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アンガーマネジメントから始まるケア

こころの安定を保つためのポイント 怒りをため込まないために五感への刺激を【アンガーマネジメントから始まるケア(9)】

アンガーマネジメントには、怒りが生じたときの対処のほか、怒りを生じにくくするためのトレーニングも含まれます。普段からストレスをため込む前に気分転換する方法を身につけておくことも大切です。今回は、怒っていないときに実践できる方法を、介護や医療のアンガーマネジメントに詳しい横浜市立大学医学部看護学科講師の田辺有理子さんと一緒に考えてみましょう。(なかまぁる編集部)

気持ちに余裕が生まれる所作

ここ数年、私は日々の生活の中で季節の移り変わりを意識して見つけるようにしています。例えば、近所の桜の木を時々見上げます。春に見られる満開の桜はもちろんですが、夏に青々と茂った葉からキラキラとこぼれる日差しや、秋に葉が染まる様子、そして、葉が落ちた冬の樹形もまた美しいと思います。通勤の途中にふと立ち止まって、ひとしきり見上げ、「きれいだなあ」と心の中でつぶやいて、それで満たされるのです。

  • 「風が冷たい」
  • 「空が青い」
  • 「雲が高い」
  • 「街路樹が色づいた」
  • 「花の香りがする」
  • 「落ち葉の舞う音がする」

こうした五感が働くことがたくさんあります。冬は乾いた落ち葉を踏む音や感触が好きで、歩道の端に寄ってたまっている落ち葉の上を歩いています。寒い日に霜柱を見つけたらテンションが上がります。人目を気にしつつ、こっそり踏みしめて足形をつけます。どれもありふれた日常ですが、ちょっと得した気分になります。実のところ、私は朝が苦手で、出勤時間もバタバタなのですが、立ち止まって木々を見上げて写真を撮ったとしても、ほんの数十秒のことです。この少しの時間で気持ちに余裕が生まれます。

ところが振り返ってみると、景色の変化を意識しないままに日が経ち、気づけばすっかり季節が変わっていたということがあります。仕事が立て込んで慌ただしく、同じように歩いているのに、考え事をしていて目の前の景色が目に入っていないのです。ふと「今日は風が冷たいな」と我に返ったのでした。

Getty Images

五感の刺激は気持ちを落ち着かせる

人は何かに気を取られていると、「今ここ」という感覚が鈍くなります。見方を変えると、いらだっていたり不安があったりして気持ちに余裕がないとき、自分の五感を働かせてみることは、「今ここ」に意識を戻すスイッチになります。それを日ごろから意識することで、気分が不安定なときの立て直しが早くなったように思います。何よりも毎日の景色が鮮やかに映るようになった気がするのです。

介護施設に入所している利用者や病院に入院中の患者は、身体の不調やさまざまな不安を抱えています。イライラしやすい、不安が強いとき、五感が刺激されることで気持ちを落ち着かせる効果があることは、利用者や患者にも言えることです。介護や医療に従事する人たちは、五感への刺激が大事だと分かっているけれど、普段あまり意識することはないかもしれません。

外に出よう、窓を開けよう

雪が降ったら「通勤が大変だ」と憂鬱(ゆううつ)になる人がいます。一方、子どものようにワクワクする人もいます。夏の暑さを不快と感じる人もいれば、かき氷がおいしい季節と捉える人もいるでしょう。また、天気にすら気づかない人がいます。介護施設や病院での比較的長期間の入所や入院では、建物の空調が管理されて快適な温度を保たれる反面、外気に触れる機会が少なくなり季節の感覚が鈍くなります。

外に出られない人がいると思いますが、少しの間でもいいので窓を開けて外気を取り込むと、季節を感じられます。窓を開けられない場合でも、カーテンを開けて外の景色が見えるようにすることができます。季節を話題にした会話、屋内の飾り、季節の行事食、旬の食材など、一工夫すれば、さまざまな五感の刺激があります。

上手に五感への刺激を活用して関わるためには、まず私たちが感性を高めることが大切です。暑い、寒いとイライラするより、思考を転換して四季を楽しんでみませんか。

次回は、「感情をリセットするスイッチ」をテーマに考えていきます。

【終了しました】田辺有理子さんを講師に招き、セミナーを開催します

なかまぁる編集部では、アラフィフや50代のLIFE SHIFT世代を対象にした「project50s」を始めました。コンテンツ&セミナーを基本とし、みなさんに満足度の高い情報をお届けします。

12月25日(日)には、田辺有理子さんを講師に招き、午前中は一般向け、午後は介護者向けの有料セミナーを開きます(申し込みは別)。詳しくは下記のバナーをクリックしてください。

◆午前セッション(https://project50s1seminar.peatix.com)

◆午後セッション(https://project50s2seminar.peatix.com)

田辺有理子(たなべ ゆりこ)
横浜市立大学医学部看護学科講師
精神看護専門看護師、保健師、精神保健福祉士、公認心理師
一般社団法人日本アンガーマネジメント協会アンガーマネジメントファシリテーター(R)
看護師として大学病院勤務を経て、2006年より大学教員として看護教育に携わり、2013年より現職。医療・介護・福祉分野を中心に、介護ストレス、虐待防止などに関して、アンガーマネジメントやメンタルヘルスなどの研修、情報発信を行っている。
単著「イライラとうまく付き合う介護職になる! アンガーマネジメントのすすめ」(中央法規出版,2016)、「イライラと賢くつきあい活気ある職場をつくる 介護リーダーのためのアンガーマネジメント活用法」(第一法規,2017)、「ナースのためのアンガーマネジメント 怒りに支配されない自分をつくる7つの視点」(メヂカルフレンド社,2018)、「怒った人に振り回されない自分をつくる ナースのためのアンガーマネジメント2」(メヂカルフレンド社,2022)、共著「精神に病をもつ人の看取り:その人らしさを支える手がかり」(精神看護出版,2021)、雑誌「介護人財」(日総研出版)で2021年5月から「ゆりこ先生のちょっとこころを軽くする話」を連載中。

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