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アンガーマネジメントから始まるケア

怒りの表現力 「ヤバい」のパターン、いくつ持っていますか?【アンガーマネジメントから始まるケア(7)】

「ヤバい」「うざい」「ムカつく」だけで、どこまで生活できますか?

怒りの感情には、強さの程度に幅がありますし、背後に別の感情が隠れていることがあります。スマートフォンで文章を入力する際の予測変換機能やSNSで感情を示すスタンプに慣れて、怒りの表現力が落ちてしまっていませんか? 介護や医療の職場も例外ではありません。アンガーマネジメントに詳しい横浜市立大学医学部看護学科講師の田辺有理子さんと一緒に考えてみましょう。(なかまぁる編集部)

「ヤバい」「うざい」「ムカつく」の3語で生活していませんか?

学生A:さっきは、まじヤバかった。

学生B:だね。あの人ヤバくない?

学生C:私、かなりヤバかった。

20歳前後の若者たちの間では、時々私には理解できない会話が飛び交っています。何が、誰が「ヤバい」のか、これを翻訳してみましょう。

学生A:さっきは、まじヤバかった。
→ さきほどの話し合いは、本当に勉強になったよね。

学生B:だね。あの人ヤバくない?
→ そうだね。今日の担当者さんは素晴らしい方だったと思わない?

学生C:私、かなりヤバかった。
→ 私、ご指導いただいた言葉に感動して泣きそうになっちゃった。

この会話は実際の場面でなく、最近よく耳にする学生の表現を組み合わせています。「このお菓子がすごく美味しい」「あの人がかっこいい」「(私が)感激した」など、ほとんどがこの一言で通じます。

もっと豊かに表現してみませんか

「ヤバい」は本来、危ない、あるいは悪事が暴かれそうになったときの表現ですが、最近は「すごい」や「魅力的」という意味も定着してきました。学生を指導する立場で聞くと、トラブルでも起きたのかと肝を冷やしますが、当人たちはいたって真面目に学びを分かち合っているのです。

良いことにも、悪いことにも、また出来事にも、他人にも、自分にも使えてしまう言葉は、考えようによっては便利です。一方で、同じ言葉を繰り返すだけで会話が成立するようになれば、表現力は低下します。座学では学べない現場での体験や悩み、感動を、もっと豊かに表現できないものかと、別の心配も出てきます。

Getty Images

予測変換機能でボキャブラリーが退化

日々言葉の意味が変化し、新しい言葉も生まれてきており、年末になれば「新語」「流行語」などのランキングを目にする機会もあります。文化庁が毎年実施している「国語に関する世論調査」によれば、情報の取得手段としてスマートフォンが増加しており、特に20代の情報源はテレビよりもスマートフォンのほうが高くなっています。

時代とともにコミュニケーションの方法も音声通話だけでなく、SNSやチャットなどでの短文やスタンプなどのやりとりに置き換わりつつあります。情報の取得が便利になる一方で、文章を入力する際の予測変換機能に慣れて、語彙(ボキャブラリー)が退化してしまうことが危惧されます。

これは、怒りの表現にも当てはまります。代表例は、「うざい」と「ムカつく」です。もともと日本語には怒りを表現する言葉がたくさんあります。怒りの感情には強さの程度に幅がありますし、背後に別の感情が隠れていることもあります。それを意識しないと、「うざい」と「ムカつく」に集約されてしまうのです。

◇参考:
「怒りの測り方」 (https://nakamaaru.asahi.com/article/14716120
「怒りの背後の感情」(https://nakamaaru.asahi.com/article/14716133

感情の抑圧を続けることが良いわけではない

時々「自分はあまり怒ったことがない」という人がいますが、実は怒りの感情に気づいていないこともありますし、うまく表現できていないこともあります。自分の感情を抑圧したままの状態が続くと、燃え尽きたり、言葉の代わりに暴力や攻撃性として表出したりする危険性があります。「心が折れる」とか「キレる」とか、そんな表現になるでしょうか。

怒りの感情にどのような表現があるのか、思い出してみてください。怒ったら「ブチ切れる」とか「激怒」など、レベルに応じて表現も変わります。「怒気(どき)」「憤怒(ふんど)」「憤激(ふんげき)」「激昂(げきこう)」「赫怒(かくど)」「逆上(ぎゃくじょう)」「逆鱗(げきりん)」。これらは、あまり使われなくなっているかもしれませんが、日本語の表現は非常に幅広いものます。

心地よい感情も嫌な感情も表現を工夫してみよう

日本語が良く出来ていると思うのは、怒りの表現には身体の変化を的確に捉えたものも多くあることです。「頭にくる」「腹を立てる」「ヘソを曲げる」「目くじらを立てる」「目を吊り上げる」「息巻く」「声を荒げる」「噛みつく」「怒りに震える」「つむじを曲げる」「ツノを出す」。身体の変化で怒りを表現する言葉は、まだまだあります。

怒ったときに、その内容、状況、程度などにぴったり合う表現を探してみて下さい。感情と上手に付き合っていくためには、心地よい感情も嫌な感情も含めて、自分の感情を認め、それを表現する語彙力を持つことが大切です。

SNSでの一言、スタンプでの感情表現に注意しよう

こうした怒りの表現力の問題は、若者の問題として片付けてはいけません。40代や50代の人たちも、使うシチュエーションが違ったとしても、便利なワードとして深く考えずについ使ってしまうことがあります。スマートフォンは若者だけのデバイスではありませんし、SNSも若者だけのアプリではありません。予測変換機能やスタンプは、年齢を問わず、広く、多様な用途で浸透しています。

みなさん、客観的に怒りと向き合えるように、注意しましょう。

次回は、「怒りのNGワード」をテーマに考えていきます。

【終了しました】田辺有理子さんを講師に招き、セミナーを開催します

なかまぁる編集部では、アラフィフや50代のLIFE SHIFT世代を対象にした「project50s」を始めました。コンテンツ&セミナーを基本とし、みなさんに満足度の高い情報をお届けします。

12月25日(日)には、田辺有理子さんを講師に招き、午前中は一般向け、午後は介護者向けの有料セミナーを開きます(申し込みは別)。詳しくは下記のバナーをクリックしてください。

◆午前セッション(https://project50s1seminar.peatix.com)

◆午後セッション(https://project50s2seminar.peatix.com)

田辺有理子(たなべ ゆりこ)
横浜市立大学医学部看護学科講師
精神看護専門看護師、保健師、精神保健福祉士、公認心理師
一般社団法人日本アンガーマネジメント協会アンガーマネジメントファシリテーター(R)
看護師として大学病院勤務を経て、2006年より大学教員として看護教育に携わり、2013年より現職。医療・介護・福祉分野を中心に、介護ストレス、虐待防止などに関して、アンガーマネジメントやメンタルヘルスなどの研修、情報発信を行っている。
単著「イライラとうまく付き合う介護職になる! アンガーマネジメントのすすめ」(中央法規出版,2016)、「イライラと賢くつきあい活気ある職場をつくる 介護リーダーのためのアンガーマネジメント活用法」(第一法規,2017)、「ナースのためのアンガーマネジメント 怒りに支配されない自分をつくる7つの視点」(メヂカルフレンド社,2018)、「怒った人に振り回されない自分をつくる ナースのためのアンガーマネジメント2」(メヂカルフレンド社,2022)、共著「精神に病をもつ人の看取り:その人らしさを支える手がかり」(精神看護出版,2021)、雑誌「介護人財」(日総研出版)で2021年5月から「ゆりこ先生のちょっとこころを軽くする話」を連載中。

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