介護医療院とは? 役割、入所条件、費用、人員配置、メリット、デメリットまで
更新日 取材/中寺暁子
医療が必要な要介護者のための長期療養施設「介護医療院」。2018年の改正介護保険法で設置された、比較的新しい介護保険施設です。サービスの内容や入所の条件、費用、ほかの公的施設との違いなどについて専門家にうかがいました。
介護医療院について解説してくれたのは……
- 高室成幸(たかむろ・しげゆき)
- ケアタウン総合研究所代表
1958年京都生まれ。日本福祉大学社会福祉学部卒業。介護支援専門員や地域包括支援センター職員・施設の管理者層から民生児童委員まで幅広い層を対象に研修を行う。監修に『介護の「困った」「知りたい」がわかる本』(宝島社)、共著に『介護予防ケアプラン』(日総研出版)、著書に『地域ケア会議コーディネートブック』(第一法規出版)など多数。
介護医療院とは
医療提供施設としての役割をもちながら、生活施設としての役割も果たす介護医療院。長期療養のための医療が提供され、日常的に医学管理が必要な要介護者の受け入れを行い、介護及び機能訓練、そのほか必要な医療ならびに日常生活の世話、ターミナルケア、看取りを担います。介護保険が利用できる公的施設の1つで、2018年に施行された介護保険法の改正で、介護療養型医療施設の転換先として創設されました。利用対象は、日常的な医学管理が必要な要介護者です。
2種類ある介護医療院
介護医療院は、次に説明する人員基準から2つの種類に分かれ、かかる費用も異なります。また、これらとは別に「医療機関併設型」というタイプもあります。
介護医療院(Ⅰ型)
主な利用者は、重篤な身体疾患がある人、および身体合併症がある認知症高齢者です。入所者48人に対して医師(宿直)が1人、薬剤師は150人に対して1人、看護職員は6人に対して1人、介護職員は5人に対して1人と定められていて、手厚い医療や介護を受けられます。
※栄養士(管理栄養士含む)、介護支援専門員の人員配置はⅡ型と共通
介護医療院(Ⅱ型)
Ⅰ型に比べると、容体が比較的安定した利用者を対象としています。入所者100人に対して医師が1人、薬剤師は300人に対して1人、看護職員と介護職員は6人に対して1人と定められています。
医療機関併設型がある
居住部分に医療機関が外付けされているタイプもあり、医療機関の職員が兼務するなど、人員基準に違いがあります。
介護医療院の人員配置
介護施設は、質の高いサービスを提供するために人員配置基準が設けられています。
Ⅰ型とⅡ型体制の違い
介護医療院の施設設備
介護医療院は、医療や介護を提供しつつ、生活施設としての機能も併せ持つことから、施設基準が設けられています。
各施設設備の主な基準
各施設は原則として次の基準を満たしている必要があります。
介護医療院の利用対象者
介護医療院に入所するには、どのような条件が必要なのでしょうか。利用対象者について紹介します。
要介護1~5の65歳以上の人
要介護認定(要介護1~5)を受けた65歳以上の人で、日常的な医学管理や世話、看取り、ターミナルケアなどが必要な人です。
40~64歳でも特定疾病による要介護認定を受けていれば対象になる
40歳から64歳でも関節リウマチや認知症、末期のがんなど16の特定疾病による要介護認定を受けていて、日常的な医学管理や世話、看取り、ターミナルケアが必要な人は利用できます。
介護医療院のサービス
長期の療養を支える手厚い医療ケアと、日常生活を送るうえで必要な支援が中心です。多職種が連携して、利用者の生活をサポートします。
生活支援サービス
居室の掃除、洗濯、買い物といった生活支援サービスがありますが、受けられるサービスは施設によって異なります。
医療ケア
投薬や検査、喀たん吸引や経管栄養、点滴、ターミナルケア、看取り、リハビリテーションなどを行います。
介護サービス
食事や排せつ、入浴介助など日常生活に必要な介護のほか、レクリエーション活動などを行います。
利用費用
かかる費用は月額費用だけで、入居一時金などの初期費用は必要ありません。
介護サービス費用
利用にかかる費用は「施設サービス費」「居住費・食費」「日常生活費(理美容代など)」に分けられます。このうち、施設サービス費は介護保険を利用できるため、自己負担は原則1割、一定以上所得者の場合は2~3割です。
施設サービス費は、要介護度のほか施設の形態、居室の種類、職員の配置などによっても異なります。
介護医療院Ⅰ型の施設サービス費(1日につき、1割負担の場合)
介護医療院Ⅱ型の施設サービス費(1日につき、1割負担の場合)
※ユニット型とは少人数のグループを1つのユニットとしてケアする介護スタイルのことで、原則としておおむね10人以下。15人を超えません
※ユニットごとに常勤のユニットリーダーを配置しています
※昼間は1ユニットごとに常時1人以上、夜間は2ユニットごとに1人以上の介護職員または看護職員を配置しています
※居室タイプの詳しい説明はこちらにも
「老健」とは? 介護老人保健施設について専門家が詳しく解説します
食費と居住費については、施設によって費用に大きな差が出ないように、基準となる金額が定められています。
・食費の基準費用額
1445円(1日)
居住費の基準費用額
※介護報酬改定(2021年)(P141あたり)
加算項目
追加のサービスを受けた場合、施設サービス費に加算され、自己負担額が増えます。加算の対象となるのは、下記のような項目です。
