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アンガーマネジメントから始まるケア

怒りのNGワード 責め立て追い詰めていませんか?【アンガーマネジメントから始まるケア(8)】

怒ったとき、無意識のうちに口癖になっている言葉がありませんか?

つい出てしまう口癖が相手を傷つけ、追い詰めてしまうことがあります。今回は言葉の使い方について、介護や医療のアンガーマネジメントに詳しい横浜市立大学医学部看護学科講師の田辺有理子さんと一緒に考えてみましょう。(なかまぁる編集部)

相手に自分の考えが伝わる怒り方

怒ったとき、「チッ」と舌打ちする人、「まったくもう!」などとつぶやく人がいるかもしれません。これが、誰か相手のいる場面だったらどうでしょう。あなたが何気なく発した一言が、相手を不快にさせたり、傷つけたりすることもあるので注意が必要です。

私たちが怒るとき、誰かに何かを伝えたい場合があります。伝えるというのは、感情に任せて怒鳴り散らしたり、相手を攻撃したりすることではありません。ところが、怒っているときには自分の発言が相手を傷つけ、追い詰めていることに自分では気づかないことがあります。

アンガーマネジメントは、怒るときには上手に怒ることを目指します。何に怒っているのか、どう変えて欲しいのか、それが相手に伝わることが重要だからです。

小さなミスが大きなミスにつながらないために

介護や医療現場では、医療安全の観点からミスが起きないように日々マニュアルや手順などの見直しを繰り返しています。しかし、それでもミスは起こります。どんなに慎重で注意深い人でも、人が関わる以上、必ずヒューマンエラーは発生します。ですから小さなミスが起きたら、それを分析してシステムを改善していくのです。

例えば、ダブルチェックは、複数の確認を経ることで見落としても別の人が確認してミスを防ぐものです。そうやって、ヒューマンエラーが大きなミスにならないように対策を重ねて、安全に利用者や患者に必要なケアや処置などが提供されてくものです。

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怒りのNGワード 「いつも~」「必ず~」

看護師のAさんは、薬の確認中に同僚のミスを発見しました。それ自体はチェック機能が働いているので悪いことではありません。でも、ときには「またBさんだ!」「この間、注意したばかりなのに」という思いが巡ることがあります。Aさんはイラッとしながら、同僚のBさんを呼びました。怒ったときに、こんな表現が口癖になっていたら要注意です。

  • いつも→「いつも同じ失敗を繰り返しているじゃない!」
  • 必ず、絶対→「複数の業務が重なると、必ず一つは忘れるよね」

これらは、一方的に悪い行動を繰り返すと決めつけてしまうので、怒っているときには避けたい表現です。言われた相手も「いつもじゃない」と反論したくなり、素直に注意を聞き入れられないかもしれません。

怒りのNGワード 「前から~」

  • 前から思っていた→「前から思っていたけど、仕事が雑なのよね」

怒ったときに、関連する出来事を思い出したり、便乗して言いたくなったりしても、過去を持ち出すことは控えましょう。本当に前から思っていたのなら、「そのときに言って」と思うのではないでしょうか。

「いつも」「必ず」と一まとめにしたり、「前から」と過去を持ち出したりせずに、今回の出来事に焦点をあてて話すように心がけましょう。

怒りのNGワード 「なんで~」

  • なんで?→「なんでできないの?」

「なんで?」と言うのは、相手を責めてしまうことがあります。「なんで?」は理由を問うようにみえて、「あり得ない」「うそでしょ?」というように出来事や相手を否定する意味を含んでいることがあります。「なんで?」と聞かれても答えようがないと、とりあえず謝るか、言い訳するか、反論するか、不毛なやりとりになるだけです。

しかし、ミスや事故が起きたら、その出来事を振り返って原因を探り、対策を講じて安全性を高めていくことが求められます。出来事を振り返る際、理由を探り分析する作業は不可欠です。本当に理由を探りたいときは、慎重に言葉を選んで「なんで」なのかを尋ねましょう。そのうえで、「なんでできないの?」を「どうすればできる?」に言い換えてみてください。

自己チェックしよう

怒ったときに注意が必要な口癖は、ビジネスの場面で管理職に対しても言えることです。部下に対して評価を下し、責め立て、追い詰めてしまう場合があります。

育児でイライラして、「なんでママの言うことを聞けないの!」「どうしてママを困らせるのよ!」と言ったところで、子どもにとっては全くそんなつもりがなかったり、お母さんに対するお試し行動だったりするわけです。

怒ったときに、つい出てしまう口癖があったら、それが相手を傷つけ、追い詰めていないか、いま一度自己チェックしてみましょう。

次回は、「こころの安定を保つためのポイント」をテーマに考えていきます。

【終了しました】田辺有理子さんを講師に招き、セミナーを開催します

なかまぁる編集部では、アラフィフや50代のLIFE SHIFT世代を対象にした「project50s」を始めました。コンテンツ&セミナーを基本とし、みなさんに満足度の高い情報をお届けします。

12月25日(日)には、田辺有理子さんを講師に招き、午前中は一般向け、午後は介護者向けの有料セミナーを開きます(申し込みは別)。詳しくは下記のバナーをクリックしてください。

◆午前セッション(https://project50s1seminar.peatix.com)

◆午後セッション(https://project50s2seminar.peatix.com)

田辺有理子(たなべ ゆりこ)
横浜市立大学医学部看護学科講師
精神看護専門看護師、保健師、精神保健福祉士、公認心理師
一般社団法人日本アンガーマネジメント協会アンガーマネジメントファシリテーター(R)
看護師として大学病院勤務を経て、2006年より大学教員として看護教育に携わり、2013年より現職。医療・介護・福祉分野を中心に、介護ストレス、虐待防止などに関して、アンガーマネジメントやメンタルヘルスなどの研修、情報発信を行っている。
単著「イライラとうまく付き合う介護職になる! アンガーマネジメントのすすめ」(中央法規出版,2016)、「イライラと賢くつきあい活気ある職場をつくる 介護リーダーのためのアンガーマネジメント活用法」(第一法規,2017)、「ナースのためのアンガーマネジメント 怒りに支配されない自分をつくる7つの視点」(メヂカルフレンド社,2018)、「怒った人に振り回されない自分をつくる ナースのためのアンガーマネジメント2」(メヂカルフレンド社,2022)、共著「精神に病をもつ人の看取り:その人らしさを支える手がかり」(精神看護出版,2021)、雑誌「介護人財」(日総研出版)で2021年5月から「ゆりこ先生のちょっとこころを軽くする話」を連載中。

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