって認知症の人も住みやすい地域にしていけるといいですね。

【まとめ】認知症の夫が近所の人に暴言を吐き、肩身がせまく住みづらいときには?

  • 夫が認知症であること、暴言は認知症の影響であることを近所の人たちに伝える
  • 主治医に相談し、認知症の原因疾患を特定できていなければ、検査を受けて診断してもらう

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