- 初期加算(入所した日から30日以内の期間)
- 退所時指導等加算(入所者が退所する前に、退所後に生活する居宅を訪問し、本人や家族に退所後の療養上の指導を実施)
- 栄養マネジメント強化加算(入所者ごとの継続的な栄養管理を強化して実施)
- 経口移行加算・経口維持加算(経管で栄養摂取している入所者に対し、経口に移行するための計画を作成し、医師の指示を受けた管理栄養士などによる栄養管理や言語聴覚士などによる支援を実施)
- 口腔衛生管理加算(歯科衛生士が口腔衛生の管理を実施)
- 療養食加算(疾病治療の直接手段として、医師の指導に基づいた療養食を提供)
- 在宅復帰支援機能加算(入所者が在宅復帰する場合に、家族や指定居宅介護事業者との連絡調整を実施)
- 認知症専門ケア加算(専門的な認知症ケアを実施)
- 排せつ支援加算(排せつに関する支援を実施)
- 緊急時施設診療費(病状が著しく変化した場合に緊急的な治療を実施)
- 自立支援促進加算(継続的に入所者ごとの自立支援を実施)
- 長期療養生活移行加算(入所した日から起算して、90日以内の期間に限り、1日ごとに加算)
- 若年性認知症患者受入加算(若年性認知症の人に対してサービスを実施)
など。
利用費用/Aさんのケース
要介護5のAさんが介護医療院Ⅰ型のユニット型個室的多床室に30日間入所した場合の費用例(1割負担)
利用費用/Bさんのケース
要介護3のBさんが介護医療院Ⅱ型の多床室に30日間入所した場合の費用例(1割負担)
減免措置
食費や居住費に関しては、所得に応じて減免措置(特定入居者介護サービス費)が設けられています。所得によって段階的に負担限度額が設けられていて、負担限度額を超えた分が支給される仕組みです。制度を利用する際は、市区町村に申し込む必要があります。自治体によっては独自の減免措置を導入していることもあります。
利用の流れ
まず要介護1以上の認定を受けることが必要です。自宅で生活をしている場合は担当のケアマネジャー、入院中であれば病院の医療ソーシャルワーカーなどに相談すると、近くの介護医療院を探してもらえます。施設に連絡し、面談や主治医の診療情報提供書など必要書類の提出などを行い、審査のうえ入所可能と判定されたら契約します。要介護度が高いほど、受け入れられる傾向があります。
住んでいる地域に存在しない場合は?
介護医療院は、医療と介護が必要な人が急速に増えることを予測して新しく設置された施設です。このため、現状では施設数が少なく、住んでいる地域にないというケースが少なくありません。この場合は他県の施設でも利用は可能です。ただし、家族が面会に行きづらくなるので、入所については慎重に検討する必要があります。
他施設との比較
介護保険を利用できる公的な介護施設には、「特別養護老人ホーム(特養)」や「介護老人保健施設(老健)」もあります。役割や対象となる人はどのように違うのでしょうか。
特養との比較
自宅で生活するのが難しい人が介護を受けながら、長期的に生活することを目的とする部分は同じですが。しかし、介護医療院は日常的な医学管理が必要であることが条件です。特養の場合は医師が常駐しているわけではなく、重篤な身体疾患がある人は利用できません。また、要介護度の条件も異なり、特養の場合は原則要介護3以上であることが条件です。
老健との比較
どちらも要介護1以上であれば入所できます。大きな違いは、介護医療院は長期療養できる施設であるのに対して、老健は入所期間が原則3カ月で在宅復帰を目的としている点です。
特別養護老人ホーム(特養)や介護老人保健施設(老健)についてこちらにも
「老健」とは? 介護老人保健施設について専門家が詳しく解説します
介護医療院のメリット
介護療養型医療施設の受け皿として新たに誕生した介護医療院。メリットについて紹介します。
医療・リハビリが充実、ターミナルも対応可能
介護保険の1つである「介護療養型医療施設」は、長期療養を必要とする要介護者に対して、医学的管理のもとに介護や必要な医療を提供する役割がありましたが、2017年末に廃止が決まりました(全面廃止まで6年間の猶予あり)。介護医療院はその受け皿として誕生した施設のため、日常的な医学管理や看取り、ターミナルケアなど医療機能が充実しています。
看取りまでの長期的な入居も可能
介護医療院は、長期的に医療や介護が必要な人のための施設です。終末期の医療や看護、看取りまで対応可能です。
入院施設ではなく生活施設なので食堂やレクリエーションルームがある
従来の介護療養型医療施設との大きな違いは、生活施設の機能をより備えているということです。
介護医療院のデメリット
介護医療院のデメリットについて紹介します。
個室ではない場合はプライバシーの確保が難しい
多床室の場合は費用がおさえられますが、プライバシーの問題があります。家具やパーティションなどによる間仕切りの設置など、プライベートにどれだけ配慮した環境整備が行われているか、施設選びの重要なポイントです。
施設数が少ないため選択肢が少ない
介護医療院の数は全国で727施設(令和4年9月2日時点)。数が非常に少なく、数施設しかない県もあります。本人に合う施設を選ぶほど選択肢がないというのが現状です。
介護保険施設の中では費用が高い
介護医療院は手厚い医療ケアが受けられる分、ほかの介護保険施設に比べると費用が高くなる傾向があります。ただし、施設がある地域によって差(地域区分)があります。